【ピアノ】コルトー「ピアノ演奏解釈」レビュー:感情表現と楽曲理解の探求
► はじめに
本書「ピアノ演奏解釈」は、20世紀を代表するピアニスト、アルフレッド・コルトーによる演奏解釈と音楽理解についての貴重な知見が詰まった一冊です。
・出版社:ムジカノーヴァ
・邦訳初版:1983年
・ページ数:本編 305ページ
・対象レベル:中級~上級者
・アルフレッド コルトー ピアノ演奏解釈 著:アルフレッド・コルトー 編集:ジャンヌ・ティエフリー 訳:店村 新次 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の構成と特徴
本書は、1982年から1983年にかけて雑誌「ムジカノーヴァ」に連載された内容を中心に、未収録の文章も加えて一冊にまとめられています。全体は大きく以下のセクションで構成されています:
1. ピアノ演奏論(総論)
2. 各楽曲の具体的な解釈と演奏法
一曲に対する記述量はあまり多くありませんが、解釈面での演奏指南に留まらず、各楽曲の歴史的背景や音楽的文脈を解説している点が特徴です。
‣ コルトーの音楽教育哲学
本書で特に印象的なのは、コルトーが生徒に求めた楽曲理解の方法論です。彼は以下の8つの観点から楽曲を徹底的に研究することを推奨しています:
1. 作曲者の氏名、誕生と他界の年月日、ならびにその土地
2. 作曲者の国籍
3. 作品の標題、作品番号と献辞
4. 制作に影響を及ぼしたもろもろの状況、作曲者が入れた指示
5. 構想(形式、テンポ、調性)
6. 目立った特徴(和声的分析、受けた影響、類似性、系統づけ)
7. 作品の性格と意味(演奏者の評価に基づく)
8. 美学的、技術的註釈、研究と演奏のための注意事項
(抜粋終わり)
しかし、コルトーはこれらの客観的な情報収集だけでは不十分だと考えていました。
提出していただいた解題は、みたたいへん行き届いたものでした。ただ全体としてそれらが、個人的感情よりは文献踏査のほうに重きをおいているのが、私には残念に思います。
(抜粋終わり)
‣ 感情と解釈の重要性
コルトーの教えの核心は、以下の3つの考えに集約されます:
1. 音楽は伝染力をもつもの:
「音楽は危険にして崇高な、伝染力を持つものでなければならない」というコルトーの言葉は、音楽の本質的な力を端的に表現しています。
2. 解釈とは再創造である:
単なる楽譜の機械的な再現ではなく、作品を自分の中で「再創造」することの重要性を説いています。
3. 感情の発見と伝達:
作曲家の意図した感情を発見し、それを聴衆に伝えることが演奏家の使命だとコルトーは考えていました。
► 対象読者
本書は以下のような方々に特に有益でしょう:
・中級以上のピアノ学習者
・音楽教育者
・演奏解釈に悩む学習者
・音楽史や演奏論に興味がある方
特に「ピアノ演奏論」の章は、演奏に対するコルトーの哲学が凝縮されており、必読と言えます。その後の「各楽曲の具体的な解釈と演奏法」については、自身が取り組む作品に応じて、その都度書籍を開き直すのがいいでしょう。
► まとめ
テクニックの向上や楽譜の正確な再現に重きが置かれがちなピアノ学習において、本書が説く「感情の理解と伝達」という視点は、極めて重要なヒントを与えてくれます。
コルトーは、演奏者に対して、楽曲の徹底的な研究と同時に、その作品に込められた感情の理解を求めました。この「知性と感性の調和」という考えは、今日でも理想的な学習として捉えることができます。
・アルフレッド コルトー ピアノ演奏解釈 著:アルフレッド・コルトー 編集:ジャンヌ・ティエフリー 訳:店村 新次 / 音楽之友社
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