【ピアノ】ピアノへ向かわずにできる学習法:空いた時間を有効に活用する方法

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【ピアノ】ピアノへ向かわずにできる学習法:空いた時間を有効に活用する方法

► はじめに

 

音楽学習では、実際にピアノを弾く時間だけでなく、楽器に向かわない時間での学習も重要な役割を果たします。本記事では、より深い音楽理解を目指せるように、効果的な「机上学習」の方法を紹介します。

 

► A. 基礎的な学習習慣

‣ 学習したい音楽資料を持ち歩く

 

ピアノの練習自体はピアノへ向かわないとできませんが、スキマ時間さえ見つければどこでも音楽学習はできます。

おすすめするのは、軽量な資料を常に持ち歩くこと。iPadなどで電子書籍を持ち歩くのも良い方法です。

 

時間があるときに、大した用事もないのにスマホをいじるくらいであれば、その時間を音楽学習に充てることで相当な学習時間を生み出せます。

スマホで電子書籍を読むのであれば、それも効果的な学習方法になります。筆者は外出するときには常にiPadを持ち歩いています。

子供の頃、犬の散歩へ行く時、読む暇がないにも関わらず好きな単行本を持っていったりしていました。この習慣が、現在のやり方につながっているのかもしれません。

 

学習時間を確保する方法として音楽資料の持ち歩きをおすすめする理由は、単に時間の有効活用だけではありません。ここまで読んで気づいた方もいるかもしれませんが、これは自分の気持ちのためでもあるのです。

学習したい資料を常に身につけていることで、幸せな気分になります。外ではバッグの中、家では枕元に置くなど、好きなものに囲まれる環境を作ることで、学習への気持ちも高まります。また、いつでも学習できる準備ができているという安心感も得られます。きちんと取り組むことが前提条件ですが…。

 

自身に合った方法で音楽資料を身近に置き、好きなものに囲まれる毎日にしてみましょう。

 

‣ 新しく勉強を始める分野で潔く好スタートを切る方法

 

音楽理論、音楽史、ピアノの構造など、何か新しく勉強を始めようと思っている分野もあるはずです。しかし、いつまでもスタートを切れずに熱が冷めてしまうのはもったいないですね。

潔く好スタートを切る方法があります。

「とりあえず、この1冊だけやればいいや」と終わりを決めてしまうこと。

 

人間は終わりの見えないことはできません

例えば、最初の1回は好意で始めた無償の手伝いも何回か頼まれると嫌になってしまいます。単純に面倒臭いだけではなく、ずっと続くのかと思うと先が見えなくて不安になるため、抜け出したくなるのでしょう。音楽学習でも似たようなところがあって、その学習の一応の終着点が見えていると、急に腰が軽くなったり気持ちが軽くなったりします。終わりさえ決めれば、大抵のことはできます。

音楽ではどの分野も突き詰めれば奥深く、ずっと学習が続きますし、終わりはありません。しかし、今始めようとしているこの学習については、無理矢理にでもいったんの終わりを決めてしまってください。

 

人間、短期的に取り組むからこそ集中できますし、ちょっとの忍耐すらできます。

「とりあえず、この1冊だけやればいいや」と終わりを決めてしまう。それも、その1冊は定番書にしてハズレを引かずに王道を学習する。

これらだけでも意識すると、新しく勉強を始める分野で潔く好スタートを切ることができます。

 

► B. 自己分析と振り返り

‣ 自分の中で以前と比べて変わったことを整理する

 

少しでも良い音楽ができるようになるために必要なのは、神頼みをすることではなく、上手な人と手をつなぐことでもなく、毎日、少しづつ何かを改善していくことです。

コツコツ累積をしていると以前と比べて自分の中で変わった部分が出てきているはずです。小さなことでもいいので、変わったことや意識するようになったことを整理してみましょう。上達した内容ではなくても、自分の中での変化であれば挙げてみてください。例えば:

・自分一人で運指やペダリングを決められるようになった
・シューベルトのピアノ音楽に詳しくなった
・先生が変わってから、ようやく音色を考えるようになった
・人に指摘されて恥ずかしい思いをしてから、楽語を調べるようになった

