【ピアノ】映画「噂の女」レビュー:ピアノ演奏の乱れが語る登場人物の行動

スポンサーリンク

【ピアノ】映画「噂の女」レビュー:ピアノ演奏の乱れが語る登場人物の行動

► はじめに

 

溝口健二監督の「噂の女(The Woman in the Rumor)」では、たった数秒のピアノ演奏の「乱れ」だけで、画面に映る前から観客に登場人物の行動を予測させる、洗練された演出が施されています。本記事では、この印象的なシーンを解説します。

 

・公開年:1954年(日本)
・監督:溝口健二
・ピアノ関連度:★☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

► 内容について(ネタバレあり)

 

以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はご注意ください。

 

‣ ドビュッシー「アラベスク第1番」が語る、登場人物の行動

 

本編終盤、登場人物の雪子と的場が接吻するシーンで、非常に印象的な音楽演出が用いられています。

 

注目すべきポイント:時系列「音の乱れ→状況予測→映像確認」

・二人の様子が画面に現れる前に、ピアノの音だけが聴こえてくる
・美しいドビュッシーの演奏が突然大きく乱れ、不協和音が響く
・この音の乱れだけで、観客は「何が起こったか」を察知できる
後に映像で二人の接吻の様子が現れ、映像でも状況説明される

 

映像としては「二人が居る部屋」をまだ映していない状態で、状況内音楽(ストーリー内で実際にその場で流れている音楽)としてドビュッシー「アラベスク 第1番」が聴こえてきます。雪子は「音楽学校でピアノを学んでいる」という設定なので、雪子が演奏していることは明らか。そして、その演奏は大きく乱れて不協和音が響きます。

ここまでの映画の内容を観てきて二人が親密になっていることを把握してさえいれば、「的場が雪子に迫ったんだろうな」と予測できるでしょう。

後に映像で二人の接吻の様子が現れますが、不協和音が響いた時点では「ピアノ音の乱れのみで、二人の状況を演出している」ことになります。映像と音楽の両方で状況説明をしていますが、「音楽→映像」の順番でずらして説明している点に着目しましょう。

 

► 同種の手法は、他の映画でも見られる

 

これと同種の演出手法は、ロマン・ポランスキー監督の「チャイナタウン」(1974年)など、他の名作映画でも効果的に使われています。優れた映画監督たちが音楽の力を理解し、活用していることが分かります。

 

► 終わりに

 

「噂の女」は、ピアノが主役の映画ではありませんが、音楽演出の観点からピアノを有効に活用した作品です。この作品に限らず、ある状況が説明される時に、映像だけで行われているのか、音楽のみで行われているのか、それとも両方で行われているのか、という観点を持って鑑賞してみると発見があるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 


 

► 関連コンテンツ

著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら

・お問い合わせ
お問い合わせはこちら

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました