【ピアノ】初心者必見の座り方改善ガイド
► はじめに
ピアノ演奏において、正しい座り方は技術習得の基礎なのですが、多くの初心者はその重要性を軽視しがちです。
本記事では、効果的な演奏を阻害する座り方の問題点と、その改善方法を詳しく解説します。
正しい座り方を身につけることで、より快適な演奏につながるでしょう。
► A. 座り方の基本
‣ 1. 演奏の基礎としての座り方
以前に、相撲部屋の紹介映像を目にしたのですが、その中でボスが以下のように言っていました。
これを耳にした時に、楽器演奏にも共通した部分があると感じました。
「頑丈なカラダ」というのとは少し異なりますが、演奏の土台になるのは、座り方、呼吸、カラダの使い方、最低限の基礎体力などの土台。
これらがいい加減だと、どんなに技を磨こうと思って指を動かす訓練をやりこんでも、大した効果はあがりません。
上記の力士の言葉は、裏を返すと「頑丈なカラダがなくても、技を磨きさえすれば、その辺の力士にはなれる」ということでしょう。
楽器演奏でも、「テクニックを磨こうとさえすれば、そこそこまでは行ける」と言えます。
しかし、その先が重要なのは言うまでもありません。
できる限り早い段階から、少なくとも座り方と姿勢だけは見直してみて欲しいと思います。
► B. 椅子と座位の調整
‣ 2. 椅子の高さが演奏に与える影響
椅子(座面)が高過ぎると、演奏をする時に身体の重さの大部分が腕にかかってきてしまう。
腕が疲れてしまい、上半身の姿勢にも悪影響があります。
椅子が低すぎると、力が肘から抜けてしまう。
フォルテで大きな音を出すべき時に「動作ばかりが大きくて音量はあまり出ていない」というケースが見受けられますが、これはたいてい、力が肘から抜けてしまっているために起こっています。
割合的には、椅子が高過ぎる学習者の方が圧倒的に多いように感じます。
「他所のピアノを借りたときに真っ先にやらないといけないことは、椅子の高さを下げること」
と言っても、過言ではないでしょう。
演奏者の座高や上腕の長さが影響してくる部分なので万人に共通する椅子の高さはありませんが、
おおよその目安としては「鍵盤へ自然に手を置いたとき、前腕と鍵盤が水平になる程度」とされています。
‣ 3. 座り方の深さと安定性
「ピアノ演奏のテクニック」ヨーゼフ・ガート (著)、大宮 真琴 (翻訳) 音楽之友社
という書籍の中に、以下のような文章があります。
もしあまり深く坐りすぎると、脚は床に対して支えとなることができないし、あまり坐りかたが浅すぎれば、
脚は体重を支えなくてはならなくなって、やはり支柱の役目を果たすことができない。
正しい坐りかたは、両脚に体重をかけ、脚の柔軟性を減ずることなく、脚にもたれかかることができる状態である。
(抜粋終わり)
簡潔にまとめると、座り方が深過ぎても浅過ぎても下半身が安定しないということ。
安定していないと、いきなり体重移動が起きるような動作、例えば「超高域や超低域へ移動する動作」などで上手くいきません。
座る最善の位置というのは、やはり個人の体格によって差はありますが、まずは上記抜粋の条件を満たす位置を探ってみてください。
上手く見つけられないようであれば、演奏が終わったときにサッと立ち上がれる位置に座っておくのがいいでしょう。
そうすると、白鍵の真下に膝先がくるくらいになります。
◉ ピアノ演奏のテクニック ヨーゼフ・ガート (著)、大宮 真琴 (翻訳) 音楽之友社
‣ 4. 椅子の位置と身体の関係
初心者の方で「電子ピアノの購入を検討している」という話をよく耳にします。
筆者は、足まで完全固定型のものではなく、スタンドが取り外せるタイプをおすすめしているのですが、「X型キーボードスタンド」のレビューを見ていると、疑問に思うものがあります。
というレビュー。
こういったレビューは良く目にするのですが、その度に、「そもそも、座る位置が前過ぎなのではないか」と感じます。
ここでいう「前」というのは、椅子に腰掛ける深さのことではなく、椅子自体の位置が前過ぎるということ。
椅子自体の位置を前へ持ってき過ぎてしまうと、腹部と鍵盤が極端に近づきます。そうすると、上半身も下半身も窮屈になるためにかなり演奏しにくい。
この状態は、初心者にとても多く見受けられます。
前項目で書いたように、演奏が終わったときにサッと立ち上がれる位置(白鍵の真下に膝先がくるくらい)に座っておくのがいいでしょう。
この深さで座った場合、スタンドに膝先が突っかかるわけがありません。
それでも突っかかるのであれば、まずはスタンド上の安定する良い位置に鍵盤が乗っているかどうかを確認しなければなりません。
もちろん、このような座り方の重要性は、生のピアノで演奏する場合であっても同様です。
‣ 5. 適切なピアノ椅子の選び方
ピアノ椅子を選ぶときにポイントとなる点はいくつかありますが、製品により特徴が異なり唯一の正解はありません。
ただし、どんなケースにも共通する良い椅子を選ぶコツはあります。
とにかく、グラつかず動かない椅子を選んでください。
特に一部のピアノ用の「丸椅子」に多いのですが、回転したりそもそも左右の振りがついてしまうタイプのこと。
これらは、原則避けてください。
理由は非常にシンプルで、今後、通常の本番会場のピアノを弾く時に、このようなタイプはめったに使われないからです。
本番で椅子の感覚が大きく変わってしまうのは避けるべきです。
それに、グラつく椅子で練習すると身体が本当に安定しません。
身体の軸が安定していることが良い演奏の条件の一つなのにも関わらず、椅子にグラつかされている場合ではありません。
