【ピアノ】素材同士の関係を見抜く楽曲分析

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【ピアノ】素材同士の関係を見抜く楽曲分析

► はじめに

 

「あらゆる時代の作品で使える、フレーズ同士の関係分析」を解説します。

フレーズ同士の関係を読み解くことで、作曲家の意図がより鮮明に見えてきます。

 

► 素材同士の関係を見抜く

 

素材同士の関係分析では、「対話関係を見つけること」これがもっとも基本です。

なぜなら、音楽における「対話」は:

・フレーズの役割を明確にする
・素材同士の対応関係を明確にする
・演奏者の解釈の幅を広げる

といった重要な要素となるからです。

 

► 分析の視点

 

対話関係を見つける際の着眼点をいくつか挙げてみましょう。

1. フレーズの 性格 の違い

・語りかけるような音型
・応答するような音型
・つなぎ的な音型

2. フレーズの 構造 の違い

・音域の変化
・リズムパターンの変化
・音の密度の変化

これらのような要素の組み合わせによって、対話が形作られていきます。

 

► 具体例1:オーソドックスな対話

 

モーツァルト「ピアノソナタ第14番 K.457 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、35-39小節)

メロディ部分に書かれた「問い(とい)」と「応え(こたえ)」に注目してください。

「問い」で疑問を投げかけるように提示し、それを解決するかのように「応え」が続きます。

この関係性は、古典派の作品では特に顕著に見られます。

 

【分析のポイント】

・手の交差によるメロディの受け渡し
・音域の違いによる対比
・フレーズの終わり方の違い

 

► 具体例2:多義的な対話

 

対話は、必ずしも単純な「問い」と「応え」だけではありません。

一つの音楽的な語りかけに対して、複数の解釈が可能な場合もあります。

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ第6番 ヘ長調 op.10-2 第1楽章」

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、曲頭)

ここでは、大譜表の上にカギマークで示したような細かな取り方と、下に示したような大きな取り方の両方が考えられます。

【対話の多義性を見抜くポイント】

・小さく捉えて個々のやり取りとみなすか
・大きく捉えて同型反復とみなすか
・和声進行との関係

 

► 具体例3:小フレーズから大フレーズへ

 

多くの作品では、小さなフレーズが組み合わされて大きなフレーズを形成しています。

 

ショパン「ノクターン 第2番 op.9-2」

譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)

版によって多少フレージングの違いがあるので、今回はパデレフスキ版を元に解説します。

ここでの4小節間という大フレーズは、4つの小フレーズから構成されています。

それぞれの小フレーズには明確な役割があります:

【小フレーズの役割分析】

・小フレーズA:最初の語りかけ(導入)
・小フレーズB:Aの発展的な語りかけ(展開)
・小フレーズC:BとDをつなぐ経過的な要素(経過)
・小フレーズD:Bをさらに発展させたクライマックス(頂点)

 

【演奏解釈のヒント】

・各フレーズの役割に応じた音色の変化
・クライマックスに向けた音楽的なエネルギーの配分
・フレーズ間のつながりの自然さ

 

(再掲)

小フレーズAで出てくる最初の6度跳躍のつかみ①が、小フレーズBで3回反復。

②は同型の入り。

③で、跳躍音程が1オクターブに広がり、いっそう語りかけを強いものにしています。

④では、少し控えめの表現になることで、小フレーズBを自然に締めくくる準備をする。

小フレーズDの⑤では、③よりもさらに跳躍音程が広がり、10度跳躍することでクライマックスを形成しています。

10度跳躍したことでより高いエネルギーと緊張感が生まれましたが、

その後は「順次進行中心」なので、音楽が自然とおさまりながら、大フレーズ全体が締めくくられます。

小フレーズD以外は全てフレーズ終わりの音が下行しているので、統一感が出てきています。

 

このように見ていくと、

各小フレーズ同士の関係にまで細かくバランスがとられていることを理解できますね。

だからこそ、それらの結びつきが生まれて有機的な大フレーズができるわけです。

 

►「問い」と「応え」の対比を際立たせる方法①

 

ショパン「革命のエチュード」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、10-12小節)

ここでは f で問いが提示され、

それに対して p で応えています。

 

すでにダイナミクスで対比になっているのですが、もう一つ表現ポイントがあります。

p の応答では、リズムも少し柔らかめに弾く」

このようにすると、さらに対比効果が大きくなります。

f のほうは、引き締まったリズムでキビキビと演奏しているからこそ、その対比が際立つわけです。

 

「ダイナミクスの差以外の面でも、対比効果を作れる可能性がある」

ということを覚えておきましょう。

楽曲によっては、ソフトペダルを使って「音色による対比」を取り入れる手もありますね。

 

►「問い」と「応え」の対比を際立たせる方法②

 

モーツァルト「ピアノソナタ第5番 K.283 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

実線カギマークの音型で問いかけて、点線カギマークの音型で応えています。

 

実線カギマークのリズム音型に注目すると、16分音符の細かな音価が含まれています。

それに対して、点線カギマークの音型は4分音符という長い音価。

前者の方が「軽さ」を感じますね。

16分音符が含まれているのは、モーツァルト自身が「軽さ」を感じていた証拠です。

「軽さ ⇆ 深さ」これらの対比を読み取ってください。

 

次に「音域」に注目しましょう。

実線カギマークの音型のほうが高い音域で出てきます。

やはり、音域という観点でも「軽さ ⇆ 深さ」の差を感じることができます。

 

点線カギマークの音型のほうが、やや太い声で演奏してよいでしょう。

同じくらいのダイナミクスで弾いている演奏も多いのですが、

「対比」という観点で言うと、少し差をつけて演奏することを推奨します。

 

「問いかけ」に対する「応答」というのは、どちらが主役でどちらが脇役かは決まっていません。

楽曲によって、その都度読み取る必要があります。

 

► 終わりに

 

フレーズ同士の対話関係を分析することで:

・楽曲構造への理解が深まる
・演奏表現の可能性が広がる
・作曲家の意図がより鮮明になる

これらの視点は、古典派から近現代まで、様々な時代の作品分析に応用できます。

 


 

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