左手独奏作品ライブラリー:作曲家別

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【ピアノ】左手独奏作品ライブラリー:作曲家別

► はじめに

 

左手独奏のピアノ曲は、リハビリや技術向上を目的とした練習曲から、演奏会で映えるコンサートピースまで、幅広いジャンルにわたります。

本ライブラリーでは、その中から興味深い作品を厳選して作曲家別に紹介しています。網羅的なリストを目指したものではなく、選択的なコレクションです。各作品には難易度・演奏時間・分類を記載しているので、レパートリー選びの参考にしてください。

なお、本記事は随時更新され、新しい作品が順次追加されていく予定です。(最終更新:2026年6月23日)

 

作品名について:

・一般的に広く用いられている原題を掲載し、可能なものについては邦題を併記
・邦題に複数の訳が存在する場合や定着した邦題が見当たらない場合は、原題のみを掲載

 

► 作曲家別

‣ Bach, Carl Philipp Emanuel(1714-1788) C.P.E.バッハ 

· Klavierstück for the right or left hand alone

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」の曲頭の楽譜。

邦題:右手あるいは左手のための小品

 

作曲年:1770年以前に作曲
演奏時間:約1分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品

 

「左手のみでも右手のみでも弾ける作品」というユニークなコンセプトの作品です。和音が一切出てこないうえに、終始音域が狭めのアルペジオ中心なので、手の大きさを問わない書法となっています。子供向けの学習教材として作曲された可能性が考えられるでしょう。

現在知られている片手独奏作品の中では、最も早い時期の作品の一つとされています。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】片手作品入門:C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」演奏・分析ガイド

 

‣ Berens, Hermann(1826-1880) べレンス

· Training of the Left Hand Op.89

 

邦題:左手のトレーニング Op.89

 

作曲年:1872年頃(1872年出版)
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー30番に入門した段階以降での開始をおすすめ
分類:オリジナル作品

1872年にC.F.ペータース社から出版されました。正確な作曲年は定かではありませんが、1872年、またはその直前に書かれたものと考えられます。

 

本曲集は2部構成になっています:

第1部 46のトレーニング

・左手のみで演奏する、基礎的な指の動きを集中的に鍛える短いエクササイズ群
・音階、アルペジオ、跳躍、反復音など、左手に必要な様々な動作パターンが網羅
・各トレーニングは1〜2ページ程度の短い楽曲で、特定の技術課題に焦点を当てている

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1部 第3曲 曲頭)

ベレンス「左手のトレーニング Op.89 第1部 第3曲」冒頭の楽譜。

第2部 25の練習曲

・左手のみで演奏する、独立した練習曲として完成された楽曲
・各曲には最終的なテンポ指定、強弱記号、アーティキュレーションなど、表現上の細かい指示が記されている
・技術的な訓練と音楽的な表現の両方を学べる

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第2部 第4曲 曲頭)

ベレンス「左手のトレーニング Op.89 第2部 第4曲」冒頭の楽譜。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】ベレンス「左手のトレーニング Op.89」導入完全ガイド

 

‣ Berger, Ludwig(1777-1839) ベルガー

· Etude de Chant for the left hand Op.12-9

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

12-9

邦題:12の練習曲 Op.12 より 第9曲

 

作曲年:1820年頃
演奏時間:約3分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品

 

この作品以前から、左手または右手のどちらでも演奏可能な作品は存在しましたが、1820年前後に作曲された作品は、明確に左手のためだけに書かれ、最初に出版された作品だと言われています。

シューマンが賞賛したとされているこの作品は、左手作品の中では比較的知られている作品と言えるでしょう。ピアニストAnja Wackhusenの録音音源「Fur Die Linke Hand Allein-for Left Hand Only」などにも収録されています。

長調と中間部の短調の対比が美しい、シンプルながらも耳馴染みの良い小品です。

 