 

筆者の場合は、著名な作品過ぎてかえって距離をとってしまっていたような「名曲」と言われる作品に積極的に取り組むようになりました。演奏でというよりは、そういった作品をピアノ編曲することに力を入れています。

また、自宅にはグランドピアノとアップライトピアノの両方を置いているのですが、ピアノの構造を知ってからはそれぞれの良さを感じることができるようになり、アップライトピアノにも多く触れるようになりました。

 

日々学習していると様々な変化があり、少しずつ何か新しいことを知ったり、少しずつ何かが改善されたりしていきます。それを確認して少し幸福度が上がって、また明日も頑張ろうと思えるかが大事ですね。そうやって勝手に楽しんでいることが、結局は上達にとっても近道になります。

 

‣ 楽曲以外の分析もする

 

分析は、楽曲に対して行うだけでは不十分です。演奏に活かせそうなあらゆることに対して分析を行いましょう。例えば:

・選曲傾向
・日々の練習内容の傾向
・苦手意識がある楽曲の共通点
・愛用ピアノのコンディション(調律面 他)
・憧れるピアニストのレパートリーの傾向
・一度使用したホールの特徴

他にも分析すべき項目が出てくることと思います。

 

「分析して知っておく」ということは、「対策できる」ということです。こういったことは、普段何となくピアノに向かっているだけでは気づかないことも多いでしょう。

知識はどんなときにでも力になります。分析力を鍛え、あらゆる項目を分析することで今より一歩上を目指しましょう。

 

► C. パターン学習と共通点発見

‣ 似たようなものをたくさん集める学習方法

 

学習中に壁にぶつかったり苦手分野に直面したりすることは誰にでもあります。そんなとき、特に効果的な学習方法があります。 つまずいたものに似たような素材をたくさん集めて並べてみる方法です。具体例を挙げると:

・「この系統のエチュードが苦手」と感じたら、過去に練習した作品も含め、似たタイプのものをすべて集める
・楽曲分析で複合三部形式が理解しづらければ、楽式系の教材から複合三部形式の作品例をすべて抽出する
・楽典の調判定でF-durに頻繁につまずくなら、F-durが正解の問題だけを集めて集中的に見直す

 

このように似た素材を一覧化する最大の利点は、そこから一定のパターンや傾向が見えてくることです。そうすると、なぜつまずいているのかの原因が明確になり、具体的な対策が立てやすくなります。さらに、集めた素材を使って集中的なドリル学習も可能になります。

 

この学習法を取り入れたきっかけは、高校時代に使っていた英語参考書にあります。かつての有名予備校講師、伊藤和夫先生の著書(「ビジュアル英文解釈」「英文解釈教室」など)の中で「同じ構造の短い英文を集めて一覧にすると、効果的な学習になる」という一言がありました。

この英語学習での経験を音楽学習に応用してみたところ、どの分野でも同様に効果があることが分かりました。パターン認識は、語学でも音楽でも学習の基礎となります。

 

‣ 共通点を見つけるのは良い学習方法

 

・一つの音楽の中には反復があり、モチーフの使い回しもある
・一度失敗してしまった音型は、別の楽曲の似た箇所でも繰り返し失敗する可能性がある
・自分で選んで増やしてきたレパートリーは、似たような楽曲で偏っている可能性がある

何を言いたいのかと言うと、「共通点を見つける」という視点であらゆることを分析する必要性についてです。例えば:

・暗譜を楽にするために、一曲の中での共通部分を見つけて整理する
・一度先生に注意されたら、他の楽曲で共通している部分を見つけて、再度注意されないようにする
・自分の傾向を知るために、好きな楽曲同士や苦手な楽曲同士の共通点を見つける

とにかくたくさん、あらゆる視点からの共通点を見つけてみましょう。

 

共通点を知ることは、楽曲そのものや自分自身を知ることにつながるでしょう。その結果、正しい方向性を向いた状態で練習計画を立てたりレパートリーを見直したりできるようになります。

 

► D. 作曲家・楽曲研究

‣ 好きな作曲家についてのマインドマップを作る

 

「マインドマップ」はご存知ですか?

