【ピアノ】「心で弾くピアノ―音楽による自己発見」レビュー:ピアノ練習法と音楽理念

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【ピアノ】「心で弾くピアノ―音楽による自己発見」レビュー:ピアノ練習法と音楽理念

► はじめに

 

セイモア・バーンスタインの「心で弾くピアノ―音楽による自己発見」は、技術と心の両面からピアノ演奏について深く掘り下げた一冊です。

 

・出版社:音楽之友社
・邦訳初版: 1999年
・ページ数:286ページ
・対象レベル:中級〜上級者(初心者でも読める部分は多い)

 

・心で弾くピアノ―音楽による自己発見   著 : セイモア・バーンスタイン  訳 : 佐藤 覚、大津 陽子 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 

► 本書の特徴と注意点

 

1. バランスの取れたアプローチ

技術訓練と音楽表現の調和
本書は、演奏技術の向上だけでなく、音楽表現にも力を入れています。音楽を通じて自己を表現し、発見するアプローチが重視されています。

音楽的思索の重要性
バーンスタインは「なぜ練習するのか?」といった問いを深く掘り下げ、練習が単なる反復作業にとどまらず、自己発見の過程であることを強調しています。

 

2. 中級〜上級者向け

初心者でも学べる部分あり
練習法や音楽的アプローチには、初心者でも参考になる内容がありますが、基本的には中級者以上に適しています。特に譜例を用いて細部を解説していく部分では、ある程度の基礎知識が求められます。

シューマンの「初めての悲しみ」の例
暗譜の方法が徹底的に解説されており、記憶作業で重要なポイントを具体例を通してつかむことができます。

 

3. 豊富な譜例と具体的な練習法

286ページのボリューム
本書は、実践的な練習法とともに豊富な譜例を提供しています。これにより、読者は実際の演奏に役立つ具体的な方法を知ることができます。また、読み物的な内容も充実しており、読者を飽きさせません。

リズムとテンポの扱い方
速さやリズムのコントロール方法、身体の動きを意識した練習法が詳述されています。集中力を高める方法も紹介されており、演奏の質を向上させるための実践的なアドバイスが豊富です。

 

4. 著者の思想と音楽的哲学

音楽を通じた自己発見
バーンスタインは音楽を単なる表現手段としてではなく、自己を深く知るためのものと捉えています。音楽の中で「無邪気な気持ち」などを重視し、演奏に対する新たなアプローチを提示しています。

心と身体の調和
演奏者が音楽を通じて内面を開放し、自由に表現できるようになるための方法が示されています。

名言の数々
音楽に対する哲学的なアプローチが随所に見られ、以下のような名言が印象的です:

・「フレーズは最後の和音が鳴るとともに終わるのではなく、それが消えていくとともに終わるのだ」
・「音楽の学びにおいて最も重要なのは、年齢にかかわらず、リラックスし無邪気な気持ちでいること」

これらの言葉は、演奏技術の向上だけではなく、音楽に対する心構えを提供してくれます。

 

5. 総括:音楽と人生を豊かにする一冊

技術だけでなく心の成長もサポート
本書は、技術的な向上を超えて、音楽を通じて自己発見を促し、心の成長をサポートしてくれる一冊です。練習や演奏に対する心構えや哲学を学ぶことで、ピアノを学ぶ意味がさらに深まります。

大人の学びにぴったり
特に大人の独学者にとって、技術だけでなく心のアプローチも大切です。バーンスタインの音楽的哲学は、ピアノ学習をより豊かなものにしてくれるでしょう。

 

注意点:

譜例が原典版に基づいていないものもあるので(例:ベートーヴェン「エリーゼのために」など)、書かれている記号などは参考程度に捉えて読み進めてください。

 

► 各章のハイライト

 

第Ⅰ部 練習の意味

第1章:なぜ練習するのか

・練習が単なる反復作業でなく、自己発見のプロセスであることを解説
・ピアノを弾くことが自己の成長にどう繋がるのか

第2章:なぜ練習しないのか

・練習しない原因を心理的、社会的な視点から分析
・生徒の具体的なエピソード

第3章:集中

・無意識と意識的な集中の違い
・集中力を損なう要因とその対策

第4章:感情

・演奏における感情表現の重要性
・生徒の具体的なエピソード

 

第Ⅱ部 修練

第5章:テンポ、リズム、拍

・速さやリズムの扱い方、体の反応を理論と実践で解説
・ゆっくり練習について

第6章:聴くこと

・自然な聴き方と音楽家としての聴覚の養い方
・音感を良くする方法

第7章:自分とピアノ

・正しい身体の使い方(腕の重みや緊張と弛緩のバランス)
・音階やアルペッジョ、和音のヴォイシングなど、演奏に必要な基本的テクニック

第8章:振り付け

・ピアノ演奏における身体の動き
・アクセントと身体の動きの一致方法について

 

第Ⅲ部 公開演奏の成果

第9章:演奏すること

・演奏の目的や公開演奏の意味、コンクールや批評への対処法
・演奏活動を通じて自己評価をどう行うか

第10章:暗譜

・暗譜の方法を歴史的観点と実践的手法で詳述
・譜面を離れての記憶法(耳からの暗譜や、楽器から離れた状態での記憶法)

第11章:あがること

・演奏前後の心理的な状態について
・不安やプレッシャーへの対処法、演奏後の心のケア方法

第12章:フィナーレ

・最終的なメッセージを込めた締めくくり

 

► 特徴的な抜粋

 

(以下、抜粋)
音楽的なイメージというのは、サー・クリフォード・カーゾンに示唆されたのである。
あるとき、私が曲の最後の弱い和音に苦労していると、「フレーズは最後の和音が鳴るとともに終わるのではなく、それが消えていくとともに終わるのだ」と彼は言った。
(抜粋終わり)

 

(以下、抜粋)
著名な精神科医であるヘレン・ボイゴン博士はかつて私にこう語った。
「どんなものを学習する場合でも、その過程で最も重要なことは、年齢にかかわりなくリラックスして、無邪気な気持ちになることができるかどうかということなのです。」
無邪気な気持ちの子供たちは、いつでも今度は良いことがあると期待している。
できそうだと思い、しばしば本当にそうなるのである。
したがって、われわれが子供たちから学ぶことは、心を閉ざさず無邪気でいれば、自分の内から最大の力を引き出すことができるということである。
(抜粋終わり)

 

(以下、抜粋)
ピアノを離れ、部屋をゆっくり横切って歩いていく。その時の身体の感覚に注目する。
さらに速く歩いてみる。再び身体の状態を観察する。
さまざまな筋肉が自動的に引き締まるのに気づくだろう。
しかし、それは身体を安定させるために必要なほどにすぎない。
ピアノで大きな音の速いパッセージを弾くには、これと似たエネルギーの使い方が要求される。
すなわち筋肉を正しく引き締めることによって、はじめて体が〈自由に〉なる。
(抜粋終わり)

 

► おすすめの読者

 

・中級〜上級者のピアノ学習者
・音楽と自己成長を結びつけたい方
・練習に対する新しいアプローチを求める方

 

► 終わりに

 

本書は、ピアノ技術の向上を目指すと同時に、音楽を通じて自分を知るための知恵が詰まった一冊。技術だけでなく、心と身体の調和を意識した学びを深めたい方には、ぜひ手に取って欲しい書籍です。

 

・心で弾くピアノ―音楽による自己発見   著 : セイモア・バーンスタイン  訳 : 佐藤 覚、大津 陽子 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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