► C. 身体の使い方とテクニック
‣ 6. 足の役割と正しい配置
初心者の方が注意すべきなのは、足を左右へやってしまったり、むやみに開いてしまったり、といったように「足の位置が遊んでいないか」という点。
初心者が取り組む作品ではソフトペダルが用いられない作品も多いので、特に左足は暇になりがち。
その時に、暇な足を座った後の自然な位置でじっとさせておいてください。
ペダルを用いる場合は定位置が決まっているのでいいのですが、そうでないとどうしても遊んでしまう可能性があります。
足が遊んでいると重心が安定せず演奏に悪影響を与えます。
高い音域や、反対に、低い音域を弾く時には身体の重心が少し移動するため、無意識のうちに足へも体重がかかります。足先をしっかりと配置しておかないと身体が安定しません。
今の段階ではそれほど問題に感じなくても、これからもう少し学習が進んできた時に演奏の足を引っ張る原因になるでしょう。
特に、新しい楽曲へ取り組み始めて楽譜をイチから読んでいる時には気が抜けて座り方が雑になりがちです。
クセになって本番で無意識にやってしまったりすると見た目としても良くありません。
座ったあとに必ず確認して欲しいのですが、練習中にも、時々チェックしてみてください。
気を抜くと乱れてしまいがちですので。
‣ 7. お尻の動きと演奏テクニック
入門段階が終わった方は、ハノンのスケールなどに取り組むこともあるでしょう。
両手共に高音域へ上がっていく時は、それに合わせてお尻の左側をやや浮かせていくと、身体のひねりを減らせるのでとてもラクになります。
両手ともに低音域へ下がっていく場合はその反対となります。
高音域を演奏する時には、右腕右手は伸ばすだけでいいのでほとんど負担になりません。
一方、身体の左側についている左腕左手は身体をひねって伸ばすことになります。
つまり、「お尻の左側を浮かせる必要があるのは、左腕左手を高音域へ持っていくから」ということ。
反対に、お尻の右側を浮かせる必要があるのは右腕右手を低音域へ持っていくからです。
常にお尻の両方をつけておかなくてはいけないわけではないということを覚えておきましょう。
初心者の方で「お尻を椅子から離してはいけない」と思い込んでいる方は意外と多く見受けられ、そのせいで上半身がカチンコチンになってしまっているケースは少なくありません。
必要に応じてお尻を上手く使っていくと、上半身がラクになります。
指先だけでなく、こういった、その他のところの身体の使い方も習得していきましょう。
‣ 8. ピアノの中心を見つける方法
独学の初心者の方にはなじみがあるかもしれませんが、各種教材で学習していると、「原則、ピアノの中心に座る」などと解説されていることがありますね。
では、この中心はどのように見つければいいのでしょうか。
・鍵盤の中心
・譜面台の中心
・ペダルの中心
・メーカーロゴの中心
など、参考にできるものはいくつかありますが、最もおすすめするやり方は、ペダルの中心を参考にすること。
つまり、3本ペダルのピアノであればソステヌートペダル、2本ペダルのピアノであればそれら2本の丁度間。
この見つけ方の利点は、視線が下へいくので椅子の位置を調整しやすいところです。
もし、外付けペダルのピアノを使っている方で、ペダルの位置が決まっていない場合は、次点として譜面台の中心を参考にするといいでしょう。
► D. 集中力と演奏環境
‣ 9. 集中力を妨げない座り方
座り方は各種テクニックと密接に関わっています。
加えて、「集中力」にも関係していることを身をもって感じています。
先日、ピアノ椅子の新調に伴い、自宅にあった普通の椅子を一時的に代用しました。
ところが、練習していて全然集中できないのです。
なぜだろうと考えていた結果、代用の椅子は、今までとあらゆることが異なっているからだと分かりました。
例えば、次のような点が異なっていました:
・代用の椅子は、お尻側へ向けて傾斜がついていた
・代用の椅子は、今までよりも結構低かった
・代用の椅子は、重みがないために安定しなかった
「重み」に関してはどうしようもありませんでしたが、「傾斜」や「高さ」に関しては敷物の工夫で何とかしました。
些細なことのように思うかもしれませんが、ピアノ演奏に集中するためには、
「微塵も意識を持っていかれない座り方をする」
これが間違いなく不可欠だと分かりました。
細かなことがいちいち気になるような座り方で演奏に集中できるわけなかったのです。
特に、取り外しスタンドタイプの電子ピアノで練習している方は、「本体の高さ」「椅子の高さ」などに細心の注意を払ってください。
演奏会で弾いている感覚となるべく同じようなポジションを確保しておきましょう。
また、座り方に関連して「足元」に関しても注意が必要。
電子ピアノで練習している方で「コードによる外付けペダル」を使っている場合、ガムテープで貼ってでも動かないように固定してください。
毎回足元の様子が変わったり演奏中にペダルがずれたりすると、集中力を持っていかれてしまいます。
このような気の散り方は:
・食事中に椅子がずれた
・家庭用ミシンの椅子が少し高い
などといった日常生活の範囲内でしたら問題ないでしょう。しかし、ピアノ演奏では問題なのです。
ちょっとした違和感であってもきちんと対処して、もっと演奏に集中しましょう。
► 終わりに
本記事で紹介したポイントを意識し、少しずつ改善していきましょう。
自分の体格に合った最適な座り方を見つけてください。
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