【ピアノ】シューマン「Op.68-21 無題」の対主題分析と楽曲構造
► はじめに
シューマンの「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68」は、ピアノ学習者にとって重要な教育的作品集です。
本記事では、その中から第21曲「無題」を取り上げ、特に対主題の使用法と楽曲構造に焦点を当てて分析していきます。
► 実例分析:シューマン「ユーゲントアルバム Op.68-21 無題」
‣ 楽曲の特徴と構造
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-21 無題」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
全体構造:
・Aセクション(1-8小節)
・Bセクション(9-18小節)
この作品は、伝統的な二部分からなる基本形式としながらも、独自の工夫が施されています。特筆すべきは、Bセクションが通常の8小節ではなく10小節に拡張されている点です。
‣ 対主題の展開方法
この曲の最も興味深い特徴は、14小節目から現れる「3音によるアウフタクト的導入」の巧みな使用です。この素材は以下の5つのパターンで展開されています:
1. 対主題(レッド)による導入
2. 主題(ブルー)によるオクターブ上での模倣
3. 入りが上行形へ変形した対主題(グリーン)
4. 下行形へ回帰した対主題(イエロー)
5. クライマックスでの上行形の主題(オレンジ)
‣ 分析のポイント
1. ストレッタ技法の活用
レッド、ブルー、グリーンの主題群は、ストレッタ(追迫)的な手法で重ねられています。これにより、音楽的な緊張感と推進力が生み出されています。
2. 構造的な拡張
「3音によるアウフタクト的導入」と和声に着目すると、点線で区切った14小節2拍目から16小節3拍目へ繋げられることが分かります。つまり、14小節3拍目から16小節2拍目までの2小節間が小節の付け足しと言えます。この拡張部分は:
・音楽的な発展を可能にする
・フレーズ間の自然な接続を実現する
・全体の形式的バランスを調整する
3. フレージングの特徴
イエロー音符による主題は、先行する主題群が終わった後に単独で登場。これは16小節冒頭での構造的な区切りを明確にする役割を果たしています。
► 演奏へのアドバイス
1. 主題の識別
・各主題の特徴を把握する
・特に対位法的な部分では、声部間のバランスに注意を払う
2. フレージング
・アウフタクト的導入の性格を意識する
・主題の重なりが生じる箇所では、各声部の独立性を保つ
3. 構造的理解
・拡張された部分(14小節3拍目から16小節2拍目まで)では、音楽の自然な流れを維持する
・主題や対主題のフレーズの終わりと始まりを意識する
► まとめ
この作品は、シューマンの対位法的な書法の特徴を良く示しています。単なる技巧的な練習曲ではなく、音楽的な表現と構造的な理解を深めることができる優れた教育的作品と言えます。
練習の際は、各主題の特徴を意識しながら、全体の流れを大切にした演奏を目指しましょう。
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