【ピアノ】「シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現」レビュー
► 基本情報
著者:ジョルジ・シャンドール
監訳:岡田 暁生 他5名
出版社:春秋社
初版:2005年(日本語版)
ページ数:353ページ
・シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現 著 : ジョルジ・シャンドール 監訳 : 岡田 暁生 他 訳5名 / 春秋社
► 本書の特徴と価値
本書は、20世紀を代表するピアニスト兼教育者であるジョルジ・シャンドールによる、科学的アプローチと芸術的解釈を見事に融合させたピアノ教本です。150もの図解を用いて、身体のメカニズムから音楽表現まで、体系的かつ実践的な指導を展開しています。
際立つ特徴:
1. 科学的アプローチ
・身体のメカニズムを詳細に解説
・重量奏法への批判的考察を含む新しい演奏理論
・150の図解による視覚的な理解サポート
2. 実践的な構成
・第1部:ピアノ技術における基本要素(音楽・動作・感情、ピアノ、演奏する身体のメカニズム)
・第2部:五つの基本動作(五指運動と音階と分散和音、回転、スタッカート、突き、五つの基本動作のまとめ など)
・第3部:技術は音楽になる(五つの基本動作の確認と応用、ペダル、練習について、暗譜、音楽の句読法 など)
3. 特筆すべき章:第16章「音楽の句読法」
・フレージングの24分類
・フレージング記号が書かれていない時にどうすればいいか
・よく疑問に挙がる、「スラーの終わりでいちいち音を切らない」理由についても、この章で解説
► 対象読者と活用方法
想定読者:
・中級~上級のピアノ学習者
・ピアノ指導者
・演奏理論に関心のある方
► 効果的な活用方法
参考書としての使用:
・必要な章を随時参照できる構成
・実践と理論の往復的な学習が可能
ひと通りのピアノに関する技術や知識が揃っているので、一度読破したら終わりではなく、度々開き直して参照する使い方が有効です。
レッスンとの併用:
・独学での学習後、教師の指導を受けることで理解が深まる
・特に身体の使い方については、実地での確認が推奨
身体の使い方、手の形などについては図例されてはいますが、独学でつまづく可能性のある分野です。この書籍で学習した後に、この書籍を持ってスポットレッスンでアドヴァイスを求めに行くのもいいでしょう。
► 本書の強み
1. 包括的なアプローチ
・技術面と音楽的表現の両面をカバー
・理論的説明から実践的アドバイスまで網羅
2. 実践的な知見
・著者の豊富な演奏・教育経験に基づく指導
・具体的な問題解決方法の提示
3. 永続的な価値
・繰り返し参照可能な体系的な内容
・基礎から応用まで段階的な学習が可能
個人的には、グリーンの教科書的な装丁も気に入っています。
► 特徴的な引用
本書には、ピアノ演奏と学習に関する深い洞察が随所に見られます:
幸いなことに、非常に意識的な活動も、やがて無意識に、そして完全にマスターされると自動的になるものである。
(抜粋終わり)
この言葉は、技術習得過程における意識的な練習の重要性と、最終的な自動化への道筋を示しています。書籍を手に取って、前後の文脈も踏まえて読んでいただきたいと思います。
また、暗譜に関する以下の指摘は考えさせられます:
暗譜に要する時間は、譜読みに払われる注意力によって、劇的なまでに変化することが知られている。
集中せずに、内容に注意を払わず、機械的に楽譜を読むだけなら、いつまで経っても暗譜は出来ないかもしれない。
だが、与えられた楽譜をその意味について極度に集中しながら読むなら、ほんの数回読んだだけで暗譜が出来てしまうこともあるだろう。
機械的なアプローチと意識的なそれとの違いは非常に大きい。
(抜粋終わり)
► 結論
本書は、単なるテクニック指南書を超えて、ピアノ演奏の本質に迫る貴重な教本です。科学的アプローチと芸術的解釈の融合、そして著者の豊富な経験に基づく実践的なアドバイスは、あらゆるレベルのピアニストにとって価値ある指針となるでしょう。特に、技術と表現の統合を目指す中級~上級者にとって、必携の一冊と言えます。
・シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現 著 : ジョルジ・シャンドール 監訳 : 岡田 暁生 他 訳5名 / 春秋社
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