【ピアノ】録音チェック学習の着眼点と応用方法
► はじめに
本記事では、ピアノ学習における効果的な方法の一つとして「録音チェック」に焦点を当て、その利点と応用方法を詳説。
日々の練習にどう録音を取り入れ、どのように活用すれば効果的かを学び、さらに成長するためのヒントをお届けします。
► A. 準備編:ICレコーダーの選び方と基本的な使い方
‣ 1. 効果的な録音を支えるICレコーダーの選び方
ICレコーダーを選ぶ際の購入ポイントは、以下の3点です:
・練習を録って聴いたら消去するので、8GBあれば十分
・録ってすぐに聴きたいので、Bluetooth対応だと尚良し
・楽器練習を想定されている製品を選ぶ
ちなみに、「録音の方式」については少し複雑になるので、「ピアノ練習のために購入したい」という意図だけであれば知らなくてOK。
これらのポイントから総合判断すると、現時点でのおすすめのICレコーダーは以下のもの。
・LS-P4 ICレコーダー ブラック [8GB /Bluetooth対応 /ハイレゾ対応]
筆者自身も、ICレコーダーは買い替えながら長年「OLYMPUS製品」を使っています。上記の条件を満たしているうえに、値段もお手頃です。
‣ 2. 録音習慣化への第一歩
ICレコーダーを使う用途を、練習メニューとして組み入れてしまいましょう:
・譜読みが終わっている作品を利用し、楽曲の「通し練習」をして録音する
・それを聴いて、その日の練習計画を立てるようにする
► B. 録音を通じた緊張感のコントロール
‣ 3. 緊張感を持つために録音する
ICレコーダーで通し練習を録音する目的は、「聴き直し」に使うためだけではありません。
「録音しているという ”緊張感” を伴いながら通す」という用途でも、本番へ向けた重要な練習になります。
「自身の練習をしっかりとマネジメントする」という観点でも、ICレコーダーは効果的に取り入れることができます。
‣ 4. 誰かに見られている意識が生む学習モチベーション
常に、誰かに見られていると思うと、学習モチベーションが続きます。
練習や学習の記録として音楽ブログを始めて本当に見られるのもいいですし、見られていると思うだけでもOK。
見られていると思うだけの場合に有効なのは、練習のはじめからICレコーダーを回してしまうこと。
そうすると、誰かに見張られているような適度な緊張感をもって練習を開始することができます。
不思議なのですが、少し練習しているとICレコーダーを回していること自体を忘れるのです。その録音を聴き返せば、素の状態でどんな状態になっているのかを知ることができます。
もちろん、重い腰が上がりにくいのは取りかかりだけなので、途中から忘れても特に問題はありません。
ブログに挑戦してみたい方は、以下の記事を参考にしてください。
► C. 実践編:録音チェックの具体的な方法とポイント
‣ 5. 完璧を求めずに始める:早期録音が開く自己改善
自分の演奏を客観的に聴けるようになっていない限り、目の前の楽曲をはじめて録音した時というのは、大抵残念な思いをすることになります。
それだったら、たくさん時間をかけてからではなく、早い段階で一度、通し練習の録音を経験しておいた方がいい。
早い段階で明らかに不自然なところなどを把握できれば、その後の学習がスムーズに進みます。
この段階ではまだ通して弾くだけで精一杯で、音楽的な演奏どころか、つまづいたり止まってしまったりすることもあるでしょう。
しかし、それも含めてその時の状態を把握しておいてください。
‣ 6. 本番直前の集中的録音チェック
・独学の方の場合は、本番の前 など
・レッスンに通っている方は、レッスンや本番の前 など
を中心に録音回数を増やしてみましょう。そして、自分の耳で聴いても明らかにおかしなところは全て直してから他者に聴いてもらうようにする。
この繰り返しは、本当に力になります。
学習が浅いうちは、「自分の耳で聴いても明らかにおかしなところ」はまだ感覚が鋭くなく、聴いても気づけない自身の欠点も多いはず。
一方、これを何度も繰り返していけば:
・「あっ、またここで転んでいる」
・「いつもトリルが重くなるなあ」
・「毎回、ダイナミクスはきちんと表現できている」
などといったように、「良い部分」と「欠点」のどちらにおいても、自身の演奏傾向が見えてくるでしょう。
この傾向に気付ければ、成長のきっかけになります。他の楽曲に取り組む際にも活かせるからです。
‣ 7. 理想と現実の音楽の差を縮める:録音による自己発見
通し練習などをICレコーダーで録音してみて、「自分の想像」と「録音されたもの」とのギャップを埋めていく練習をするのはとても重要です。
例えば:
・録音してみたら思っていたよりもテンポが遅かった
・演奏している時には気づかなかったけれど、転んでいるところがあった
・変な場所で「間(ま)」が空いてしまっていた
こういったことに、録音をしてみることではじめて気づくこともあるでしょう。これが「ギャップ」です。つまり、自分の音をしっかりと聴くことができていないのです。
ただし、これはある程度経験で解決していくことができます。
録音をして、「自分の想像」と「録音されたもの」とのギャップはどこなのかを把握したうえで、丁寧に部分練習をしていく。
これを繰り返すと、段々と理想と現実のギャップが無くなっていき、頭で鳴らした音楽を演奏することができるようになります。
シェーンベルクは、作曲の基礎技法 著:シェーンベルク 音楽之友社 という書籍の中で、以下のように語っています。
およそ、良い音楽家になりたいと思うのならば、「内面の耳」、すなわち、耳によるイメージ、つまり、想像で音楽を聞く能力をそなえていなければならない。
(抜粋終わり)
これは、作曲をしている学習者へ向けられた言葉ですが、演奏にもそのまま当てはまる名言です。
「こういったような音を出したい」という自分の想像がなくては、もとよりそのような音を出すきっかけすら作れません。
・作曲の基礎技法 著:シェーンベルク 音楽之友社
‣ 8. 初回録音チェックの重要性
録音チェックは、その音源を初めて聴く1回目に全集中してください。
「最初1回目に聴いた時に不自然だと思ったところが、何度か聴いているうちに違和感無くなった」
こういった経験はありませんか?
