【ピアノ】ヨーゼフ・ガート「ピアノ演奏のテクニック」レビュー:20年の研究が詰まった集大成
► はじめに
独学でピアノを学ぶ方にとって、良質な教材との出会いは非常に重要です。今回紹介する「ピアノ演奏のテクニック」は、著者のヨーゼフ・ガートが20年もの歳月をかけて執筆した、集大成とも言える一冊です。
・出版社:音楽之友社
・邦訳初版:1974年
・ページ数:302ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアノ演奏のテクニック 著:ヨーゼフ・ガート 訳:大宮真琴 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の特徴
1. 科学的アプローチ
本書の最大の特徴は、生理学的・解剖学的な観点からピアノ演奏を解説している点です。単なる「こうすべき」という指示だけでなく、「なぜそうするのか」という理論的背景まで深く掘り下げられています。
2. 豊富な視覚資料
巨匠ピアニストの演奏写真が多数掲載されているのも本書の魅力です。これらの写真は単なる装飾ではなく、正しい姿勢や手の形を学ぶための貴重な教材となっています。
3. 体系的な構成
基本的な打鍵の仕方から、高度なテクニックまで、26章にわたって体系的に解説されています。特に以下の点が印象的です:
・打鍵の基本原理と音色の関係
・正しい姿勢と椅子の位置の重要性
・レガートとスタッカートの詳細な解説
・指のテクニックと運動メカニズム
・練習方法の具体的な提案
‣ 印象的な指摘とアドバイス
音作りへの姿勢:
著者は「ピアニストは鍵盤を弾くのではなく、鍵盤のたすけによって、弦を弾くのである」と述べています。この一文は、ピアノ演奏の本質を言い表しています。
練習に関する洞察:
・「反復が効果をうむのは、注意力を弱めないという限度内においてである」
・「感情内容をそこなわずに反復をおこなう唯一の方法は、1回1回の反復によって曲の本質をもっと深く掘り下げるようにつとめることしかない」
これらの指摘は、ただ機械的に繰り返すのではなく、意識的な練習の重要性を強調しています。
技術面での特徴的な解説:
例えば、親指を使用しない古い奏法がとられていた訳について、以下の3つの理由を挙げています:
① クラヴィコードの繊細な音が拇指(親指)を充分に用いることを許さず、音階の場合に拇指を下越させると美しい音色を得るのがひじょうに困難だったから
② チェンバロやオルガンの上部鍵盤での拇指の使用は、演奏者の腕に高いポジションを強制するため、不都合であったから
③ 昔の楽器の鍵盤は幅が狭かったので、下部鍵盤でも拇指を使用する余地がなかったから
(抜粋終わり)
► 活用のヒント
本書は非常に詳細で学術的な内容を含んでいますが、以下の点に注意して活用することをおすすめします:
1. 序章から順番に読む必要はありません。現在の課題に関連する章から読み始めてください。
2. 実践と理論を結びつけながら読むことが重要です。本書の説明を読んだら、必ずピアノの前で試してみましょう。
3. 特に以下の章は独学者にとって特に有用です:
・第4章:椅子と姿勢
・第8章:練習
・第9章:遅い演奏のゆっくりした練習
・第26章:初歩者にテクニックの問題点を教える際の注意事項
► まとめ
本書は特に、実践的なアドバイスと理論的な裏付けの両方が提供されている点が、独学者にとって心強い特徴です。ただし、内容が高度なため、「ツェルニー40番中盤~」を目安とし、ある程度の演奏経験を積んでから手に取ることをおすすめします。
本書は31cmという大判で、紙質も良く、写真や譜例が見やすいという実用面での利点もあります。独学でピアノを学ぶ方の参考図書として、おすすめできる一冊です。
・ピアノ演奏のテクニック ヨーゼフ・ガート (著)、大宮 真琴 (翻訳) 音楽之友社
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