【ピアノ】ライマー=ギーゼキング「現代ピアノ演奏法」レビュー:100年前からの学び
► はじめに
20世紀を代表するピアニスト、ヴァルター・ギーゼキングとその師匠カール・ライマーによる本書は、100年近く前に書かれた本でありながら、現代のピアノ学習者にとっても非常に示唆に富む内容となっています。
・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:1967年
・ページ数:本編163ページ
・対象レベル:中級~上級者
・現代ピアノ演奏法 著:ライマー=ギーゼキング 訳:井口秋子 / 音楽之友社
► 著者について
本書は、カール・ライマーとその弟子ヴァルター・ギーゼキングの共著となっていますが、実際の文章はライマーの視点で書かれています。ギーゼキングは序文で、「ピアニストとして立つにあたって、そのいっさいをわたくしは先生に負っている」と述べており、師弟の深い信頼関係が垣間見えます。
► 内容について
‣ 本書の核となる考え方
1. 自己制御と集中力の重要性
本書で強調されているのが、「自己制御」の概念です。特に以下の点が重視されています:
・自分の演奏に常に耳を傾けること
・楽譜の一つ一つに頭と耳を集中させること
・暗譜を済ませることで、より深い集中力を養うこと
集中に対して前提条件となるものは、暗譜でひくことである。
(抜粋終わり)
2. 技術的完成度への追求
技術的な完成度について以下のような考えを示しています:
・全ての部分を技術的に完全にマスターすることの必要性
・必要最小限の動きで演奏することの重要性
ピアノ奏者の、もともとやさしくはない弾奏を、不必要な運動によっていっそうむずかしくすべきでないことは、いうまでもないことである。
(抜粋終わり)
3. リズムと正確さへのこだわり
本書では、リズムの重要性も強調されています:
・演奏の誤りの約90%はリズムに関連している
・正確なリズム感は厳格な自己制御によってのみ達成される
・音符や休符の正確な価値を守ることの重要性
犯されるすべてのあやまちのおよそ90パーセントは、リズム的なものであり、しかも音符価値または休止符が、正確にその価値どおりに奏出されなかったためのあやまちである。
(抜粋終わり)
‣ 現代の学習者への教え
丁寧な練習の重要性:
本書が強調する「ある楽曲の全ての部分を、微に入り細にわたって究め尽すこと」という考えは、今日でも非常に重要です。特に独学で学ぶ方々にとって、以下の点は心に留めておくべきでしょう:
・一つの曲を「仕上げた」と思える段階が、実は本当の学びの始まり
・細部への注意が最大の進歩をもたらす
・新しい曲へ急いで移るのではなく、現在の曲を深く掘り下げることの重要性
教師の役割と独学者への助言:
本書では、教師の役割について「生徒に繰り返し繰り返し正当な進路を指示し、横道にそれることのないよう配慮する」と述べています。独学者の方々は、この点を意識して:
・自分の練習を客観的に評価する習慣をつける
・録音を活用して自己フィードバックを行う
・定期的に自分の進歩を見直す
► まとめ
100年近く前に書かれた本書ですが、その本質的な教えは現代にも通用します。特に:
・自己制御と集中力の重要性
・技術的完成度への追求
・リズムと正確さへのこだわり
これらの点は、現代のピアノ学習において依然として核となる要素。本書は、技術のみでなく、音楽に対する態度、学習への深い視点、そして芸術としてのピアノ演奏の本質を教えてくれます。
・現代ピアノ演奏法 著:ライマー=ギーゼキング 訳:井口秋子 / 音楽之友社
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