【ピアノ】「ピアノ・ノート」レビュー:ローゼンが語る音楽の本質と演奏論
► はじめに
・出版社:みすず書房
・邦訳初版:2009年
・ページ数:本編 227ページ
・対象レベル:中級~上級者
著名なピアニスト兼音楽学者であるチャールズ・ローゼンによる「ピアノ・ノート」は、従来の技術指南書とは少し変わった、知的で深い視点に満ちた一冊です。
・ピアノ・ノート 新装版 著:チャールズ・ローゼン 訳:朝倉和子 / みすず書房
► 著者について
チャールズ・ローゼンは、著名なピアニストでありながら、フランス文学で博士号を取得し、複数の名門大学で教鞭を執った知性派アーティストです。全米図書賞を受賞した「The Classical Style」をはじめ、数々の重要な音楽書を著しています。
► 内容について
‣ 本書の特徴
本書の最大の特徴は、そのアプローチ方法にあります。技術指導はほとんどなく、体系的に何かの問題点を解決するタイプの書籍ではありません。読み物の形で、ある音楽のテーマについて著者が広く話題にし、その中で様々な音楽観や知識を提供していくスタイル。227ページにわたって展開される内容は、以下のような特徴を持ちます:
1. 幅広いテーマ設定
・身体と心の関係から始まり、音響学的な考察、音楽教育の現状、録音技術まで、多岐にわたるテーマを扱っている
・各章は独立していながらも、ピアノ音楽への深い理解という一本の糸で繋がれている
2. 深い視点
・作曲家たちの作曲過程についての興味深い考察(例:ハイドンやモーツァルトのピアノを使用した作曲など)を提供
・「音楽が音であると同時に身振りである」という指摘や、「ピアノを学ぶことは音楽史の発展をたどることである」という視点など、斬新な切り口で音楽を考察
3. 実践的な示唆
・美しい音色は「メロディの輪郭の描き方と、和声や対位法の組み立て方で決まる」という具体的な指摘
・座り方が作曲そのものにも影響を与えるという興味深い考察(ラヴェルの例)
‣ 重要な指摘の抜粋
本書の特筆すべき点は、ピアノという楽器を通じて音楽の本質に迫るアプローチです。著者は以下のような重要な指摘をしています:
・ピアノは音楽史の重要な発展を全て体験できる唯一の楽器である
・演奏者の身振りは演奏の重要な一部である
・ピアノの発明とともに、ダイナミックスの対比だけでなく、一つのダイナミック・レベルから別のレベルへのなだらかな移行という構造的な用法が始まった
► おすすめの読者層
本書は以下のような方々に特におすすめです:
・中級~上級レベルの学習者
・音楽理論や音楽史に興味のある方
・ピアノ演奏を深い次元で理解したい方
・音楽文化全般に関心のある方
► 結論
「ピアノ・ノート」は、技術指南書ではなく、ピアノ音楽の本質に迫る知的な探求の書です。著者の深い知識と視点は、読者に新しい気づきを与えてくれます。総合的な音楽への理解を深めたい方にとって、本書は貴重な資料となるでしょう。
一般的なハウツー本を求める方には向きませんが、音楽的な視野を広げたい方には、新しい発見をもたらしてくれる一冊です。
・ピアノ・ノート 新装版 著:チャールズ・ローゼン 訳:朝倉和子 / みすず書房
► 関連コンテンツ
コメント