【ピアノ】「単音×2」の線的書法の分析入門:和声的な多義性を探る
►「単音×2」の書法とは
バロック期の作品において頻出する「単音からなるパート×2」による線的書法。音楽を水平方向に扱うこの書法は、垂直方向に和音の構成音を全て同時に鳴らすのではなく、時間的に分散させて提示する手法です。
本記事では、この書法がもたらす和声的な多義性と、その音楽的効果について分析していきます。
「単音×2」書法の特徴:
・和音構成音の時間的分散提示
・線的な音楽展開の実現
・和声解釈の多義性の創出
► 実例分析:C.P.E.バッハ「行進曲 BWV Anh.122」
‣ ①部分の分析(14小節目)
C.P.E.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 行進曲 BWV Anh.122」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、10-17小節)
和声解釈の二重性:ⅠとⅥの可能性
・G-durのトニック領域での展開
– Ⅰの和音として
– Ⅵの和音の第一転回形として
①の部分では、部分転調(調性の拡大)で、G-durのトニックに来ています。Ⅰに聴こえるという方が多いと思いますが、中にはⅥの第一転回形に聴こえるという方もいるのではないでしょうか。
この作品は2/2拍子ですが、4/4の拍子の4分音符単位で考えると、丸印で示したような4分音符毎の音というのは、拍頭の音。拍頭の音というのは聴き手に認識されやすいので、和音構成音として聴く傾向があります。したがって、「Si Mi So」を認識し、Ⅵの第一転回形に聴こえる可能性があるのです。
和音チェンジした瞬間に和音構成音の全てを鳴らすことができない「単音×2」の書法だからこそ、このような数パターンの聴き方の面白みを感じることができるわけです。
‣ ②部分の分析(16小節目)
(再掲)
和声進行の時間的展開:後出の音による和声解釈の変更
・h-mollへの部分転調
・和声解釈の変遷過程
– 初聴時:h-mollのⅠとして知覚
– G音出現後:Ⅵとしての知覚
①と似ているようで異なる表現がとられているのが、②の部分。この部分では、部分転調(調性の拡大)で、h-mollのトニックに来ています。
少し前から弾き進めて来て、16小節目のはじめの音(②の部分)を弾いたら止まってみてください。h-mollのⅠに聴こえるはず。しかし、次のG音が出てくることで、実はⅥだったことが後から説明されるわけです。
やはり、「単音×2」の書法だからこそ、このような数パターンの聴き方の面白みを感じることができるわけです。
► 分析的考察:書法の音楽的効果
「単音×2」の書法がもたらす主な音楽的効果:
・和声的な多義性の創出による聴取体験の深化
・線的な音楽展開による声部進行の明確化
・時間軸に沿った和声解釈の変容可能性
► 応用分析への展望
本分析で得られた知見は、以下の作品群の分析にも応用可能です:
・「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻」所収の他の作品
・J.S.バッハ「2声のインヴェンション」全曲
・他のバロック期の2声書法による作品群
【関連記事】
▶︎ 楽曲分析を体系的に学びたい方はこちら
楽曲分析学習パス
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
・SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら
コメント