【ピアノ】映画「ピアノ・レッスン」レビュー:ピアノ音楽に着目した音楽演出の解説

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【ピアノ】映画「ピアノ・レッスン」レビュー:ピアノ音楽に着目した音楽演出の解説

► はじめに

 

本記事では、ジェーン・カンピオン監督の名作映画「ピアノ・レッスン(The Piano)」について、ピアノ音楽に焦点を当てた音楽分析を行います。

 

・公開年:1993年(フランス)/ 1994年(日本)
・監督:ジェーン・カンピオン
・音楽:マイケル・ナイマン
・ピアノ関連度:★★★★★

 

 

 

 

 

 

► 内容について(ネタバレあり)

 

以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はご注意ください。

 

‣ フェード・アウトの多用:イメージ音楽としての役割

 

フェード・アウト(音量を徐々に下げて消していく手法)される楽曲ばかりが続くと、音楽を先に作って、後からそれを映像に当てはめたように聴こえる傾向があります。通常の映画作品では、映像が出来上がった後に音楽を作る「フィルムスコア(リング)」が基本であり、本映画でもその方法がとられています。しかし、その音楽の扱いで特徴的なのは、フェードアウトの多用です。

本編中盤のベッドシーン等、その他多くの場面で音楽がフェードアウトされており、まるであらかじめ作っておいた音楽を映像に当てはめて編集しているような印象を受けます。ただし、本映画の場合はこの手法の多用により、むしろ、音楽に映画全体のイメージ音楽のような役割を与えている考えていいでしょう。実際に、音楽自体はどれも方向性的に類似したものとなっています。

 

‣ ピアノ音を環境音として扱う手法

 

本映画では、環境音が数多く出てきます。例えば:

自然環境音:

・ニワトリや鳥の鳴き声
・波音、雨音
・焚き火の音
・森の中を歩く足音
・鐘の音

 

これらに自然と溶け込むよう、環境音的にピアノ関連の音が響いているのが特徴です:

 

ピアノ関連の環境音的扱い:

・調律時の音
・楽器移動時の共鳴雑音
・ペダル操作音
・金属製義指と鍵盤の接触音
・屋内外を区別しない開放的な演奏空間(窓や入り口ドアの開放)
・完全な屋外演奏シーン

 

これらの演出により、ピアノは楽器を超えて環境の一部となり、主人公エイダの存在そのものを表現するものとして機能しています。

 

‣ ピアノ曲の内声の細かな動きが表現する心情

 

重要楽曲「楽しみを希う心(The Heart Asks Pleasure First)」をはじめ、エイダが演奏する大半のピアノ音楽には共通する特徴があります。それは内声部の細かな動きです。この内声のザワザワした動きは「エイダの内面の声」の音楽的表現と解釈できます。言葉を発しないエイダにとって、ピアノは言語代わりの重要なコミュニケーション手段の一つであり、内声の動きはその時々の複雑な感情を表しています。

興味深いのは、島を離れ発声を始めたエイダが弾く音楽には、このようなザワザワした内声の動きが見られないことです。これは音楽的必然性と言えるでしょう。

 

‣ リアリティを追求した演奏の精度

 

エイダがピアノを弾く状況内音楽(ストーリー内で実際にその場で流れている音楽)は、完璧ではありません。隣接する鍵盤への軽微な接触があったり、リズムがややギクシャクしていたりと、音楽経験者が聴けば「技術的に完璧でない」と感じる要素が含まれています。

しかし、エイダはプロのピアニストという設定ではなく、むしろこの「不完全さ」がキャラクターのリアリティと表現の深みを生み出しています。実際、ピアノ演奏は主演のホリー・ハンター自身が担当したとされています。

 

また、エイダが娘と連弾するシーンでは、娘が「より目立つ形で」隣接鍵盤への接触をします。エイダのみで演奏している場面とその演奏の精度に差がつけられており、細かな観点から自然さを追求した演出と言えるでしょう。

 

► 映画の名曲「The Heart Asks Pleasure First」の楽譜について

 

映画の重要楽曲「楽しみを希う心(The Heart Asks Pleasure First)」は、マイケル・ナイマンの代表作の一つとして広く演奏され続けています。楽譜は、以下のリンクの「ぷりんと楽譜」サイトで入手可能です。

‣ The Heart Asks Pleasure First

 

► 終わりに

 

「ピアノ・レッスン」は、音楽を物語の重要な語り手として機能させた作品です。音楽が登場人物の心情と環境を同時に表現する、興味深い映画体験を生み出しています。

 

 

 

 

 

 


 

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