音楽の学習にも有効に使えるので、初耳の方はぜひ調べてみてください。

 

もし好きな作曲家がいるのであれば、マインドマップを作るかのように、その作曲家のたどってきたあらゆるものを調べて一覧の図にしてみると勉強になります。必ず、作曲家独自の傾向が見えてきます。

作品を線でつないでいくのもいいですし、他にも:

・誰に影響を受けたのか
・音楽的なルーツは何か

などを調べ上げて、どんどんと線でつないでいきましょう。

 

例えば、ベートーヴェンが好きな方であれば:

「ベートーヴェンが指揮を振っていたオーケストラにマイアベーアやウェーバーやシュポーアもいたけれど、ベートーヴェンが目の前にいたのだから相当影響を受けているはずで・・」

などと、関連項目であれば何でもいいのです。

 

「ベートーヴェンの作品を練習しているのに、ベートーヴェンのことを何も知らない」という学習者の多さに驚かされます。場合によっては、自身が取り組んでいる作品についてさえも何も調べていなかったりします。これを負担や努力と考えてしまうと、ピアノが楽しめなくなってしまうのでしょうか。

しかし、その作品や作曲家のことをよく知ったうえで楽曲へ向かうと、より楽しめるだけでなく:

・装飾音の入れ方
・当時の慣習

など、演奏に直接結びついてくることも活かせるようになります。

 

様々な知識が関連して頭と連動する点がマインドマップを作る利点でもあります。シンプルなものでもいいので、マインドマップを作って、あらゆる知識を結びつけてみましょう。

 

‣ 好きな楽曲について、その理由を言語化する

 

音大の授業というと専門的な難しい授業ばかりだと思っていませんか。中には楽しく、かつ、ためになるものもあります。筆者が印象に残っているのは、「自分が好きな楽曲について、その理由をひたすら言語化して発表する」という授業です。

好きな楽曲というのは誰にでもあるものですが、その楽曲のどんなところが好きでなぜ魅力を感じるのかというのは、意外と曖昧になっているものです。それを一度じっくりと言語化してみることで、自分の好みの傾向を知ることができます。また、その楽曲についての理解も一層深まります

加えて、他人の発表を聞くことで、今まで興味がなかった楽曲について、気づいていなかった魅力を発見できたりするものです。

 

音楽仲間とやってみるのもいいですし、一人で好きな楽曲について整理するのでもいいので、一度取り入れてみてください。

 

► E. 練習の質を高める準備

‣ 効果的な練習のための「仕込み」とは

 

英語学習参考書に、「K/Hシステム」というシリーズがあります。

1996年に米国で駐在員のための英語学習法セミナーとしてスタートしたやり方で、このシリーズでは簡潔に言うと、以下の学習法がとられています:

短く限られた英文に対して何度も何度も多様なアプローチで聞いたり発音したりして、英語の特徴自体を身体へ入れていく学習法

 

参考書自体は何百ページもあるにも関わらず、教材の英文自体は「たったの数文」のみ。多くの長い英文に触れていく学習法とは対極にあるものです。

 

この書籍では、「効果的な学習のためには ”仕込み” が大事である」と強調されています。「仕込み」とは、「その英文に対して、文法的に分からないところが一切無い状態」にすることです。

既に成人している学習者にとって、文法的に理解していない英文を何度聴いても本当の意味で英語は身につかないそうです。それは、一時期流行った「聞き流し英語学習法」では英語が身につかないことが証明していますね。

つまり、「リスニングなどの勉強を始める前の段階に時間をかける必要性」がうたわれているのです。

 

この「仕込み」の必要性というのは、ピアノ練習においても同様です。

新しい楽曲に取り組むとき、無闇に弾いていても効率が悪いだけでなく良くないクセまでついてしまう可能性もあるでしょう。本格的な弾き込みの前の「仕込み」をする必要があるのです。例えば、以下のような仕込みが望まれます:

