【ピアノ】ラヴェル作品の演奏ポイント解説集:譜例付き実践ガイド
► はじめに
本記事では、ラヴェルのピアノ作品における実践的な演奏アドバイスをまとめています。各曲の重要なポイントを、譜例とともに具体的に解説していきます。
この記事は随時更新され、新しい作品や演奏のヒントが追加されていく予定です。
► ピアノ独奏作品
‣ 亡き王女のためのパヴァーヌ
曲の特徴と演奏のポイント
1899年作曲、ラヴェル24歳の作品。ベラスケスの若い王女の肖像画からインスピレーションを得た、哀愁を帯びた美しい小品です。ツェルニー30番修了程度から挑戦できますが、以下の点で高度な音楽性が求められます:
・多声部の繊細なバランスコントロール
・ppp から ff までの幅広いダイナミクスレンジ、特に弱音の表現
・淡々と進む伴奏を縦割りにせず、横への流れを保つこと
・装飾音やロングアルペッジョで音楽の流れを止めないこと
主な学習ポイント:
・ラヴェル自身によるオーケストラ版を参照して、各声部の音色イメージをつかむ
・内声の「隠れたライン」を一本の線として聴かせる
・ABACA構成における各Aセクションの変奏の違いを弾き分ける
詳細な解説記事はこちら → 【ピアノ】ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」演奏完全ガイド
‣ 水の戯れ
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、18-19小節)

19小節目からの上段を見たときに、どうやって演奏するのか迷いませんでしたか。
18小節目に書き込んだ運指のように「A・H」の長2度音程を「親指1本」で弾きます。そうすることで、「E・Fis」を「2の指・3の指」、「A・H」を「4の指・5の指」というように分担可能。
親指というのは、側面を使うことで2つの鍵盤を同時打鍵するのに適している指です。指が足りなくて弾けなさそうなパッセージでは、一つの指で2音同時に押さえられないかを疑ってみてください。
‣ ソナチネ 嬰ヘ短調 M. 40
· 第1楽章
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、11小節目)

カッコ付きデクレッシェンドの松葉を書き込みましたが、このように「1拍ごとにおさめていくニュアンス」をつけるといいでしょう。フレーズ線はきちんとそのように書かれています。
丸印で示した音は、次の音への跳躍があるので大きく飛び出てしまいがち。丁寧に音色をつくりましょう。
ここでのアルペッジョは、両手同時に始めるのではなく「両手に渡るロングアルペッジョ」です。ゆっくり過ぎると拍の感覚が曖昧になってしまうので、素早く入れましょう。
· 第2楽章
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、6-12小節)

水色ラインで示したところは、「2度音程でのぶつかり」が「3度音程」へ開いて解決しています。こういった箇所では、「後ろの音(解決音)」のほうが控えめに聴こえるように演奏するのが音楽的です。
「2度音程でのぶつかり」という「緊張」が「3度音程」に開くことで解放されますが、ラヴェルはこの表現を得るために確信犯的にわざと2度の不協和音程を作っています。
· 第3楽章
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、159-163小節)

162-163小節目では、2小節を3等分するリズムがとられています(縮節)。
一方、47-52小節目やその他で出てきたときと異なっているのは、”左手も”「2小節を3等分するリズム」になっているというところであり、両手でこのリズムを奏することにより、フィニッシュへ向けた「せき込み効果」が出ています。
「1拍ごとにハーモニーが変わっている」という面でも、せき込み効果がさらに増大しています。ハーモニーが変わるということも一種のリズム表現(和声リズム)です。
47-52小節目やその他で出てきたときと異なる点なので、比較してみましょう。
‣ メヌエット 嬰ハ短調 M.42
ラヴェルの死後に出版された、わずか23小節(約1分)の短い作品。難解な作品が多いラヴェルのピアノ曲の中で最も取り組みやすい一曲です。ツェルニー30番入門程度から挑戦できます。
短い演奏時間の中に、旋法の雰囲気やブロックコードと言われるヴォイシング、オルゲルプンクトやメロディの単純な変奏といった古典的な作風が盛り込まれています。
主な演奏ポイント:
・メロディの変奏パターンを理解し、暗譜に備える
・セクションBでの「Gis音のオルゲルプンクト」の各音バランスとペダリングの工夫
・クレッシェンドは早くに大きくなり過ぎず、音量的ピークを意識
詳細な解説記事はこちら → 【ピアノ】ラヴェル「メヌエット 嬰ハ短調 M.42」演奏完全ガイド
‣ 鏡
· 1. 蛾
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲尾)

