【ピアノ】stretto(ストレット)の意味と弾き方:ロマン派作品の適切な解釈
► はじめに
ピアノ曲でよく見かける「stretto」という指示。この用語を「速くする」と単純に解釈していませんか? 実は、strettoが本当に求めているのは、テンポの変化ではなく「音楽の進行感」なのです。本記事では、特にロマン派作品におけるstrettoの正しい解釈方法を、具体例とともに解説します。
この記事で学べること:
・strettoの正しい意味と解釈
・ロマン派作品での具体的な演奏方法、ショパン作品での実例
・stringendoとの違い
► strettoの本来の意味
stretto(イタリア語)= 「緊迫して」
この用語が示すのは:
・音楽の緊張感を高めること
・前へ進む推進力を生み出すこと
・フレーズの凝縮感を作ること
重要なのは、必ずしも「速くする」ことではなく「緊迫感を持って進める」ことです。
► ロマン派における、strettoの解釈原則
‣ 基本原則:揺らさずに進める
ロマン派、特にショパンをはじめとする作曲家がstrettoを指示する箇所では、「緩・急・緩」のルバートを適用しないことが重要です。
‣「緩・急・緩」のルバートとは?
ロマン派のフレーズ演奏でよく用いられる、自然な速度変化:
緩:フレーズの入りをゆっくり目に
急:中盤で少しテンポを上げて
緩:後半からまた少しゆるめる
このような鏡のように対称的な動きは、自然なアゴーギクを生み、演奏もしやすくなります。
ショパン「バラード 第1番 ト短調 Op.23」
譜例(PD作品、Finaleで作成、33小節目)

► strettoではこれをしない
strettoの指示がある箇所では:
・テンポを無闇に揺らさない
・タメを入れない
・ノンストップで進行する
・緊迫感を維持したまま目標地点へ向かう
この解釈により、前後の音楽エネルギーとマッチした演奏が実現できます。
► 実例で学ぶ、strettoの解釈
‣ 例①:ショパン「革命のエチュード」
ショパン「エチュード(練習曲)ハ短調 Op.10-12 革命」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、25-28小節)

25-28小節の解釈
25小節目からシンコペーションを伴って音楽が緊迫していき、26小節目最後の3つのメロディ音が27小節目の前半のクライマックスへ導きます。ここにstrettoが記されています。
演奏のポイント:
・strettoとcresc.の相乗効果で推進力を生んでいることを理解する
・ノンストップで27小節目のクライマックスへ
・この入りでタメたりテンポをゆるめない
・28小節目のカデンツ(終止形)の着地まで「緩・急・緩」を入れない
‣ 例②:ショパン「24のプレリュード 第4番 ホ短調 Op.28-4」
ショパン「24のプレリュード 第4番 ホ短調 Op.28-4」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、13-18小節)

16小節目右手の解釈:
・strettoの指示がある
・ターンの装飾を変に揺らさない
・ノンストップでG音まで上行する
‣ 例③:ショパン「ノクターン 第2番 変ホ長調 Op.9-2」
ショパン「ノクターン 第2番 変ホ長調 Op.9-2」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、30-32小節)

30-32小節の解釈:
・30小節目のstrettoを考慮
・32小節のsenza tempoまで止まらずに進行
・31小節目で「緩・急・緩」を入れない
・目標地点まで緊迫感を維持
► strettoとstringendoの違い
混同されやすい2つの用語を整理しましょう。
| 用語 | 意味 | 演奏解釈 |
|---|---|---|
| stretto | 緊迫して | 揺らさず推進力を保つ。必ずしも速くならない |
| stringendo | だんだん咳き込んで | 実際にテンポを上げていく |
strettoは「緊迫感」、stringendoは「加速」と覚えることを推奨します。
► 実践的な演奏アドバイス
strettoの箇所を見つけたら:
1. 前後の文脈を確認:どこへ向かっているのか
2. 目標地点を把握:クライマックスや解決点はどこか
3. 揺らしの癖に注意:無意識の「緩・急・緩」をしていないか
4. 推進力を意識:音楽を前へ送り出す感覚で
よくある誤解と注意点:
誤解1:「情感を込めるために揺らす」
→ strettoでは逆効果。揺らさないことで緊迫感が生まれる
誤解2:「ロマン派では自由に」
→ strettoのような明確な指示がある箇所は、作曲家の意図を尊重
► 終わりに
strettoの解釈は、「音楽の流れを途切れさせず、緊迫感を持って進める」ことです。特にロマン派作品では、通常のフレーズでよく用いる「緩・急・緩」のルバートを意図的に排除し、ノンストップで目標地点へ向かうことが求められます。
この解釈を意識することで、作曲家が意図した音楽の流れとエネルギーを適切に表現できるようになるでしょう。
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