‣ Blumenfeld, Felix(1863-1931) ブルーメンフェルド

· Étude pour la main gauche seule Op.36

 

邦題:左手のための練習曲 Op.36

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

ブルーメンフェルド「左手のための練習曲 Op.36」冒頭部分の楽譜。タールベルク的奏法も含む左手独奏作品。

作曲年:1905年
演奏時間:約6分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品

 

タイトルに「練習曲」とありますが、音楽的な内容は技術的な習作を超えた充実度を誇ります。

構成面では、メロディを内声に置いてその上下を伴奏声部が包み込むタールベルク的奏法が冒頭と終結部を彩り、中間部には劇的な表現とカデンツァが挿入されるという、明快な三部構造をとっています。

特に結尾部では徐々に音が薄れていくなかで独特の和声進行が現れ、グリーグの「抒情小品集 第3集 春に寄す op.43-6」に通じる淡い色彩感を帯びています。どことなく春の訪れを想起させるような、余韻の深い一曲と言えるでしょう。

 

‣ Bortkiewicz, Sergei Eduardovich(1877-1952) ボルトキエヴィチ

· 12 Nouvelles Études Op.29-5 “Le Poète”

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ボルトキエヴェチ「12の新しい練習曲 より 詩人 Op.29-5」1-3小節

邦題:12の新しい練習曲 より 詩人 Op.29-5

 

作曲年:1924年
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品

 

ロシア出身でオーストリアで活躍した作曲家・ピアニスト、セルゲイ・ボルトキエヴィチによる左手のためのコンサート用練習曲です。

本作「詩人」は、各曲に情景描写的なタイトルが付けられた「12の新しい練習曲 Op.29」の第5曲目にあたり、全12曲の中で、本楽曲のみが「左手だけのため」に書かれています。

 

· 4 Klavierstücke No.3 Hochzeitsang Op.65-3

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ボルトキエヴィチ「4つのピアノ曲 第3番 より 祝婚歌 Op.65-3」1-4小節

邦題:4つのピアノ曲 第3番 より 祝婚歌 Op.65-3

 

作曲年:1947年  ※第3番は1934年に原曲が初演されている
演奏時間:約4分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品

 

ボルトキエヴィチがその晩年、70歳の誕生日を記念して1947年にウィーンで出版した、彼の生涯最後のピアノ曲集「4つのピアノ曲 Op.65」に収められている作品です。全4曲の中で、この第3曲のみが唯一「左手だけのため」に書かれています。

この曲はもともとは「ロシアの結婚の歌」というタイトルで1934年頃に構想されており、同年6月にピアニストのルドルフ・ホルン(本作の献呈者)によってベルリンのラジオ番組ですでに初演されていました。その後、長年温められていたこの作品に改訂が加えられ、1947年になって他の3つの両手用の楽曲とともに一つの曲集(Op.65)として結実しました。

「祝婚歌(婚礼の歌)」というタイトルの通り、人生の門出を祝うような温かさと、ボルトキエヴィチならではの優美でノスタルジックな旋律が印象的な小品です。

 

‣ Brahms, Johannes(1833-1897) ブラームス

· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-6小節)

J.S.バッハ作曲、ブラームス編曲「シャコンヌ」の楽譜。曲の冒頭の譜例が掲載されている。

邦題:ピアノのための5つの練習曲 より J.S.バッハのシャコンヌ

 

編曲年:1877年
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品

 

J.S.バッハの名作「シャコンヌ」を、ブラームスが左手のみで演奏できるように編曲した異色の作品、通称「バッハ=ブラームス シャコンヌ」。左手独奏作品の中でも芸術性が高い一曲で、多くのピアニストに愛奏されています。

本作は1877年6月、ブラームスが親しい友人であったクララ・シューマンへ宛てた手紙とともに贈られました。当時、右手を痛めていたクララのために、左手だけで演奏できるように編曲したものです。ブラームスは手紙の中で「今日、君に送るものほど面白いものは他にないと思う」と書き添えており、音楽的なユーモアと彼女への深い思いやりが詰まった名編曲として知られています。

