【ピアノ】マイナー作曲家の作品の演奏ポイント解説集:譜例付き実践ガイド
► はじめに
本記事では、重要でありながらもややマイナーな作曲家の作品における実践的な演奏アドバイスをまとめています。
現在取り上げている作曲家は:
・C.P.E.バッハ
・ダカン
・パーセル
・ベーム
各曲の重要なポイントを、譜例とともに具体的に解説していきます。
この記事は随時更新され、新しい作品や演奏のヒントが追加されていく予定です。
その他の著名な作曲家の作品に関しては、以下のリンクよりご覧ください。
► C.P.E.バッハ
一部、J.S.バッハによる作曲ではないかという研究がある作品も含まれています。
‣ 行進曲 BWV Anh.122
C.P.E.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 行進曲 BWV Anh.122」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、10-17小節)
分析ポイント:
1. 「Fa Re」について
・右手メロディでの提示
・左手での部分的引用
2. 模倣の効果的な配置
・散発的な使用による新鮮さの維持
・主旋律との関係性
カギマークで示した部分を見てみると、「Fa Re」というメロディの断片が左手パートでも引用されています。わずかな引用なので、「見せかけの模倣」と呼ぶことにしましょう。
譜例全体の中で、見せかけの模倣が出てきているのはこの部分のみ。これがポイントで、見せかけの模倣というのは多過ぎても魅力が無く、時々さりげなく出てくるからこそ活きるのです。
演奏上の注意点:
・見せかけの模倣部分を特別に強調する必要はない
・主役である直前のメロディの「Fa Re」よりも目立たないように弾く
・それぞれの「Fa Re」のニュアンスを揃える
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【C.P.E.バッハ 行進曲 BWV Anh.122】徹底分析
‣ ポロネーズ BWV Anh.123
C.P.E.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 ポロネーズ BWV Anh.123」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
演奏上の注意点:
・重音では上声部をやや強調
・3拍子の特徴を活かす
・両手の対話が自然に聴こえるよう工夫(どちらか一方が極端に大きくなったりしない 等)
・音価の明確な弾き分け(対話の返答で、4分音符での終わり方と、8分音符での終わり方が混在している)
– 例:1小節3拍目の左手と、9小節3拍目の右手を比較のこと
‣ 行進曲 BWV Anh.124
C.P.E.バッハ「アンナ・マクダレーナ・バッハの音楽帳 第2巻 行進曲 BWV Anh.124」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
「閉じ」の中でも、「フレーズの切れ目における閉じ」に該当するのが、A〜Dで示した4箇所です。
音楽における「閉じ」とは:
・最上声が下行し、最下声が上行する声部の動き
・フレーズの終わりに向かってエネルギーが収束していく現象
・(カデンツ部分ではなくても)自然な収束感を生み出す音楽的要素
「閉じ」を活かした演奏のポイント:
1. ダイナミクス処理
・「閉じ」に向かって自然におさめる
・決してクレッシェンドにならないよう注意
2. タイミング
・楽曲によっては、わずかなテンポの緩みを許容し、終止感を強調
・ただし、この楽曲はバロック期の行進曲なので、in tempo で弾き進めるのを推奨
3. 音色の変化
・「閉じ」に向かって音色を徐々に柔らかく
・特にBセクション終わりの「閉じ」は丁寧に処理し、堂々とした21-22小節との差をつける
► ダカン
‣ クラヴサン曲集 第1巻 第3組曲 かっこう ホ短調
原曲はクラヴサンのために書かれていますが、現代では強弱の差を表現できるピアノで演奏されることも多いため、「ピアノ」による演奏の場合のヒントとなります:
ダカン「クラヴサン曲集 第1巻 第3組曲 かっこう ホ短調」
譜例1(PD楽曲、Sibeliusで作成、曲頭)
右手の優雅なメロディラインと左手のかっこうの音型が呼応する形で進行します。この部分では両声部がほぼ同等の重要性を持ちますが、演奏時には右手の旋律線が少し大きめのバランスになるように強調することで、左手のかっこうの鳴き声が「背景」として効果的に響きます。
譜例2(PD楽曲、Sibeliusで作成、32-35小節)
ここでは役割が逆転し、右手にかっこうの音型が移ります。この部分は明確に右手が主導し、左手は従属的な役割を果たします。演奏時には右手のかっこうの音型を際立たせ、左手は控えめに演奏するといいでしょう。
► パーセル
‣ メヌエット ZD 225
パーセル「メヌエット ZD 225」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
見せかけの模倣技法の種類と特徴
この楽曲内で確認できる5つの見せかけの模倣パターンを詳しく見ていきましょう:
1. アウフタクトを活用した模倣(楽譜上:レッド音符)
・冒頭(レッド音符)と終結部(パープル音符)に現れ、楽曲に統一感をもたらしている
・右手のメロディが提示した後、左手がそれを模倣する形で追いかける
・アウフタクトから始まることで、リズム的な推進力を生み出している
2. 変形を伴う模倣(楽譜上:ブルー音符)
・完全な同型ではなく、音程関係に変化を加えながらもモチーフの特徴を保持
・このような「変形模倣」は聴き手に新鮮さを与えながらも統一感を保つ巧みな手法
3. 拡大形による模倣(楽譜上:グリーン音符)
・元のモチーフよりも音価を長くした形で模倣
・リズム的な変化をもたらし、楽曲の発展感を高めている
4.比較的長い間の模倣(楽譜上:オレンジ音符)
・他の模倣よりも時間的に長く現れる
・模倣していると認知されやすい
5. 回帰的模倣(楽譜上:パープル音符)
・冒頭と同じ手法を終結部で再現
・楽曲全体に「枠」を与え、形式的な完結感をもたらしている
演奏への応用
模倣技法を理解することは、単に学術的な意義だけでなく、演奏表現を豊かにする実践的な価値があります:
・模倣される音型には、一貫したアーティキュレーションを適用する
・類似する音型には類似した音色を与える
► ベーム
‣ メヌエット ト長調
ベーム「メヌエット ト長調」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
演奏における「暗譜」に活かすためのステップとして、反復の分析を行います。
一般的な作品における「小節続きの反復部分」では、以下の3つのパターンが確認できます:
1. メロディ維持型変化
本楽曲では25-26小節に見られる手法です。メロディラインは全く同一に保ちながら、伴奏の形と和声進行を変化させることで、同じ旋律に新しい表情を与えています。この手法により、聴き手に親しみやすさと新鮮さを同時に提供しています。
2. 伴奏維持型変化
本楽曲では該当箇所はありません。伴奏形を全く同一に保ちながら、メロディを変化させるパターンです。
3. 全要素変化型
本楽曲の5-6小節で見られるように、メロディと伴奏の両方を変化させる手法です。この手法は、移高を伴う同型反復の箇所などで効果的に使用されています。
► 終わりに
本記事で取り上げた作品には、独特の音楽語法と表現技法が詰まっています。
本記事では、実践的な演奏アプローチを紹介していますが、これらはあくまでも一つの解釈として捉えていただければと思います。
今後も新しい作品や演奏のヒントを追加していく予定ですので、定期的にご確認いただければ幸いです。
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