【ピアノ】「ピアノ・レパートリー事典」(高橋淳 著)レビュー
► はじめに
「ピアノ・レパートリー事典」は、初級者〜上級者まで幅広く活用できる楽曲データベースとして、長年にわたり愛用されてきた資料集です。340名の作曲家の作品リストを収録し、実用的な情報を提供しています。
・出版社:春秋社
・初版:1988年
・増補改訂版:2006年
・ページ数:504ページ
・対象レベル:初級~上級者
ピアノ・レパートリー事典 著:高橋淳 / 春秋社
► 内容について
‣ 本書の特徴
網羅的なデータベース機能
本書の特徴は、その圧倒的な掲載楽曲量です。独奏曲に留まらず、連弾、2台ピアノ、協奏曲、さらには管弦楽曲からの編曲作品まで幅広くカバーしています。
実用的な難易度システム
作品別の難易度を15段階のグレードで示している点は、特に教育現場や学習者にとって有用な情報源となります。特に、適切なレベルの作品選びに迷うことが多い独学のピアノ学習において、この客観的な指標は役に立つでしょう。
欧米の主要な出版社の解説資料収載
欧米の主要な出版社についてまとめられている点は、本書の大きな価値の一つです。ヘンレ社、ベーレンライター社、ペータース社など主要20社についての解説資料は、一度目を通しておくべきでしょう。ヘンレ社のことを良く知らずにヘンレ版を使っていませんか。
マイナーな作曲家の基本情報を効率的に把握可能
各作曲家の解説が簡潔にまとめられており、マイナーな作曲家も含めて、その基本情報を効率的に把握できます。辞書的な使い方に適した構成となっています。邦人の作曲家については、解説がありません。
‣ 注意点
近年の現代作品については未収録
1988年初版、2006年増補改訂版以降の現代作品は収録されていません。現在から見ると随分前の情報が最新となるため、近年の現代音楽作品については別途調査が必要です。
解説の簡素さ
各曲の解説がされているのは主要作品のみで、しかも数行程度と簡潔。それ以外のマイナーな作品は、タイトルなど最低限の情報のみの記載です。作品の背景や演奏上の注意点などを詳しく知りたい場合は、他の資料との併用が必要でしょう。
邦人作品の扱い
邦人作品は巻末にまとめられているものの、作品解説や難易度表記がありません。日本人作曲家の作品についてより詳しい情報を求める場合は、他の専門書が必要です。
難易度表記の限定性
難易度表記も主要作品にのみ付されており、収録されているすべての作品に適用されているわけではありません。
► 類書との比較:「ピアノ音楽史事典」
同じ春秋社から出版されている「ピアノ音楽史事典」(著:千蔵八郎、1996年初版、674ページ)との使い分けは重要です。
「ピアノ音楽史事典」の特徴:
・収録曲数は本書よりも少ないが、作品解説が充実
・音楽史的背景の学習にも対応
・より教育的・学術的なアプローチ
対して本書は、より実用的な「作曲家や作品のデータベース」としての性格が強いのが特徴です。
► 実際の使用体験レポート
筆者自身の実体験によると、本書は以下のような使い方に適していました:
作曲家のマイナー作品探索:気になった作曲家の項目を眺め、タイトルから興味深いマイナー作品を発見する
出版社についての備忘録:欧米の主要な出版社について、知識を整理し直すときに読む
辞書的な使い方:必要なときに該当箇所を調べる使い方
個別作品の解説量が多い書籍ではないので、この書籍をきっかけに特定の曲について深く詳しくなったわけではありませんが、知っている作品数は圧倒的に増えました。「1日1曲新しい作品を聴く」という学習を始めたときにも役に立ってくれました。
► 終わりに
「ピアノ・レパートリー事典」は、ピアノに関わる人々にとって「持っていて損はない」資料集です。最新情報の不足や解説の簡素さといった注意点はあるものの、これだけ網羅的で実用的な楽譜データベースは中々見られません。
特に以下のような方にはおすすめできます:
・生徒のレベルに合った作品を多く知りたいピアノ教師
・レパートリー拡大のためのマイナーな作品探しをしたい方
・楽譜購入前の版比較検討に時間をかけたい方
・欧米の主要な出版社についての情報を、信頼できるきちんとした書籍から得たい方
ピアノ・レパートリー事典 著:高橋淳 / 春秋社
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