【ピアノ】シューマン「愛する五月よ」の消えゆくリズムパターン分析
► はじめに
本記事では、シューマン「ユーゲントアルバム Op.68-13 愛する五月よ」の繰り返し部分で省かれる要素に着目しながら、楽曲の構造と特徴を解説します。
► 実例分析
‣ 楽曲構成
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-13 愛する五月よ」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
A(1-10小節)
A(11-20小節)
B(21-24小節)
A’(25-32小節)
C(33-36小節)
B(37-40小節)
A’(41-48小節)
C(49-52小節)
この構成をより大きなセクションでまとめると:
A(1-20小節)
B(21-24小節)
A’(25-36小節)
B(37-40小節)
A’(41-52小節)
‣ 各セクションの特徴と変化
Aセクション(1-20小節)
Aセクションの最大の特徴は、8,10,18,20小節目に出てくる ♫♪ (8分音符3つのパターン)による足取りのようなリズム。素朴で親しみやすい印象を与えます。このリズムパターンは、同じユーゲントアルバムの「Op.68-6 哀れな孤児」を思わせます。
Bセクション(21-24小節、37-40小節)
Bセクションでは、より大きな表現に変わります。主な特徴は:
・ダイナミクス指示が多くみられ、より表情的
・8分音符3つのリズムパターンが消失
21-24小節と37-40小節は同一内容ですが、前の文脈が異なるので、その印象が異なります。
A’セクション(25-32小節、41-48小節)
A’セクションはAセクションの変形ですが、重要な違いがあります:
・8分音符3つのリズムパターン( ♫♪ )が完全に消失
・次のセクションへより滑らかな連結ができるメロディ線の変更(31-32小節、47-48小節)
→ 次へ続いていく印象が強い
この変化はただの繰り返しの変奏ではなく、Cセクションもセットで主題の「発展」と捉えることができます。子どものような足取りのリズムが消え、より成熟した表現になっています。
Cセクション(33-36小節、49-52小節)
Cセクションは曲中で最も情感豊かな部分であり:
・ダイナミクスが強くなる
・和声が最も充実する
・旋律が高い音域に達する
49-52小節は終結部として機能し、曲全体を自然に締めくくります。
‣ 省かれる要素の意義 —「8分音符3つのリズム」の消失
最も注目すべき点は、8分音符3つのリズムパターン( ♫♪ )が20小節以降、一度も登場しないことです。この「消失」には深い音楽的意味があると考えられます:
1. 情感の変化と成熟:初めは素朴で子どものような足取りが、より成熟した表現へと変わっていく過程を表している
2. 季節の移り変わりの暗示:タイトルの「愛する五月よ」という春の季節感から、時間の経過と季節の変化を表現している可能性がある
3. 音楽的な展開技法:単調な繰り返しを避ける
► まとめ
上記の構造的特徴を理解し、各セクションの性格の違いを意識して演奏することが重要です。
この作品からは、単純な形式の中にあるシューマンの些細なこだわりが読み取れました。日頃取り組む他のあらゆる作品であっても、本記事で取り上げたような分析の視点を持って楽譜を読むようにしましょう。
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