・書かれている楽語などで分からないものは一切ないように調べておく
・運指を念入りに決定し、毎回同じ運指で練習できる準備をしておく
・可能であれば、簡単なアナリーゼをしておく

 

仕込みができているかどうかで練習の質が全く変わってきます。こういったことを後回しにしてとりあえず指を動かしてしまうケースは意外と多いものです。

 

上記の英語学習参考書の中でも触れられている言葉なのですが、「deliberate practice  よく考えた練習」が重要なのはピアノ練習でも変わりません。「よく考えた練習」というのは、練習する教材(楽曲)の内容が理解できているからこそ実現するもの。この言葉には「内容を絞り込む」という意味も含んでいるように感じます。

幅広く様々な作品に触れることももちろん大事ですが、「搾り取れるだけ搾り取ってやろう」と重視する楽曲を1曲決めて、それを「徹底した仕込み」の後に弾き込むようにしましょう。

 

► F. 楽器・音響に関する専門知識

‣ 楽器の可能性を知るとっておきの学習方法

 

「ピアノが出せる音色の可能性を一つでも多く知っておくこと」は欠かせませんが、この部分を伸ばすためにはどのような勉強方法があるのでしょうか。

ピアノについて詳細に書かれた書籍を読むのもいいですし、それ以外に効果的なのは、「”オケ中ピアノ” がある楽曲を聴いてみる」という方法です。

 

「オケ中ピアノ(おけなかぴあの)」というのは、オーケストラの中に「数あるパートのうちの一つとして」ピアノが取り入れられている場合のピアノパートの呼び方です。「ピアノ協奏曲」はオーケストラの中にピアノが存在しますが、ピアノが主役なので、通常は「オケ中ピアノ」とは言いません。

なぜこういった呼び名がついたのでしょうか。

実は、ピアノという楽器はオーケストラの中においては「編入楽器扱い」。つまり、通常のオーソドックスなオーケストラではピアノには席が与えられていないのです。そこで、作曲家の意志によって「編入楽器として変則的にピアノを入れている」というわけなのです。

 

ではなぜ、「オケ中ピアノがある楽曲を聴いてみる」という方法が、「自身がまだ把握していないピアノの可能性を知るためにできる勉強方法」として有効なのでしょうか。

それは、ピアノソロ楽曲の場合とは根本的に違う役割が与えられていることが多いからです。

 

ピアノという楽器は:

・メロディを奏でる
・一度に多くの音を出してハーモニーを聴かせる
・バスラインを奏でる

など、様々なことを一度にできます。一方、これらのことはオーケストラの各楽器が力を合わせればどれもできてしまうことなのです。

では、「オーケストラにはできなくてピアノにだけできること」は何なのか考えてみてください。

答えはシンプルで、「ピアノという楽器自体の音色を聴かせること」です。

 

オーケストラはどんなに力を合わせてもピアノと同じ音色を出すことはできません。「オケ中ピアノ」としてのパートは「ピアノという楽器自体の音色を聴かせること」に主眼が置かれている場合が多いので、ピアノソロで多く使われるようなアルペジオ伴奏やメロディ演奏だけでなく:

・打楽器的な奏法でピアノの音色を強調する
・あえてピアノの最高音域や最低音域の音を聴かせる

などといった使い方が多く出てくるのです。ピアノソロ楽曲だけを聴いていては中々耳にできないピアノの使い方を知ることができるでしょう。

また、「楽器の王様」「オーケストラ」などと呼ばれることが多い「ピアノ」という楽器でさえも、オーケストラの中では「意外と聴こえてきにくい」ということに気づくことができると思います。

 

「オケ中ピアノ」で調べれば具体的な楽曲はたくさん出てきます。曲頭からピアノが登場するドビュッシー「交響組曲 春」などは、ピアノの音もはっきり聴こえるのでおすすめです。

音源だけで聴いてもいいですが、ピアノの楽譜が読めればオーケストラの楽器の楽譜も半分以上は読めるので、スコアを片手に聴いてみるのも勉強になるでしょう。

 