 

‣ Dreyschock, Alexander(1818-1969) ドライショク

· Variations pour la Main gauche seul Op.22

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ドライショク「左手のための変奏曲 Op.22」譜例(1〜4小節)

邦題:左手のための変奏曲 Op.22

 

作曲年:1843年頃
演奏時間:約7分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品

 

導入部は朗唱風のパッセージから始まり、アンダンテ・コン・エスプレッシオーネの主題が提示され、アルベルティ・バスの伴奏に乗った叙情的なメロディーに続いて、3つの変奏とフィナーレが展開されます。

全曲を通して音域は幅広く取られていますが、すべて一段の楽譜で書かれているのが特徴と言えるでしょう。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くドライショク:片手で二人分を弾いた男

 

· God save the Queen, variation Op.129

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ドライショク「『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン』による大変奏曲 Op.129(左手のための)」譜例(1〜4小節)

邦題:「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」による大変奏曲 Op.129(左手のための)

 

作曲年:1854年以前
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品

 

タイトルのとおり英国国歌を素材にとった変奏曲です。

音楽的な構成や主題変容を味わう作品というよりは、超絶技巧そのものを楽しむパフォーマンスピースとしての性格が強いように感じます。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くドライショク:片手で二人分を弾いた男

 

 

‣ Kalkbrenner, Frédéric(1785-1849) カルクブレンナー

· Fugue à quatre parties pour la main gauche seule

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-8小節)

4声の

邦題:左手のための4声のフーガ

 

作曲年:1831年頃(1831年出版)
演奏時間:約1分30秒
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品

 

全12曲からなる「メソッド Op.108」の第8曲が、「左手のための4声のフーガ」で、左手のみのための最初のフーガという説が有力になっています。1831年に出版されました。正確な作曲年は定かではありませんが、1831年、またはその直前に書かれたものと考えられます。

テンポが速い4声のフーガでありながらも、シンプルな対位法で書かれているので、取り組みやすい作品として左手作品の中でも知られている一曲です。

 

‣ Köhler, Louis Heinrich(1820-1886) ケーラー

· Schule der linken Hand, Op. 302(School of the Left Hand)

 

邦題: 左手ための教本 Op.302

 

作成中

 

‣ Marxsen, Eduard(1806-1887) マルクスゼン

· Three Impromptus: Homage to Dreyschock Op.33 No.2

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第2曲 1-4小節)

マルクスゼン

邦題:3つの即興曲「ドライショクへのオマージュ」Op.33 より 第2曲

 

作曲年:1844年以前
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品

 

副題が示すとおり、当時ヨーロッパの演奏界で「2本の右手を持つ男」と称されていた左手の名手アレクサンダー・ドライショクへの献呈作品です。

4小節の短い導入部に続き、f-mollのメランコリックな主部が始まります。中間部はF-durのAllegrettoに転じ、その後に再び冒頭の旋律に戻って静かに閉じる三部構造です。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くマルクスゼン:ブラームスの恩師が遺した片手の音楽

 

· Studies for the Left Hand Alone(in six characteristic pieces dedicated to Henselt)Op.40

 

邦題:左手のための練習曲「6つの性格的な小品」Op.40(ヘンゼルトに捧げる)

 

作曲年:1844年頃
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品

 

「練習曲(Etüden)」と「性格的な小品(charakteristische Stücke)」という二つの顔を持つこの曲集は、練習曲でありながら、それぞれが独立した小品として構想されている点に特徴があります。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くマルクスゼン:ブラームスの恩師が遺した片手の音楽

 

‣ Moszkowski, Moritz(1854-1925) モシュコフスキー

· 12 Etudes for the left hand alone Op.92

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第4番 1-4小節)

モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 第4番」1-4小節の楽譜。

邦題:左手のための12の練習曲 Op.92

 

