【ピアノ】模倣技法の楽曲分析入門:見せかけの模倣の見つけ方
► はじめに
模倣技法は西洋音楽の重要な作曲技法の一つ。
本記事では、特に「見せかけの模倣」という技法に焦点を当て、その見分け方と演奏への活かし方を解説します。
► 実例による分析
‣ C.P.E.バッハの場合
C.P.E.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 行進曲 BWV Anh.122」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、10-17小節)
分析ポイント:
1. 「Fa Re」について
・右手メロディでの提示
・左手での部分的引用
2. 模倣の効果的な配置
・散発的な使用による新鮮さの維持
・主旋律との関係性
カギマークで示した部分を見てみると、「Fa Re」というメロディの断片が左手パートでも引用されています。わずかな引用なので、「見せかけの模倣」と呼ぶことにしましょう。
譜例全体の中で、見せかけの模倣が出てきているのはこの部分のみ。これがポイントで、見せかけの模倣というのは多過ぎても魅力が無く、時々さりげなく出てくるからこそ活きるのです。
演奏上の注意点:
・見せかけの模倣部分を特別に強調する必要はない
・主役である直前のメロディの「Fa Re」よりも目立たないように弾く
・それぞれの「Fa Re」のニュアンスを揃える
‣ シューマンの場合
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-5 小曲」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-4小節)
技法的特徴:
1. 「Mi Fa」について
・10度の平行進行による自然な模倣
・和声的必然性との関係
2. 教育的意義
・対位法的な思考の入門として
・和声感覚の養成への活用
カギマークで示した部分を見てみると、「Mi Fa」というメロディの断片が左手パートでも引用されています。
ただし、曲頭からメロディとの10度音程によるハモリが作られた結果、左手パートに「Mi Fa」が生まれたわけなので、シューマンの確信犯的書法なのか、偶然そうなったのかは何とも言えないところです。
► 分析の手順
Step 1:メロディの特定
・主旋律の把握
・特徴的な音型の抽出
Step 2:模倣要素の探索
・類似する音型の発見
・変形された引用の確認
Step 3:構造的な理解
・全体における配置
・調性との関係
► 終わりに
本記事では、メロディの部分的な追っかけという、比較的シンプルな模倣技法に焦点を当てて分析を行いました。この技法は、厳格な対位法やカノンのような本格的な模倣技法の入門として位置づけられ、初期の楽曲分析学習において重要な観察ポイントとなります。
より発展的な模倣技法(カノンなど)に興味がある方は、以下の記事を参考にしてください:
【関連記事】
▶︎ 楽曲分析を体系的に学びたい方はこちら
楽曲分析学習パス
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
・SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら
コメント