オケ中ピアノがある楽曲を聴いてみることで、ピアノについてさらに詳しくなりましょう。「出したい音色を自分の頭ん中で鳴らせるようになる」ために必要なのは、「ピアノが出せる音色の可能性を一つでも多く知っておくこと」にあります。

 

‣ 楽器法や管弦楽法の書籍を読むピアノ学習法

 

少し変わったピアノ学習方法があります。

「楽器法や管弦楽法の書籍を読む」という方法。

 

楽器法、管弦楽法の書籍というと、作曲の勉強のために読むイメージが強いかもしれませんが、ピアノの学習にも活かせます。まずは、これらの本のうち「ピアノの項目」を読んでみましょう。

「楽器法、管弦楽法」の分野では様々な種類が出版されていますが、多くの書籍では楽器の「構造」や「得意な動き」、さらには「不可能な奏法」などについても書いてあります。当然のように知っていることもあるでしょうし、「こんなこともできるのか」などと発見もあるはずです。

 

例えば、有名な作曲家「ベルリオーズ」による「管弦楽法」という書籍の中に、次のような文があります。

(以下、抜粋)
(ソフト・ペダル)を踏まないそのままの音や、ダンパーペダルが生み出す華麗な響きと対照させて使われると、素晴らしい効果を挙げる。
(抜粋終わり)

 

サラッと読み飛ばしてしまいそうな文章ですが、「ソフト・ペダルの音を、”対照のために” 用いることもできる」という観点は注目すべきです。「音色と対照」に焦点があたった解説となっています。

これはほんの一例で、楽器法、管弦楽法の書籍から学び取れることは多くあります。楽器の上達のためには楽器について知ることが欠かせません。

 

以下、おすすめの楽器法、管弦楽法の書籍を紹介しておきます。

 

値段はかなり張るけれども、本格的に学びたいという方におすすめの一生モノは:

・完本 管絃楽法 著:伊福部昭 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 

‣ オケスコア読譜は、ピアノ演奏にも有益な「一生もの」の技術

 

オーケストラスコアを読めるようになると、ピアノ演奏にも大いに役立てることができます。本項目では入門方法も紹介するので、まずはチャレンジしてみましょう。

 

【オーケストラスコアを読めるようになると得られるもの】

まずは、全体像としてオーケストラスコアが読めるようになる利点について知っておきましょう。大きくは次の3つです:

・作曲家自身が編曲した、ピアノ曲のオーケストラ版からも学ぶことができる
・「ピアノ協奏曲」を深く学べる
・ピアノ曲からも、オーケストラの音が聴こえるようになる

以下、それぞれの重要性を解説します。

 

 

・作曲家自身が編曲した、ピアノ曲のオーケストラ版からも学ぶことができる

 

原曲のピアノ作品を作曲家自身がオーケストレーションしている作品は多くありますが、その中でもラヴェルの以下3作品は有名です:

・亡き王女のためのパヴァーヌ
・マ・メール・ロワ
・クープランの墓

オーケストラ版を聴いてみたことはありますか。

反対に「ラ・ヴァルス」などは、オーケストラ作品が原曲で、後にラヴェル自身がピアノ編曲しています。

 

ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」を例に挙げます。

この作品は、1899年にラヴェルがパリ音楽院で勉強している間に作曲した作品です。1910年には「ラヴェル自身が編曲したオーケストラ版」も誕生しました。「ラヴェル自身が編曲している」という事実が重要です

以下、一部分だけですが、オーケストラ版を参考にピアノ版の演奏解釈について考えてみましょう。

 

ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ(ピアノ版)」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、曲頭)

オーケストラ版では、譜例の下段は「チェロとコントラバスのピチカート」で演奏しています。ファゴットが、その余韻を担当しています。したがって、ピアノ演奏においてもそのようなサウンドをイメージするといいでしょう。

「指先をしっかりさせたうえで、軽く突く」ようにすると、ピチカートのような「芯がある弱音」を出すことができます。ピチカートでは、「ボソ…」ではなく「ポンッ」という音がしますので、短く切り過ぎずに、余韻も意識するといいでしょう。

 

