【ピアノ】スタッカートの解釈:音を切るだけではない「わずかな強調」の表現技法

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【ピアノ】スタッカートの解釈:音を切るだけではない「わずかな強調」の表現技法

► はじめに

 

ピアノを学ぶ多くの方は、スタッカートといえば「音を短く切る奏法」と理解されていることでしょう。しかし、スタッカートが単に「音を切る」だけでなく、「わずかな強調」を意味する場合があります。

本記事では、その「わずかな強調を示すスタッカート」について、具体的な楽曲例を通して解説します。

 

► スタッカートの多様な意味

 

スタッカート(・)は一般的に「音を短く切る」記号として知られていますが、実際の演奏では文脈によって様々な解釈があります:

1. 伝統的な解釈:音を通常の長さの約半分に短縮する
2. アーティキュレーションとしての解釈:音と音の間に明確な区切りを作る
3. アクセントとしての解釈:音に軽い強調を加える(今回のテーマ)

特に3つ目の「アクセントとしての解釈」は見落とされがちですが、多くの名曲で重要な表現要素となっています。

 

► 実例で学ぶ「強調を示すスタッカート」

‣ ベートーヴェンの例:ピアノソナタ第31番 Op.110 第1楽章

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110 第1楽章」

譜例1(PD楽曲、Sibeliusで作成、12-13小節)

譜例の部分では、32分音符の特定の音にスタッカートが付けられています。

この箇所のスタッカートについて考察すると:

・重要な音に選択的に付けられている
・32分音符という極めて短い音符に付けられているため、物理的にこれ以上「短く切る」ことは難しい
・スタッカートの付いた音だけを強調することで立体感が生まれる

これらの理由から、この箇所のスタッカートは「音を切る」という意味ではなく、「わずかな強調を示す」と解釈するのが適切でしょう。

ヘルムート・ブラウスの著書「ピアノを歌わせる ペダリングの技法」でも、「八分音符ごとのスタッカートは、最高のレッジェーロで繊細なアクセントを付けるという作曲家の意図を明確に示している」と述べられています。

 

・ピアノを歌わせる ペダリングの技法 「いつ踏むか」ではなく「どう踏むか」 著 : ヘルムート・ブラウス  訳 : 市田 儀一郎、朝山 奈津子 / 全音楽譜出版社

 

 

 

 

 

 

‣ シューマンの例:謝肉祭「高貴なワルツ」

 

もう一例を見てみましょう。

 

シューマン「謝肉祭 4.高貴なワルツ」

譜例2(PD楽曲、Sibeliusで作成、12-13小節)

譜例の部分では、左手の伴奏パートの特定の音にスタッカートが付けられています。

この箇所について考察すると:

・左手の伴奏内で副旋律的に重要な音にスタッカートが付けられている
・右手のレガートを実現しようと思うと、運指的にダンパーペダルは必須
・スタッカートを付けることで、「3→1 3→1」というリズム感と音楽の脈動がより強調される

ここでのスタッカートも、「音を切る」というより「わずかに強調する」という意図が込められていると考えていいでしょう。シューマンは別の作品でも、伴奏部分に微妙なニュアンスを加えることで表現の多層性を作り出すことを好みました。

 

► 実践:自分の演奏への応用

 

「わずかな強調を示すスタッカート」を自分の演奏に取り入れるためのステップ:

1. 楽曲分析:スタッカートが付いている音が和声的・旋律的にどのような役割を持っているか分析する
2. 文脈の理解:周囲の音楽的な流れの中で、なぜその音にスタッカートが付けられているのか考える
3. 実験:様々な解釈(短く切る、わずかに強調する、など)を試してみる

 

► 終わりに

 

スタッカートはただの「音を切る記号」ではなく、作曲家が意図した表現の可能性を秘めています。特に「わずかな強調を示すスタッカート」は、楽曲に繊細なニュアンスと立体感をもたらす重要な要素です。

様々な楽曲で異なるスタッカートの解釈を試し、自分の演奏に取り入れることで、ピアノ演奏がより豊かな表現へと進化するでしょう。

 

関連内容として、以下の記事も参考にしてください。

‣ 6. メロディックなラインを示すスタッカート

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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