【ピアノ】映画「愛の調べ」レビュー:ピアノ的視点から見た魅力と楽曲の使われ方
► はじめに
映画「愛の調べ(Song of Love)」は、ロベルト・シューマン、クララ・シューマン、ブラームスという音楽史上の偉人たちの愛と音楽の交錯を描いた感動作です。
本記事では、ピアノ的視点から、この映画の魅力と特に注目すべき楽曲の使われ方について詳しく解説します。
・公開年:1947年(アメリカ)/ 1949年(日本)
・監督:クラレンス・ブラウン
・ピアノ関連度:★★★★★
► 内容について(ネタバレあり)
以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はお気をつけください。
‣ 全ての音楽が「状況内音楽」として描かれている
本作の最大の特徴は、全ての音楽が「状況内音楽」として描かれていることで、これにより音楽と映像が一体となった独特の表現を実現しています。
状況内音楽とは:
・ストーリーの中で実際に聴こえている音楽
・登場人物がピアノを弾いているシーンのBGMなど
‣ 状況内音楽による表現効果の実例
1. クララのコンサートシーン
クララが夫の楽曲「謝肉祭 Op.9」を演奏中、ステージ脇にいる実の子供が泣き始めるという状況で、彼女は音楽的判断を迫られます。早いところ母乳を飲ませないといけないので、「18. プロムナード」を省略し、さらに「20. ペリシテ人と戦うダヴィッド同盟の行進」を異常に速いテンポで弾く彼女の演奏は、観客をざわつかせました。これは状況内音楽だからこそ可能な、リアルタイムの演奏判断を描いた演出です。
2. ブラームスの子守歌
シューマン家に同居するブラームスが、自作の「子守歌 Op.49-4」を弾きながらシューマン夫妻の子供を寝かしつけるシーン。通常のBGM(状況外音楽)としてシーンにマッチする音楽を流すという選択肢もあるわけですが、あえて状況内音楽として生演奏にしたことで、そこに人と人との気持ちのやり取りが生まれています。
3. リストのメフィスト・ワルツ 第1番
リストの演奏中にピアノの弦が切れるという偶然が描かれていますが、これも、状況内音楽ならではの表現。音楽だけでなく、弦が切れる映像表現や、その時の切れる音なども全て含めての演出となっています。
4. シューマンとブラームスの複層的な音楽使用
シューマンが別室で「アラベスク Op.18」を演奏している音が、ブラームスがクララに想いを伝える際のBGMとなる皮肉な場面。この演出はやはり、状況内音楽ならではの表現と言えるでしょう。
‣「トロイメライ」が紡ぐ物語の軸
映画全体を通じて軸となるのが、シューマンの名曲「トロイメライ Op.15-7」です:
オープニング:クララの演奏会でのアンコール曲
中盤〜終盤:精神を病んだシューマンが「新作だ」と言ってクララに弾いて聴かせる(実際は彼の過去の作品)
エンディング:晩年のクララの演奏会でのアンコール曲
この楽曲の反復使用により、二人の愛の歴史と音楽への献身が時を超えて表現されています。
中盤で、リストが演奏するシューマン=リスト「献呈」に対して、クララは「愛の調べが、あれじゃ技巧に走り過ぎ」と発言します。つまり、「愛の調べ」という映画邦題は、「献呈」のことを言っていると考えることができます。一方、ストーリー全体を考えると、「トロイメライ」もそれと同等かそれ以上の重要な作品となっており、映画全体を総括した「愛の調べ」という邦題だと考えるのもいいでしょう。
‣ 音楽史的視点から見た留意点
詳細は映画本編で確認して欲しいのですが、本映画の内容は、有力とされているシューマンの音楽史の内容と異なる点もあります。その点に関して、本編のオープニング映像でも断り書きがテロップされます。あくまで映画として楽しむことを重視しましょう。
► 終わりに
「愛の調べ」は、ロマン派音楽の巨匠たちの人生を通じて、音楽の持つ力と美しさを描いた作品です。外的に付けられた音楽は一切登場せず、全曲を状況内音楽で構成するという手法により、音楽と映像が真に一体となった表現を実現しています。
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