「作曲家の意志がしっかりと反映されている」という意味で、作曲者自身が編曲しているオーケストラスコアの価値は圧倒的です。もちろん、すべてをピアノ版に反映させる必要はありませんが、積極的に活用すべき最高の学習教材になります。

 

オーケストラスコアには「移調楽器」や「独特の記譜をする楽器」もあるので、もし仮に今までピアノ曲の楽譜だけを読んできたのであれば、読譜に対する少しのハードルはあります。しかし、すべてを精密に読む必要はありませんし、「こういうパッセージは、どんな楽器が担当しているのかな?」などと思いながら眺めてみるだけでも、まずは十分です。

今後、可能な限りオーケストラ版も参照できると、必ずピアノ学習の役に立ちます。

 

 

【「ピアノ協奏曲」を深く学べる】

 

「ピアノ協奏曲」と聞くと敷居が高く感じる感じる方もいるかもしれません。確かに高度な楽曲は多いですし、ヴァイオリンなどのように初歩段階から経験できる「学習教材に適した協奏曲作品」ほとんどありません。

しかし、モーツァルトの緩徐楽章をはじめ、比較的取り組みやすい協奏曲楽章もあります。多くの楽曲は、オーケストラパートも「ピアノ伴奏」で対応できるので、本番で披露することも夢ではありません。

故 中村紘子さんは:

「協奏曲に触れる機会が全くないのは、非常にもったいない。共演者との刺激が得られるし、音が出なければ弾けないし、いい勉強になる」

などと公言されており、ピアノ学習において協奏曲を経験することの重要性を語っていました。

 

ピアノ協奏曲を深く学ぶためにも、オーケストラスコアを読めるようにしておくことを強くおすすめします。

発表形式が「生のオーケストラ伴奏との共演」ではなく「リダクションされたピアノ伴奏との共演」でもいいのです。その前の段階でオーケストラパートを勉強しておくことで、リダクションとの合わせにも活きますし、ソロのピアノパートそのものを深く理解することにもなります

 

 

【ピアノ曲をからも、オーケストラの音が聴こえるようになる】

 

マスタークラスなどを聴いていると:

・「このフレーズはフルートで演奏しているように軽く。鳥の鳴き声をイメージして」
・「このメロディはチェロが演奏しているような深い響きで」

などといったように、あらゆる要素をオーケストラの楽器にたとえた指導を耳にします。こういった発想は割と軽視されがちですが、立体的かつ色彩的な演奏を目指すうえではとても重要なのです。

 

ピアノ曲をからもオーケストラの音が聴こえるようになりイメージの幅が広がると、頭ん中にピアノの音色しか鳴っていなかった頃と比べて表現の引き出しがグンと増えます

 

 

【学習の懸念点】

 

ここまでを踏まえて、オーケストラスコアを読めるようになることのメリットが分かったと思います。ここで、学習をするにあたってやや懸念点となってくる部分についてもお伝えします。

今までピアノ曲の楽譜のみを読んできた方がつまづきやすいのは、大きく以下の4点でしょう:

・楽譜の段数が圧倒的に増えること
・ヴィオラなどに「ハ音記号」が出てくること
・クラリネットなどの「移調楽器」が出てくること
・パーカッションや編入楽器に、見慣れない記譜や記号が頻出すること

 

しかし、入門の段階ではすべてをきちんと理解する必要はありません。各楽器の大体の役割分担を把握するだけでも、スコアから相当の情報が手に入ります。

もっと詳しくなりたいと思えば、追加で学習すればいいのです。

 

 

【スコア・リーディングを学べる、おすすめの入門書】

 

オーケストラスコアを読むための入門書を紹介しておきましょう。

以下の書籍は、重要な内容に厳選されたうえで非常に簡潔に書かれているため、入門者に適しています。

 

・スコア・リーディングを始める前に ~ピアノからオーケストラまで~ (楽器・楽譜の色々)

 

 

 

 

 

 

一部の音楽大学でも、作曲科や指揮科「以外」の学生がスコア・リーディングを学ぶための教科書にしているやさしい入門書となっています。定評のある一冊です。

 