満足感をもって終わるというよりは、「あれっ、何?終わったの?」とでも思わせるかのような締めくくり方です。情景描写がされた作品や調性が無い作品では特に見られる傾向にあります。
こういったサラッとした終わり方では、rit. せずに弾き終えてしまうと、良い空気感を演出できます。聴衆に「あれっ?終わったの?」と思わせることができたら成功と言えるでしょう。
‣ 夜のガスパール
· 2. 絞首台
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

楽曲のタイトルからもイメージつきますが、無表情で1秒1秒進んでいくようなイメージを受けます。
ラヴェルから直接、彼が作曲したピアノ音楽の大部分のレッスンを受けたというペルルミュテールによる発言が収載されている書籍、
「ラヴェルのピアノ曲」 著 : エレーヌ・ジュルダン・モランジュ、ヴラド・ペルルミュテール 訳 : 前川幸子 / 音楽之友社
によると、ラヴェル自身はこの作品についてペルルミュテールへ、「テーマには表情をつけないように」と話したそうです。28小節目には、ラヴェルによる指示で「少し浮き立たせて、しかし、無表情に」とさえ書かれています。
つまり、作曲者としてもある部分では無表情に演奏してもらうことを望んでいたわけです。
ただし、この作品は楽曲が進むにつれて部分的に表現的になって表情が見えるところも出てくるので、一つのイメージで統一しようとせずに、場面ごとの最適な表現を検討してみましょう。
・ラヴェルのピアノ曲 著 : エレーヌ・ジュルダン・モランジュ、ヴラド・ペルルミュテール 訳 : 前川幸子 / 音楽之友社
· 3. スカルボ
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、492-495小節)

終盤において、f や mf のところでソフトペダルを踏んだまま弾くように指示しています。
これは明らかに「ただ単に音量を変えたい」というよりは、ソフトペダルを踏んだまま強く弾くことによる「不気味な音」を欲していたと考えられます。
‣ ハイドンの名によるメヌエット
曲の特徴と演奏のポイント
1909年、ハイドン没後100周年記念として作曲。「ソジェット・カヴァート(抽出された主題)」という技法を用い、HAYDNのアルファベットから5音列(シ・ラ・レ・レ・ソ)を創出し、原型・逆行・反行と様々な形で全曲に散りばめています。わずか54小節ながら、優雅で自然な流れを持つメヌエット。ツェルニー30番修了程度から挑戦できます。
主な演奏ポイント:
・アウフタクトのアクセントと2小節目頭のアクセントの違いを明確に
・ブロックコード(オクターヴメロディの間に和声音が挟まる書法)でのメロディと和声音のバランス
・7小節目の4分音符直後で音楽が切れないよう注意
・縮節の技法による音楽の収束表現
詳細な解説記事はこちら → 【ピアノ】ラヴェル「ハイドンの名によるメヌエット」演奏完全ガイド
‣ 前奏曲(1913)
曲の特徴と演奏のポイント
1913年、パリ音楽院の初見試験課題として作曲された教育目的のエチュード。全27小節という短い構成で、冒頭の右手主題が対位法的手法で展開されます。ツェルニー30番入門程度から挑戦できます。
主な演奏ポイント:
・「d’un rythme libre(自由なリズム)」にとらわれ過ぎず、まずは楽曲の骨格を正確に把握する
・左手の分散和音を2声で考える(バス音を深めに、他は柔らかく)
・アルペッジョは手が届いても必ず実行(作曲家の意図する音色のため)
・ペダリングによる「ソロ表現」と「響きの連続性」の選択
詳細な解説記事はこちら → 【ピアノ】ラヴェル「前奏曲(1913)」演奏完全ガイド
‣ ボロディン風に
曲の特徴と演奏のポイント
1913年、カゼッラの企画に応えて作曲された様式模倣の作品。Allegro giustoの速度指定のもと、ややぎこちないシンコペーションを含むワルツのリズム感と微妙な不協和音が特徴です。ツェルニー30番中盤程度から挑戦できます。
主な演奏ポイント:
・メロディは1-16小節まで長いスラーで横へ引っ張る
・2小節を3等分するリズム構造の理解
・楽曲の大部分がオルゲルプンクトで構成される特徴
・57小節目からのクライマックスでバスラインが半音で動く効果
・最後の和音は「エコー」のイメージで柔らかく
詳細な解説記事はこちら → 【ピアノ】ラヴェル「ボロディン風に」演奏完全ガイド
‣ シャブリエ風に
曲の特徴と演奏のポイント
グノーのオペラ「ファウスト」からアリア「あの方に私の告白を伝えて下さい」のメロディを素材とし、シャブリエ独特の豊かなルバート(テンポの自由な揺らぎ)を伴う表現で再解釈した作品です。ツェルニー30番修了程度から挑戦できます。
主な演奏ポイント:
・休符から始まる音楽で「イチの拍感覚」をしっかり持つ
・和音連打は「押し込むように」打鍵し、縦割りを避ける
・22小節目からのテノール主役とソプラノ pp のエコーという音色操作
・フェルマータを活かすため、直前で rit. しない
詳細な解説記事はこちら → 【ピアノ】ラヴェル「シャブリエ風に」演奏完全ガイド
‣ クープランの墓
· リゴードン
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

