【ピアノ】部分的に模倣手法が取り入れられた作品の構造分析
► はじめに
楽曲分析において、模倣技法の理解は作品の構造を把握するうえで重要な要素となります。
本記事では、J.S.バッハの作品を例に、部分的な模倣手法がどのように用いられているかを詳しく分析していきます。
► 模倣技法とは
模倣技法について、権威ある音楽理論書である「ケルビーニ 対位法とフーガ講座」(著:ルイージ・ケルビーニ 訳:小鍛冶 邦隆 / アルテスパブリッシング)では、以下のように定義されています:
模倣は、先行句(antecedent)とよばれるひとつの部分が、主題あるいは旋律を提示し、追行句(consequent)とよばれるもうひとつの声部が、同じ旋律を一定の休符[休止]をおいて、一定の音程で繰り返し最後まで継続する音楽技法である。
(抜粋終わり)
► 模倣の分析
‣ 分析対象と基本情報
J.S.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 メヌエット BWV Anh.120」
譜例1(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
楽曲の構成:
全体構造
・Aセクション(1-12小節)
・Bセクション(13-20小節)
・Cセクション(21-28小節)
‣ Aセクションの模倣技法(1-12小節)
譜例2(1-12小節)
主要な模倣要素
1. 時間的関係:
・右手パートが先行句として提示
・左手パートが3拍遅れで追行句として模倣
2. 構造的特徴:
・追行句は5小節1拍目で変形
・この変形は以下の2つの機能を持つ:
– 模倣部分の終結
– バス持続音への移行点
追行句の丸印で示した部分が、先行句とやや異なっています。5小節1拍目からバスの持続連打が始まると6小節目以降との整合性がとれます。したがって:
・丸印の音までが追行句と捉える
・丸印の音がバスの持続連打の開始音とも捉える
このように分析するといいでしょう。
‣ Bセクションの模倣技法(13-20小節)
譜例3(13-20小節)
Aセクションと全く同様の模倣構造が観察されますが、以下の点で文脈が異なります:
・調性の変化に伴う音程変化
・追行句直後のバス進行のパターンの変化
‣ Cセクションの模倣技法(21-28小節)
譜例4(20-28小節)
特徴的な要素:
・トリルを含む装飾的な模倣
・リズム的変形を伴う模倣関係
・A、Bセクションの手法的特徴の発展的活用
先行句と追行句でややリズムは異なりますが、トリル混じりであり、明らかに模倣手法だと考えられるでしょう。A,Bセクションの手法的特徴を残しています。
► 分析のまとめと理論的考察
模倣技法の構造的意義:
・声部間の関係性の確立
・楽曲全体の統一性の創出
・各セクションでの発展的変化
この分析手法が特に有効な対象:
・部分的に対位法的技法が用いられている作品
・教育目的で書かれた作品
・バロック期の作品
分析の応用:
・より複雑な対位法作品の理解への足がかり
・模倣技法を用いた作品の構造把握
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