【ピアノ】シューマン「音楽と音楽家」レビュー|ロマン派の天才が残した音楽評論

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【ピアノ】シューマン「音楽と音楽家」レビュー|ロマン派の天才が残した音楽評論

► はじめに

 

ロベルト・シューマン(1810-1856)は、著名な作曲家ですが、同時に鋭い洞察力を持った音楽評論家でもありました。彼は約10年間にわたって精力的な評論活動を行い、当時の音楽界に大きな影響を与えました。

本書「音楽と音楽家」は、シューマンの批評文の大半を収録した貴重な資料であり、19世紀前半の音楽状況や、彼の同時代人である作曲家たちへの評価を知るうえで非常に重要な一冊です。

 

・訳 : 吉田秀和
・出版社:岩波書店
・邦訳初版:1958年
・ページ数:本編252ページ
・対象レベル:初中級〜上級者

 

・音楽と音楽家 著:ロベルト・シューマン 訳:吉田秀和 / 岩波書店

 

 

 

 

 

► 評論家としてのシューマン

 

シューマンは1834年に「新音楽時報」(Neue Zeitschrift für Musik)を創刊しました。この雑誌を通じて、彼は当時の音楽界の最新動向について鋭い観察と批評を展開し、新しい才能の発掘と紹介に尽力しました。特に若きショパンやブラームスの才能をいち早く見出し、彼らを世に送り出した功績は大きいといえます。

 

► 内容について

‣ 独特の分身たち

 

特徴的な点として、シューマンが「ラロー先生」「フロレスタン」「オイゼビウス」という三つの分身を用いて批評を行っている点が挙げられます。これらは彼の精神の異なる側面を表現しています:

・フロレスタン:情熱的で激しい性格
・オイゼビウス:繊細で夢想的
・ラロー先生:冷静で客観的

この独特の書き方により、シューマンは同一の作品に対して異なる視点から複層的な批評を展開することができました。例えば「天才」のセクションでは:

(以下、抜粋)
“亜流の不幸は、原作の表面に目立っているものを身につけるだけで、その本質的な美点を(自然の羞恥によるせいだろう)敢えて模写し得ない点にある。” (オイゼビウス)
“何事にしても、あまり楽々とできるようになり過ぎるのはよろしくない。” (ラロー)
“非難の一声はその強さ十の賞賛に匹敵する。” (フロレスタン)
(抜粋終わり)

 

このように、同じテーマについて三者三様の視点から論じることで、複雑な本質をより立体的に捉えようとしています。

 

‣ 同時代の音楽家たちへの評価 / 文体の特徴

 

シューマンの同時代人であった作曲家たちへの率直な評価も収載されています。特に以下の音楽家たちについての記述は貴重です:

・ショパン
・ベルリオーズ(特に詳細に触れられている)
・シューベルト
・メンデルスゾーン
・リスト

今の時代は、いわゆる同業者についてはあまり触れないようにする傾向がありますが、シューマンはそういった人物達との関わり全てを自分の音楽や執筆にとって重要な位置に置いていたことが分かります。

 

シューマンの文章は、ユーモアと皮肉を効果的に用いた独特のスタイルが魅力です。彼は気に入らない音楽に対しては割と大胆に批判し、逆に優れた音楽には賞賛を惜しみません。音楽を詩的に描写する能力に優れており、ただの技術的分析に終始せず、作品の精神性や感情的内容にまで踏み込んだ批評を展開しています。

例えば、こんな一節があります:

(以下、抜粋)
“「後期のベートーヴェン」が理解できないとは、馬鹿なことをいうものだ。なぜだろう。和声的にそんなにむずかしいのだろうか。構成がそんなに奇妙なのだろうか。その思想があまりちがいすぎているのだろうか。なにかわけがないにちがいない。いったい音楽では無意味ということはありえない。たとえ狂人であろうと、和声の原則にはさからえない。” (フロレスタン)
(抜粋終わり)

 

このように、シューマンは当時の音楽界の常識や先入観に挑戦し、真の音楽理解を追求する姿勢を示しています。

 

► 本書の価値

 

1. ピアノ学習者にとっての価値

本書はピアノ演奏家にとって非常に有益な情報を含んでいます。シューマン自身がピアニストであったこともあり、特にピアノ作品についての論考は詳細かつ実践的です。彼の評論を通して、19世紀前半のピアノ音楽の位置付けを知ることができます。

2. 音楽史的価値

本書は19世紀前半のドイツを中心とした音楽界の状況を生き生きと伝える一次資料としての価値があります。古典派からロマン派への移行期の音楽思想や美学を知るうえで欠かせない文献と言えるでしょう。

 

► まとめ

 

「音楽と音楽家」は、作曲家シューマンの内面を知る手がかりであると同時に、19世紀前半の音楽界の動向を生き生きと伝える貴重な資料です。

もし、シューマンの文章のうち、まずはピアノ演奏に関連する部分のみを読みたい場合は、

【ピアノ】ウリ・モルゼン編「文献に見る ピアノ演奏の歴史」レビュー

こちらのレビューで紹介している書籍を参考にしてください。シューマンの著作から該当内容に限った抜粋が掲載されています。

 

・音楽と音楽家 著:ロベルト・シューマン 訳:吉田秀和 / 岩波書店

 

 

 

 

 

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

ピアノ音楽(ピアノソロ、ピアノが編成に入った室内楽 など)に心惹かれ、早何十年。
ピアノ音楽の作曲・編曲が専門。
物書きとしては楽譜だけでなく文章も書いており、
音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆を手がけています。
Webメディア「大人のための独学用Webピアノ教室」の運営もしています。
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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