カギマークで示した最初の部分は「開演ベル」の役割をもっていると言え、幕開けを告げる「つかみ」の音です。
こういった「つかみ」を魅力的に聴かせるコツは、「原則、ノンストップで弾き切る」ことです。2小節目へ入るときに変な間(ま)を空けたり、mp の直前でテンポをゆるめたりせず、一気に決然と弾き切ってしまうのがいいでしょう。
そうすることで、直後との対比をはっきりとつけることができます。
· メヌエット
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

カギマークで示したように、4小節の小楽節が「1+3」に区切られています(ピアノ版では)。
ここで気をつけるべきなのは、2小節目から3小節目へ移るときにメロディのフレーズが切れてしまわないようにすることです。2小節目のメロディは1小節目のメロディと似ているので、1小節目から2小節目への移り変わりのときのようにフレーズを別にしてしまいがちです。
ペダルで音自体は繋がっていても、時間の使い方やフレーズの持って行き方によっては音楽が切れて聴こえてしまいます。2小節3拍目から次の1拍目への「3→1」を意識して演奏しましょう。
► 協奏曲
‣ ピアノ協奏曲 ト長調
· 第1楽章
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、16-18小節)

このような連続グリッサンドは、すべての音の粒をはっきりと聴かせることが狙いではありません。カタマリとして「グリッサンドをやっていますよ」と聴かせる、一種の「エフェクト(効果音)」として意図されていると考えましょう。
何となくで弾けばいいわけではなく、「折り返しの音(到達点の音)の音程をきちんと聴かせる」ことは踏まえておくべきです。この譜例の場合、各小節の頭に出てくるD音の音程を聴かせましょう。
中には、かき回すようにとにかく目まぐるしくグリッサンドをすべき楽曲もありますが、基本的には「到達点の音程を聴かせるやり方をとる」と考えておいて構いません。
その音に長く留まるのではなく、明確なタッチにすることで、正しいテンポの中で際立たせるようにしましょう。
音程を聴かせるべき理由は、それによって音楽の骨格が明確になるからです。
譜例の箇所は「D音によるオルゲルプンクト」になっていますが、到達点の音程が聴こえてこそそれが伝わります。楽曲によっては、到達点の音同士を結んでいくと和声が出来上がっていることもあります。
この楽曲ではどこからどこまでをどのように左右の手で分担すべきかが楽譜から読み取れますが、すべてが一つの段に書かれている楽曲もあります。その場合でも、前後関係が許す場合は「グリッサンドをしていないもう一方の手で着地音を拾う」ようにすると音程を聴かせやすくなることを覚えておきましょう。
► 終わりに
ラヴェルの作品には、独特の音楽語法と表現技法が詰まっています。
本記事では、実践的な演奏アプローチを紹介していますが、これらはあくまでも一つの解釈として捉えていただければと思います。
今後も新しい作品や演奏のヒントを追加していく予定ですので、定期的にご確認いただければ幸いです。
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