オーケストラスコアのリーディングは、ピアノ演奏の中級者以降でないとやや学習ハードルはありますが、一度身についてしまえばピアノ学習に「一生」役立ってくれます。

これを機会に、思い切って音楽の視野を広げてみましょう。

 

► G. 高度な音楽理解と表現

‣ プロが弾く「エリーゼのために」を研究する

 

「エリーゼのために」を弾ける方は多くいますが、プロが弾いた「エリーゼのために」は相当音楽的です。この差が何から生まれるかを考えることが、上級への重要な関門となります。

今の技術レベルで精一杯の楽曲では、単に弾くことに集中するだけで精一杯で、音楽的表現の領域まで踏み込む余裕がありません。「余裕を持って弾ける段階に達した楽曲を、いかに音楽的に仕上げるか」を追求しましょう。

 

もちろん、過去に取り組んだ作品の再読でも構いません。巨匠が作曲した楽曲の楽譜自体は、時が経っても変わりませんが、その楽譜の見え方や音にしたときの聴こえ方は、音楽経験や人生経験によって大きく変化します。例えば:

・技術的に余裕ができてから再読すると、適切なテンポで弾けるようになり、楽曲理解とイメージに変化が起きる
・分析眼が鋭くなってから再読すると、以前は気づかなかった作曲上の繊細な仕掛けに気づく
・和声を学習してから再読すると、当時は気づかなかった「響きの重い音配置」などに気づく

 

独学の方はもちろんですが、ピアノ教室へ通っている方にも同じことをお伝えしたいと思います。というのも、以前、「どうも音楽的に演奏できない」と悩まれる方に「モーツァルトのソナタの緩徐楽章に取り組んでみてください」と提案したところ、「ピアノの先生に聴いてもらったら、何も指摘されずにマルになってしまった」と返答があったのです。

指導者が学習者に対してどの程度の演奏を要求しているかはまちまちです。また、大きな声では言えませんが、中には本当に指導者自身が音楽を分かっておらず、それでいいと思っているケースさえあるでしょう。

 

結局のところ少しづつでも「自分自身」でできるようになっていかなくてはいけないということです。その最も効果的な学習方法が、「自分が技術的に余裕を持って演奏できる楽曲を一曲選び、プロの演奏を徹底的に研究してみること」です。

 

‣ 解釈本はその楽曲が弾けるようになってから再読する

 

特定の楽曲の演奏ポイントや解釈などがまとめられた「解釈本」と言われる参考書は、多く出回っています。

譜読みを始める前に、また、譜読みと並行しながら参考にすることも多いと思いますが、おすすめはその楽曲が弾けるようになってから再読することです。

 

運指やペダリングなどをはじめとした演奏ポイントは譜読みの時期に欲しい情報ですが、本来、他人の解釈というのは自分の考えを中心に勉強してから受け取ると、より深く理解できたり参考になったりするものです。

概ね弾けるようになる頃には、譜読み前と比べると楽曲理解が格段に深まっているので、音源を聴いていただけではつかめなかった多くのことが分かっています。そのタイミングで再読してみると、初読の時とは異なる気づきが出てくるでしょう。

再読と言っても、特定の1曲のために割かれているページ数は、大抵あまり多くはありません。気楽に本棚からもう一度引っ張ってきてみてください。

 

様々な作曲家の作品を広く扱っている解釈本のうち良く知られているものは、例えば、以下のものです。

 

・最新ピアノ講座(7) ピアノ名曲の演奏解釈Ⅰ (音楽之友社)

 

 

 

 

 

・最新ピアノ講座(8) ピアノ名曲の演奏解釈Ⅱ (音楽之友社)

 

 

 

 

 

 

► 終わりに

 

本記事で紹介した方法を実践することで、ピアノへ向かっていない時間を活用したより深い音楽学習が可能になるでしょう。重要なのは、これらの方法を自分なりにアレンジし、継続的に取り組むことです。

以下のライブラリーでは、スキマ時間を活用した音楽学習に最適な書籍を紹介しています。あわせて参考にしてください。

レベル別:ピアノ独学者のための学習参考書籍ライブラリー

 


 

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