多くの場合は勘違い。耳が慣れてしまっただけで、最初におかしいと思ったところはやはりおかしいのです。
録音を聴く1回目に全集中して、その時の感じ方を重視するようにしましょう。
‣ 9. 録音チェックで確認すべき10のポイント
録音チェックで確認すべきポイントを挙げておきます:
・自分で望む音色が出せているか
・テンポに問題はないか
・音楽が流れているか(変なところで変なタメがないか など)
・フレーズが細切れになってしまっていないか
・デュナーミクやアゴーギクが自然か
・予期せぬところにアクセントがついてしまっていないか
・リズムが曖昧になってしまっていないか
・暗譜の問題点はないか
・「録音している」という緊張感の中でどの程度くずれずに演奏できたのか
・バスラインの横つながりが問題ないか
こういった録音&チェック&修正を繰り返すことで、はじめからギャップが少なくなるくらい自分の音を客観的に聴けるようになることが目標です。
‣ 10. バスラインの繊細なチェック
前項目でチェックすべきポイントとして挙げた「バスラインの横つながりが問題ないか」という部分について具体的に解説しておきましょう。
メロディという一番目立つ部分がうまくいっていると、バスラインは全体の中でごまかして聴いてしまいがち。
例えば、順次進行で下りていくバスのつながりを聴いていて、どれか一つの音だけが大きな音で飛び出てしまっていたりすると問題です。
バスラインだけを取り出してもそれがバランスよくまとまっていることを目指していくべき。
また、ペダル効果で連結されている以下のようなバスにも注意が必要です。
ショパン「ノクターン 第2番 op.9-2」
譜例(PD作品、Finaleで作成、曲頭)
丸印で示したバスラインを把握したうえで、それらの同士のバランスをチェックしていきましょう。
‣ 11. 区切って録音チェックする
通し練習での録音チェックは取り入れることも多いと思いますが、区切って短い単位にしてやってみることも検討してみましょう。
例えば、8小節で大楽節が作られている部分であれば:
・9小節目の頭までを録音して
・チェックして反省し
・細部の練習をしたうえで
・再度、録音チェックする
これを何度も何度も回していきましょう。
「限られた練習時間の中で、何度も何度も録音&チェックできる」
というのが、区切って行う最大のメリット。
区切る単位は1ページ単位くらいまでには広げても構いませんが、あまり長い単位にしてしまうとPDCAを1回まわすのにえらく時間がかかってしまうので、効果は上がりません。
‣ 12. もう少し魅力的になるかもしれないという疑いを常に持つ
先日、大昔の演奏発表会の音源が出てきたので聴いたのですが、びっくりするくらいテンポが遅くて驚きました。
当時はそれなりに練習していたはずなので、精一杯だったのかもしれません。しかし、今思い返してもその曲で難しくて苦労した覚えは一切ないのです。
つまり、「もう少し魅力的になるかもしれない」という視点が自分の中に全く無かったのでしょう。
当時は、自分の演奏を録音して聴いてみることも一切していませんでした。
当然、客観的に聴く力も不足していて、巨匠が弾いている演奏と同じくらいのものになっていると思っていたのですから、今聴いてみてギャップがあるのも当たり前です。
録音チェックを通して、自分の演奏を客観的に聴けるようになるための策を実行すべき。
「もう少し魅力的になるかもしれない」という疑いを常に持って、本番まで練習してみてください。
► D. 応用編:PDCAサイクルと継続的な成長戦略
‣ 13. ピアノ練習におけるPDCAサイクルの回し方
「PDCAサイクル」については数多くの書籍などで話題にされています。
「究極の英語学習法 はじめてのK/Hシステム」という書籍では、PDCAサイクルについて以下のように書かれています。
「対策(Plan)を立てて、練習(Do)して、録音してチェック(Check)、さらに対策(Action)、また練習」
(抜粋終わり)
ピアノ練習において、比較的多くの方が「Do」だけになってしまっている傾向があります。
PDCAのうち、Dしかない状態で練習していることになります。該当する方は、以下の内容を実行してみてください。
【対策(Plan)を立てる】
その日の練習で何を改善したいのか、どんな点に焦点を当てて、どんな練習をするのか。
こういったことを、音を出し始める前に考えてみましょう。
練習の効率を上げるために重要なことは、「その練習の目的をはっきりさせる」ことです。
【練習(Do)する】
実際に音を出して練習する際にも、「Plan」で立てた対策を踏まえながら丁寧にさらっていきましょう。
また、ずっとDoばかりをやっているのではなく、新鮮味がなくなってきたらチェック(Check)に進むようにしましょう。
