【ピアノ】ジョージ・コチェヴィッキー「ピアノ演奏技法」レビュー
► はじめに
ジョージ・コチェヴィッキー著「ピアノ演奏技法」は、93ページの比較的コンパクトな書籍ですが、内容は従来のピアノ教則本とは一線を画する革新的なものです。
・出版社:全音楽譜出版社
・邦訳初版:1977年
・ページ数:93ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアノ演奏技法 著:ジョージ・コチェヴィッキー 訳:黒川武 / サミーミュージック
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 科学的アプローチによる演奏技法の解明
本書の最大の特徴は、ピアノ演奏を単純な指の訓練や筋肉の問題としてではなく、中枢神経系の働きという観点から科学的に分析している点です。
2. 従来の多くの教則本と異なる観点
本書では、以下のような見解が示されています:
・筋肉の発達よりも脳の変化の方が重要
・過度の筋肉運動は敏捷性の獲得を妨げる
・柔らかい弱音は手首の弱さで出されるのではなく、キーの下降の遅さで作られる
・練習は主として中枢神経系を訓練するプロセス
3. 実践的な問題解決アプローチ
本書は理論だけでなく、具体的な演奏上の問題に対する解決策も提示しています:
・スケールやトリルが上手く弾けない場合は、アクセントのタイミングを確認する
・部分的には速く弾けても全体が繋がらない場合、それは運動能力の問題ではない
・問題解決には、まず欠陥に気付き、次にその原因を認識する必要がある
‣ 本書の構成と内容
第1部:歴史的考察
ピアノ技法の理論の歴史を丹念に追い、従来の「指だけの技法」から、腕の使用、そして頭脳の役割の認識へと発展していく過程を解説しています。
第2部:科学的基礎
中枢神経系の構造と働きについて詳しく解説し、条件反射や神経プロセスがピアノ演奏にどのように関わっているかを説明しています。
第3部:実践的応用
実際のピアノ演奏における諸問題とその解決方法について、科学的知見に基づいた具体的なアプローチを提示しています。
‣ 特に注目すべきトピック
1. 緊張と精神活動の関係
スタニスラフスキーの実験を引用し、筋肉の過度の緊張が精神活動全体を妨げることを実証的に示しています。これは演奏時の余計な力みを避けることの重要性を科学的に裏付けています。
2. タイミングの重要性
技術的な問題の多くは、単なる動きの問題ではなく、タイミングの問題であることを指摘しています。これは認知と意志の産物であり、中枢神経系の働きが重要であることを示しています。
3. 練習の本質
練習とは単なる筋肉運動の繰り返しではなく、肉体的体験を心理的プロセスとして研究し、調整していく行為であると定義しています。
‣ 現代の学習者への教え
1. 効率的な練習方法
・闇雲な繰り返しではなく、中枢神経系の働きを意識した練習が重要
・過度の筋肉運動を避け、必要最小限の力で演奏することを目指す
2. 問題解決のアプローチ
・技術的な問題が生じた際は、まず原因の特定から始める
・タイミングや認知の問題として捉え直してみる
3. 演奏不安への対処
・初心者の「あがり」と熟達者の「あがり」は本質的に異なる
・過度の緊張は精神活動を妨げることを理解し、適度なリラックスを心がける
► 結論
本書は、科学的な知見に基づいてピアノ演奏の本質に迫る教則本です。93ページという比較的コンパクトな分量ながら、従来の常識を覆す多くの発見と、実践的な問題解決のヒントに満ちています。
特に、中枢神経系の働きに着目した演奏技法の解説は、独学で学ぶ学習者にとって練習方法を見直すきっかけとなるでしょう。
・ピアノ演奏技法 著:ジョージ・コチェヴィッキー 訳:黒川 武 / サミーミュージック
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