【ピアノ】J.S.バッハのメヌエットにおけるメロディの転用と構造分析
► はじめに
本記事では、「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳」から2つのメヌエットを取り上げ、特に「同じメロディが異なる文脈で現れる手法」に着目して分析を行います。この分析を通じて、バッハの作曲技法の一端を理解し、演奏解釈にも活かせる視点を提供します。
► メロディの転用と構造分析
‣ メヌエット BWV Anh.114 の場合
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 メヌエット BWV Anh.114」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、13-32小節)
主要な動機的特徴:
1. 21-23小節の動機(第1の提示)
・順次進行を基本とする
・「8分音符 → 4分音符」のリズムパターンを明確に示す
・属調(D-dur)の文脈で提示
2. 29-31小節の動機(第2の提示)
・同じメロディが異なる部位に配置(同じ部位に同型反復で出てくるのとは全く意味が異なる)
・主調(G-dur)の文脈で現れる
・左手パートの差によるニュアンスの変化
構造的意義:
・調性の違いを活かした色彩的変化
・両者ともにカデンツの前という対応部分に使われている
・形式的な統一感の創出
‣ メヌエット BWV Anh.116 の場合
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 メヌエット BWV Anh.116」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
主要な動機的特徴:
1. 7-8小節の動機(第1の提示)
・順次進行を基本とする
・1-8小節のセクション終結部に位置
2. 31-32小節の動機(第2の提示)
・同じメロディが異なる部位に配置(同じ部位に同型反復で出てくるのとは全く意味が異なる)
・同じ調性での使用
・左手パートの差によるニュアンスの変化
・全体の終結部(33-40小節)へ向かう推進力として機能
構造的意義:
・形式的な対称性の確立
・両者ともに主要テーマに戻る直前という対応部分に使われている
・全体構造の統一感の強化
► まとめ
同じメロディを異なる文脈で用いることで、統一感と変化の両立を実現し、形式的な完成度を高めています。
これらの分析視点は、他の作品を理解する際にも応用可能です。また、演奏時には以下の点に特に注意を払うことで、より深い解釈が可能となります:
・動機の現れる文脈の違いを意識する
・調性や別パートの差による色彩の変化を感じる
発展的な学習のために:
本分析で得られた視点を、以下のような方向に発展させることができます:
・他のバロック期の舞曲におけるメロディの扱いとの比較
・より複雑な形式におけるメロディ操作の観察
・演奏解釈への具体的な応用方法の探究
【おすすめ参考文献】
本記事で扱った、J.S.バッハ「メヌエット BWV Anh.114・115」について学びを深めたい方へ
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【J.S.バッハ メヌエット BWV Anh.114・115】徹底分析
本記事で扱った、J.S.バッハ「メヌエット BWV Anh.116」について学びを深めたい方へ
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【J.S.バッハ メヌエット BWV Anh.116】徹底分析
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