【ピアノ】「ピアノ ペダリング」レビュー:ペダリング研究の定番的入門書
► はじめに
ライマー・リーフリング(ピアノ教育で著名)の「ピアノ ペダリング」は、ピアノのペダリングについて体系的に学べる一冊です。同分野の他書と比べてコンパクトながら(138ページ)、実践的な内容が分かりやすくまとめられています。
・出版社:ムジカノーヴァ
・邦訳初版: 1982年
・ページ数:138ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアノ ペダリング(ライマー・リーフリング 著/佐藤 峰雄 訳 ムジカノーヴァ)
► 対象読者と活用法
本書は中級~上級者向けですが、特にペダリングに関する体系的な学習を始めたい方におすすめです。バノウェツの「ピアノ・ペダルの技法」より手軽に学べ、リンドの「ピアノ・ペダルの芸術」と比べても取り組みやすい内容となっています。
指導者にとっても、生徒のペダリング指導の際の重要な参考書となるでしょう。各章は独立して読むことができ、必要な箇所から参照できる構成になっています。
► 内容について
‣ 本書の魅力
本書の最大の魅力は、理論と実践のバランスの取れた構成です。ペダリングの基礎知識から始まり、歴史的背景、実践的なテクニック、そして具体的な楽曲での応用例まで、豊富な譜例や図例とともに段階的に理解を深められるよう工夫されています。
印象的なのは、著者の実践的なアプローチです。例えば「ペダルは使いすぎると、本当にそれが必要なときに、正しい効果をもたらさない」という指摘や、「和音やアルペッジョを弾くとき、なぜ耳をすまして実験をしないのか」という問いかけは、演奏者に深い考察を促します。
‣ 具体的な内容の特徴
1. 歴史的な視点の提供
・ベートーヴェンがピアノソナタでペダル指示した全ての部分をまとめて一覧化
・ドビュッシーのペダル使用に関する統計の指摘
・リストと半ペダル・1/4ペダルとの歴史的関係
2. 実践的なテクニカルアドバイス
・各ペダルの正しい使用タイミング解説
・打鍵後のペダリングの効果に関する科学的な説明
・T.マッテイの「pp は指の中にあるのであって、足の中にあってはならない!」という格言の紹介
また、全12ページにも渡ってまとめられている「現在一般的に行われているペダリングの表示」の一覧は、古典派から近現代までのあらゆる作品を学ぶ際の指標になります。資料として常に手元に置いておくといいでしょう。
‣ 特徴的な抜粋
打鍵後のペダリングは、ごくわずかしか音色を変えることができない。なぜなら共鳴して振動するのは、打たれた弦と近い関係にある弦だけだからである。
(抜粋終わり)
ペダルは、正しく使うなら、フレージングとアーティキュレーションを目だたせ、また強める。
(抜粋終わり)
左ペダルは、間を置いて使うのが一番よい。また打鍵前に踏まなければならない。打鍵後、すなわちハンマーが既に弦を振動させてしまってからでは、まったく何の効果もない。
(抜粋終わり)
► 使用上の注意点
注意点としては、用語の整理が挙げられます。
後踏みをせずに、打鍵と同時にダンパーペダルを踏み込みリズムを強調するペダリングがあり、これを一般的には「リズムペダル」と呼びます。しかし本書では、さらに細分化して「拍子ペダル」「スタッカティッシモペダル」という用語を用いているので、混乱しないように注意が必要です。
► まとめ
ペダリングは演奏解釈の重要な要素でありながら、中級者以上を対象としたその指導法や研究書は意外に少ないのが現状です。その中で本書は、理論的な裏付けと実践的なアドバイスをバランスよく提供する貴重な一冊と言えます。特に、実験と探究を推奨する著者の姿勢は、読者自身のペダリング技術の向上に大きく貢献するでしょう。
・ピアノ ペダリング(ライマー・リーフリング 著/佐藤 峰雄 訳 ムジカノーヴァ)
► 関連コンテンツ
コメント