【ピアノ】井口基成「上達のためのピアノ奏法の段階」レビュー
► 基本情報
・出版社:音楽之友社
・初版:1955年
・ページ数:265ページ
・対象レベル:中級~上級者
・上達のためのピアノ奏法の段階 著:井口基成 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の特徴
· 長所
体系的な構成:
・基礎的な運動と技法から始まり、実践的な演奏技術、そして具体的な教材選択まで、段階的に解説
・著者の性格が伝わってくるかのような真面目な練習アプローチ
豊富な参考資料:
・テンポ関連用語、ダイナミクス記号、アーティキュレーションの比較表など、実用的な資料が充実
・演奏家や教師にとって貴重なリファレンスとして機能
実践的な教材選択:
・第三部の教材選択に関する提案は、段階的な学習計画を立てるうえで参考になる
・各作曲家のどの作品から取り組むべきかという具体的なアドバイスは、特に独学者にとって貴重
· 留意点
読みづらさの問題:
・文体が古く、現代の読者にとっては理解に時間がかかる場合がある
・印刷の文字品質も現代の基準からすると見づらい
・目次を参考に、必要な箇所を選んで読むことを推奨
‣ 特に注目すべき内容
1. アーティキュレーションの詳細な解説
本書におけるノンレガートの解説は特筆に値します。一般的な認識よりも長い音価を持つものとして定義され、「レガートをもう少し切ったもの」という独自の視点を提供しています。
2. 実践的な練習方法
・「毎日積立貯金をするようなつもりで」という練習への姿勢
・スケールの重要性(バッハマン、バックハウスの言葉を引用)
・トリルの練習における「均等な両音が一体となる」という考え方
3. 音楽的アプローチ
ホロヴィッツの「ピアノから歌うということを抜いたら単なる打楽器にしかならない」という引用に代表される、技術と音楽性の融合を重視する姿勢が印象的です。
‣ おすすめの活用法
選択的な読み方:
・209ページまでが実質的な本編
・特に関心のある項目から読み進めることを推奨
・比較表や資料は必要に応じて参照する
段階的な学習への活用:
・第三部の教材選択を参考に、自身のレベルに合った楽曲を選定
・技術的な課題に直面した際の参考書として活用
► 結論
時代を経ても色褪せない価値を持つ名著です。文体や印刷の古さという短所はあるものの、内容の質の高さは現代でも十分活用できます。特に、ピアノ教師や真剣に演奏技術の向上を目指す学習者にとって、貴重な参考書となるでしょう。ただし、現代の演奏理論や教育方法と補完的に活用することを推奨します。
・上達のためのピアノ奏法の段階 著:井口基成 / 音楽之友社
► 関連コンテンツ
コメント