【ピアノ】弾く手を変えてsubitoでのダイナミクス変化を容易に
► はじめに
ピアノ演奏において、subito(急に)でのダイナミクス変化は技術的な課題の一つです。特に同じ手で連続したフレーズを弾きながら急激に音量を変えることは、演奏者に高度なコントロールを要求します。subitoの直前の音まで釣られて不自然になってしまったりするミスを避けなくてはいけません。
実は、「弾く手を変える」という単純な方法で、この難しさを大幅に軽減できることがあります。本記事では、この実践的なテクニックを解説します。
► なぜ手を変えるとsubitoが容易になるのか
同じ手で音量を急変させる場合、演奏者は以下のような複数の要素を同時にコントロールする必要があります:
・指のタッチの強さの急激な変更
・手首や腕の重みのかけ方の瞬時の調整
・フレーズの流れを維持しながらの音色変化
一方、手を変えることで、新しい手は「まっさらな状態」から適切な音量で弾き始めることができます。これにより、演奏者の意識は以下のように整理されます:
・前の手の運動記憶や慣性に引きずられない新しいダイナミクスを「最初から」設定できる
・音楽的な切り替わりが物理的にも明確になる
► 具体例
‣ 例①:モーツァルト「ピアノソナタ ハ短調 K.457 第3楽章」
モーツァルト「ピアノソナタ ハ短調 K.457 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、65-68小節)

楽譜の解釈
66小節目から f(フォルテ)になりますが、この f はスラーとスタッカートのアーティキュレーションの境目に書かれています。このことから、直前にクレッシェンドを補わずに「subitoで f にする」と解釈するのが適切です。
演奏上の課題
流れの中でいきなりsubitoで音量を上げるのは、演奏技術的に困難を感じる場合があります。
解決策:手の配分の変更
現行のヘンレ版などでも採用されている方法ですが、subito f のところから左手で演奏することをおすすめします。具体的には:
・66小節目のスラー終わりの音まで:右手で演奏
・66小節目の f から:左手に切り替え
この手の切り替えにより、新たに弾き始める左手は最初から力強いタッチで入ることができ、subito f の表現が自然に実現できます。
‣ 例②:モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 第3楽章」
モーツァルト「ピアノソナタ ト長調 K.283 全楽章」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、65-68小節)

この楽章では、65小節目から p(ピアノ)とf の急激な交代が繰り返されます。
音楽的解釈:
・f の部分は、オーケストラの他楽器がアクセント的に加わる効果を表現
・スラーがかかった部分の4音と独立した響きが想定される
・したがって、クレッシェンドではなく、subitoでの音量切り替えが適切
演奏アプローチ
譜面通りの手の配分でも演奏可能ですが、subitoでの切り替えが難しいと感じる場合は、「65-68小節の f の部分をすべて左手で弾く」という選択肢もあります。音域が近いからこそ実現できる方法であり、これにより、p と f の対比がより明確に表現できます。
► このテクニックを活用する際の注意点
1. すべてのsubitoに適用できるわけではない
フレーズの流れや音楽的文脈を考慮する必要がある
2. 手の切り替えが不自然にならないか確認
運指などが複雑になり過ぎないかチェックし、「一応できるから」という無理矢理な処理は避ける
3. 音楽的な必然性を優先
技術的便宜だけでなく、音楽表現として適切かを判断する
上記の2つの例では、技術的に容易になり、かつ、音楽表現面でもコントラストを明瞭に表現できるケースでした。このように、多方面から考慮して手の配分を決めることが重要です。
► 終わりに
弾く手を変えることでsubitoのダイナミクス変化を容易にする方法は、すべての楽曲に適用できるわけではありませんが、適切な場面で活用すれば演奏の質を高める有効な手段となります。
自身が練習している楽曲の中で、このテクニックを応用できる箇所を探してみてください。演奏難易度を下げながら、より音楽的な表現を実現できる可能性があります。
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