そうすることで、モチベーションを保ちながらPDCAを回すことができます。
【録音してチェック(Check)する】
「録音→チェック」を徹底することで、「自分で思っている状態」と「実際の演奏の状態」とのギャップを埋めていきます。
そして何よりも、PDの部分、つまり、「対策(Plan)を立てて、練習(Do)した内容」が上手く行っているかを確認することが重要です。
【さらに対策(Action)、また練習する】
録音してチェック(Check)した内容を踏まえて、さらなる対策を練ります。
「録音を聴いても上手く弾けてるからOK」で済ませずに、自分自身にどれだけ厳しくできるかが、この過程でのポイントです。
本当に完成された演奏であれば、「よし」としても構いませんが。
ここまででPDCAサイクルが一周しました。このサイクルを1日の練習の中で何回か回すのが理想的です。
常に目的意識を持って、練習していきましょう。
‣ 14. 練習するときの「注意力」を重視する
「嬉遊曲、鳴りやまず―斎藤秀雄の生涯 中丸美繪 (著) (新潮文庫) 」
という書籍に、上達のために有益な文章があるので抜粋紹介します。
斎藤秀雄氏は、言わずと知れた著名な音楽教育者。「小澤征爾さんの育て親」として知られる他、書籍「指揮法教程」のオレンジは音楽好きで知らない方はいません。
斎藤の発想はこうだった。
人間には肉体的頭脳的に別個の「素質」があり、それを伸ばす「努力」と勉強するときの「注意力」、
この三つを掛け算したところで成果が出てくる。
(抜粋終わり)
この中の「注意力」という部分を磨くためには演奏中に意識するしかないのですが、ICレコーダーを使った丁寧な録音チェックもサポートになります。
録音された演奏を「注意深く」聴くようにしましょう。
そしてゆくゆくは、ICレコーダーに頼らず自分で判断できる耳を作り、その耳が最高の先生にならなくてはいけません。
練習で集中することは、単純に練習の定着を促進するだけでなく「自分の演奏の改善点に気づける」という意味でも重要なのです。
・嬉遊曲、鳴りやまず―斎藤秀雄の生涯 中丸美繪 (著) (新潮文庫)
‣ 15. 本番の経験を次の成長へ:録音を活用した振り返り方法
本番の機会というのは、次の本番へ向けての最大の成長ポイント。
「100回のレッスンよりも1回の本番」などという言葉さえ飛び交うほど、1回の本番というのはその準備期間も含めて大切なイヴェントとなります。
本番の何が成長ポイントなのかというと:
・準備期間の蓄積と
・本番を踏む経験そのものは当然のこと
・本番の録音という最高の教材を手に入れられること
緊張した中で演奏すると良くも悪くもどうなっちまうのか、というのを、自分の耳で確認しなくてはいけません。
前提として、本番は必ず録音しておくべきです。弾きっぱなしにしてしまうと大きな成長の機会を逃してしまいます。
小さな弾き合い会では、参加者がお互いに楽しむためにみんなで録音を遠慮するのも良い方法ですが、ホールでの大規模な本番では、必ずICレコーダーで自分の演奏を録音してください。
録音をチェックする時のポイントは、「いつも苦手としていたところのミスはあまり気にしない」ということです。
どうしてもミスタッチばかりを気にしてしまいがちですが、いつも苦手としていて本番でもうまくいかなかったところは、一旦無視してください。
それよりも、練習では問題とならなかったにも関わらず本番で浮き彫りになった傾向を気にしましょう。
例えば:
・緊張で、予想外のところで速くなった
・緊張で、全体的にテンポが速くなった
・練習ではぜったいに忘れなかったところで暗譜が怪しくなった
・靴の音がとても響いていた
・椅子を引きずった音がとても響いていた
・登場から演奏開始までの時間が長すぎた
など、演奏そのものに加えてステージマナーについても録音内容からチェックすべき。
また、これらのような傾向自体に自分が舞台上で気づいていたのか、それとも、まったく気づいていなかったのかどうかも、あわせてチェックしてください。
もちろん、良くできていた部分についてもチェックして自分を褒めるべきです。
繰り返しますが、本番で “はじめて” 浮き彫りになった傾向を全力をあげて確認するようにしましょう。
これを本番の度に毎回毎回やっていると、大きな蓄積になります。
► 終わりに
録音チェックは、一見面倒に感じるかもしれません。しかし、この方法を継続することで、演奏は驚くほど進化します。
ICレコーダーは単なる録音機器ではなく、上達を支える練習パートナー。ぜひ適切に取り入れてみてください。
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