【ピアノ】映画「不滅の恋 ベートーヴェン」レビュー:ピアノ視点から見る音楽表現

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【ピアノ】映画「不滅の恋 ベートーヴェン」レビュー:ピアノ視点から見る音楽表現

► はじめに

 

本記事では、1994年に公開された映画「不滅の恋 ベートーヴェン(Immortal Beloved)」を、特にピアノ音楽の使われ方に着目してレビューします。ベートーヴェンという音楽史上の巨匠を描いた本作は、ピアノに親しむ方にとっても見逃せない作品です。

本映画は、ベートーヴェンの死後に発見された「不滅の恋人」宛ての謎の手紙をめぐり、親友のアントン・シンドラーが宛先の女性を探し出す旅を描いた作品です。大作曲家の人生を通じて、彼が残した傑作の背景にある苦悩や情熱を垣間見ることができます。

 

・公開年:1994年(アメリカ)/ 1995年(日本)
・監督:バーナード・ローズ
音楽監督:ゲオルク・ショルティ
・ピアノ関連度:★★★☆☆

 

 

 

 

 

 

► 内容について(ネタバレあり)

 

以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はお気をつけください。本記事では、曲名は俗称を用いています。

 

‣ 独特の音楽演出:断片から紡ぐベートーヴェンの物語

 

本作の音楽演出の特徴は、音楽の使い方が物語構造そのものと呼応している点です。すでにこの作品を鑑賞した方の中には、音楽が「途中で中断され、また再開する」演出に違和感を覚えた方もいるのではないでしょうか。しかし、これこそが映画の核心に関わる重要な表現と言えます。

シンドラーが「不滅の恋人」を特定するために各候補者から証言を集めていくように、音楽も断片的に提示され、少しずつ全体像が明らかになっていきます。例えば、ジュリエッタの回想シーンで流れる「悲愴ソナタ 第1楽章」が中断され、のちに133小節目から再開されるのは、記憶の断片をつなぎ合わせる映画の語り口と関連性があります。

 

‣ 人物と音楽の対応関係

 

「不滅の恋人」の候補となる3人の女性それぞれに異なる音楽が割り当てられている点にも着目しましょう:

ジュリエッタ・グイチャルディ:ピアノソロ作品(「月光ソナタ」「悲愴ソナタ」など)
アンナ・マリー・エルデーティ:ヴァイオリン作品(「クロイツェルソナタ」など)
ヨハンナ・ヴァン・ベートーヴェン:第九を中心とした多様な作品

 

やや例外曲はあるのですが、明らかに意図して選曲の傾向を作っていることが分かります。ジュリエッタがピアノを弾くシーンもあり、人物との関連を持たせて使う音楽の種類が調整されていると考えられます。

 

‣ 難聴を表現する状況内音楽

 

「状況内音楽」(ストーリー内で実際にその場で流れている音楽)が、複数の視点から描かれている場面もあります。

ベートーヴェンの難聴の進行を表現する音響処理です。ベートーヴェンがコンサートで「皇帝協奏曲 第1楽章」を弾き振りしている場面では、はじめはオーケストラの音が通常通りに聴こえています(ベートーヴェン以外の人物の視点からの状況内音楽)。しかし、途中でボソボソとしか聴こえなくなります(難聴のベートーヴェンの視点からの状況内音楽への移行)。

さらに心に残るのは、甥のカールが「悲愴ソナタ 第2楽章」を弾くシーンです。弾いている映像が映し出されても全く無音になっており(より難聴が進行したベートーヴェンの視点からの状況内音楽)、その後、通常通り聴こえはじめます(カールの視点からの状況内音楽)。この演出は、難聴という音楽家にとっての悲劇を痛切に表現しています。

 

‣ 場面転換を彩る音楽の効果

 

音楽が場面転換のきっかけとして使われる手法も新鮮に感じるでしょう。

ジュリエッタのレッスンシーンでベートーヴェンが彼女の手を叩く瞬間に合わせて「英雄交響曲 第1楽章」が堂々と鳴り響き、一気に屋外シーンへ移行する演出があります。これは、場面転換を明確にする「きっかけ」を持たせる音楽の使い方であり、通常は、このきっかけに「アクセント」となる音楽や効果音がつきます。

全く別の気分で新たな場面が展開される、新鮮な音楽の用いられ方です。

 

‣ 鑑賞上の留意点

 

詳細は映画本編で確認して欲しいのですが、本映画の内容は、有力とされているベートーヴェンの音楽史の内容と異なる点もあります。あくまで映画として楽しむことを重視しましょう。また、本映画には感情表現が激しいシーンや緊張感のある場面が含まれているので、その点もご承知おきください。

本映画の中で使用された楽曲の一覧や演奏者情報は、エンドクレジットに表示されているので、興味のある方は確認してみてください。

 

► 終わりに

 

「不滅の恋 ベートーヴェン」は、浴びるようにベートーヴェンの音楽に触れられる一作です。一方、ただの楽曲紹介映画になっているわけではなく、上記のような細かな音楽の使い方の工夫が見られました。

ベートーヴェンを描いた他の映画作品についても本Webメディアではレビューしています。それぞれの描き方の違いを比較することで、より深い鑑賞体験が得られるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 


 

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