【ピアノ】サティ「子供の曲集、新・子供の曲集」特徴と学習のヒント:初級者向け
► はじめに
エリック・サティ(1866-1925)の「子供の曲集」シリーズは、初級者がサティの音楽世界に触れるのに適した入門作品です。主に「3つのジムノペディ」で知られるサティですが、これらの作品は技術的な難易度を抑えながら、彼独特のユーモアを味わえる貴重な初級者用曲集となっています。
本記事では、これらの作品の特徴と効果的な学習方法について、初級者向けに詳しく解説します。
►「子供の曲集、新・子供の曲集」の主な特徴
作品の基本構成:
・4つの曲集:「子供の曲集」3集(各3曲)+ 「新・子供の曲集」1集(3曲)= 計12曲
・コンパクトな構成:各曲1-2分程度、各曲集3曲全体は3-4分で演奏可能
・適度な難易度:バイエル後半~ブルクミュラー25の練習曲入門程度
書法的配慮やサティらしい特徴:
想像力をかき立てるタイトル:「いんげん豆の王様の戦争の歌」など、サティらしいユーモラスで詩的な表題
楽譜中の文章:作曲家自身による演奏指示や説明文が随所に書かれている
技術的配慮:手の大きくない学習者でも演奏できる、無理のない音域と指使い
両手のバランス良い練習:右手偏重にならない、両手にとって学習効果のある音遣い
和声の面白さ:バイエルなどの曲集には出てこない近現代作品ならではの和声感覚が散りばめられている
サティの作品は、音数が少ないながらも表現や楽曲のコンセプトの理解という視点からは難しさを持つ作品が多い印象です。しかし、この作品は、作曲家自身による文章や表題に対する想像力こそ必要ですが、通常のバイエル併用曲集と同様な古典的な扱い方で取り入れることができます。
► 各曲の概要
‣ 子供の曲集 第1集「短い子供のお話」(1913年)
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、「いんげん豆の王様の戦争の歌」曲頭)
第1曲:いんげん豆の王様の戦争の歌
・小節数:76小節
・演奏時間:約1分
・特徴:左手のスタッカートによる可愛らしい行進曲風、子供の遊び心溢れる戦争ごっこを思わせる
第2曲:チューリップの小っちゃな王女さまが何ておっしゃってるか知ってる?
・小節数:16小節
・演奏時間:約1分
・特徴:対位法的に2つの線で書かれたシンプルな間奏作品
第3曲:アーモンド入りのチョコレートのワルツ
・小節数:64小節
・演奏時間:約1分
・特徴:第2曲と似た書法を持つ甘美なワルツ
‣ 子供の曲集 第2集「絵に描いたような子供らしさ」(1913年)
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、「一日への小さな前奏曲」曲頭)
第1曲:一日への小さな前奏曲
・小節数:52小節
・演奏時間:約40秒
・特徴:アラベスクを思わせる、シンプルで爽やかな作品
第2曲:子守歌
・小節数:32小節
・演奏時間:約1分20秒
・特徴:同じ音型の反復による夢への誘い
第3曲:大きな階段の行進曲
・小節数:80小節
・演奏時間:約1分30秒
・特徴:階段を上り下りするような音型が印象的で、「第1集 第1曲」の行進曲とはタイプが異なる
‣ 子供の曲集 第3集「迷惑な軽い罪」(1913年)
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、「大きな頭の友人という存在をやっかみ」曲頭)
第1曲:大きな頭の友人という存在をやっかみ
・小節数:32小節
・演奏時間:約1分
・特徴:時々音がぶつかったり急に美しくなる最終和音など、少しひねくれた音楽的ユーモア
第2曲:彼のジャムパンを失敬して食べてしまう
・小節数:32小節
・演奏時間:約1分30秒
・特徴:こっそりとした動作を表現するかのようなスタッカートが効果的
第3曲:足のまめを理由に輪回しの輪を頂戴するために
・小節数:36小節
・演奏時間:約30秒
・特徴:子供の曲集でこれまでに出てきた様々な音型が顔を出す、総まとめ的な作品
‣ 新・子供の曲集(1913年)
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、「横着でけちんぼうでろくでなし」曲頭)
第1曲:横着でけちんぼうでろくでなし
・小節数:24小節
・演奏時間:約1分
・特徴:気だるさや投げやりな感じが、スタッカートなど様々な要素で表現されている
第2曲:無題
・小節数:24小節
・演奏時間:約1分30秒
・特徴:「無題」となっているが、版によっては「子守歌」とされている穏やかな作品
第3曲:とってもすてきな女の子
・小節数:52小節
・演奏時間:約1分30秒
・特徴:曲頭に「あの子はとってもおりこうさん」と書かれた、素朴な恋心を描いているかのような作品
► 学習のポイント
・タイトルの面白さから入り、興味を持つ
・楽譜に書かれたサティの文章を読み、作品の背景を自由に想像する
・簡単な物語を作って、音楽と結び付ける
これらの作品集の面白いところは、特徴的なタイトルと、楽譜中に文章が書かれていることです。したがって、何か日常的なことに置き換えてイメージしてみたり、言葉遊び的な要素を取り入れてみると、より一層楽しめるでしょう。
演奏者の年齢や生活経験によってもイメージが全く変わるのが、こういった想像の幅がある作品の面白いところです。
► 推奨楽譜
推奨楽譜:エリック・サティ ピアノ曲集Ⅱ ドレミ楽譜出版社
・12曲すべてが収録された最も入手しやすい版
・日本語訳付きで、初心者にも理解しやすい
► 終わりに
サティの「子供の曲集」シリーズは、技術的な難易度を抑えながら、豊かな音楽体験を提供する教材です。ユーモラスなタイトルと作曲家自身の文章が、演奏者の想像力を刺激します。
これらの作品を通じてサティの音楽への入り口を開くことができ、初級段階での音楽的視野を広げることが可能です。
同難易度帯の別の作品は、「おすすめの楽曲(初級)」カテゴリーで紹介しています。
► 関連コンテンツ
著者の電子書籍シリーズ
・徹底分析シリーズ(楽曲構造・音楽理論)
Amazon著者ページはこちら
YouTubeチャンネル
・Piano Poetry(オリジナルピアノ曲配信)
チャンネルはこちら
SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら
コメント