作曲年:1915年頃(1915年出版)
演奏時間:全曲合計 約28分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品

 

「左手のための12の練習曲 Op.92」は、パリのEnoch & Cie社から1915年に出版された曲集で、ピアニストのハロルド・バウアー(1873-1951)に献呈されています。

モシュコフスキーといえば「15の練習曲 Op.72」を思い浮かべる方が多いかもしれません。それに比べるとOp.92の知名度は高くありませんが、左手独奏に必要なテクニックが巧みに取り入れられており、なおかつ身体への負担がかかりすぎないよう計算されて音が選ばれているのが特徴です。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92」完全ガイド

 

‣ Scriabin, Alexander(1872-1915) スクリャービン

· 2 Pieces for the left hand alone Op.9

 

プレリュード Op.9-1

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-1」の曲頭の楽譜。

ノクターン Op.9-2

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-2」の曲頭の楽譜。

邦題:左手のための2つの小品 Op.9

 

楽曲について(オリジナル作品)

曲名 作曲年 演奏時間 特徴
プレリュード Op.9-1 1894年 約3分半 両手作品とあわせてレパートリーとして定着
ノクターン Op.9-2 1894年 約6分 静寂さと劇的さを併せ持つ、カデンツァを含む充実作

 

難易度:ツェルニー30番中盤程度(両曲とも)
分類:オリジナル作品

 

作品全体の背景(Op.9共通)

このOp.9は、スクリャービン自身が過度な練習によって右手を痛めてしまったために作曲されたものです。1895年に出版され、後年の神秘主義的な作風とは異なる、ショパンの強い影響を受けたロマン派のスタイルを持っています。内容、知名度ともに、左手のためのピアノ曲における名作の一つと言えるでしょう。

ピアニストのデトレフ・クラウスによれば、これら2つの楽曲は「なぜこんなに悲しいのか分からない」および「白樺の木の下の夢」という、2つのロシア民謡に基づいているとされています。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」演奏完全ガイド

 

‣ Yuya Takano タカノユウヤ

· J.S. Bach: Partita No. 2, BWV 1004 (Complete) – Arranged for the left hand alone

 

邦題:J.S.Bach 《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 全曲》 左手独奏用編曲版

※シャコンヌを除く全4曲  シャコンヌはBach=Brahms版

 

作品データ:

・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・編曲時期:2019年
・演奏時間:約17分
・演奏レベル:ツェルニー40番修了程度から挑戦可能

 

編曲の意義:

1. レパートリーの拡充
・左手独奏版として初めての試み
・ブラームスによるシャコンヌ編曲と併せて全曲演奏が可能に

2. 演奏技法・編曲技法への取り組み
・ブラームス版の編曲技法を詳細に分析し、その書法をもとに残り4曲を編曲
・5本の指による演奏の可能性を追求
・チャレンジングかつ演奏効果の高い編曲を実現

3. 作曲家・編曲家としての視点
・演奏家の挑戦意欲に応える作品作り
・技術的課題と音楽的表現の融合を目指した編曲

 

この作品の楽譜を見る

ECサイト

 

· Elgar: Salut d’amour for the left hand alone Op.12

 

邦題:愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜 作曲:エルガー

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、曲頭)

エルガー「愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜」楽譜 冒頭部分。

作品データ:

・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・2017年度 月刊ピアノ×ピティナ編曲オーディション 上級部門 第1位 受賞作品
・編曲時期:2017年2月
・演奏時間:約3分
・演奏レベル:ツェルニー40番入門程度から挑戦可能
ピティナ・ピアノ曲事典

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】「愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜」編曲者による演奏解説

 

► 終わりに

 

左手独奏作品は、両手作品と比べるとまだまだ知られていないものが多く、新たな発見に満ちたジャンルです。本ライブラリーが、レパートリーを広げるきっかけになれば幸いです。

 

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