【ピアノ】「ピアノの知識と演奏―音楽的な表現のために」レビュー:楽器の構造に基づいた解説
► はじめに
ピアノ演奏において、「どのように弾くべきか」という技術的な指南書は数多く存在します。一方、作曲家、ピアニスト・雁部一浩氏の「ピアノの知識と演奏―音楽的な表現のために」は、ピアノという楽器の構造的理解に基づいて演奏技術を解説し、さらにその先にある音楽表現との関係性にまで踏み込んでいる一冊です。
・出版社:音楽之友社
・初版:1999年
・ページ数:86ページ
・対象レベル:中級~上級者
・ピアノの知識と演奏―音楽的な表現のために 著 : 雁部一浩 / 音楽之友社
► 内容について
‣ 本書の構成
本書は10章構成で、以下のような幅広いトピックをカバーしています:
1. ピアノという楽器の基本的理解
2. タッチと音色の関係性
3. 音量とその音楽的表現
4. ペダルの効果的な使用法
5. リズムとアーティキュレーション
6. 基本的な奏法の考察
7. 演奏姿勢の重要性
8. 音楽的テクニックの習得方法
9. 音楽的能力の本質
10. 音楽と感情の関係
幅広いトピックを86ページで解説しているわけなので、当然ながら一つ一つの項目についての記述は多くありません。一方、この書籍を手に取る中級以上の学習段階の場合は、全てを手取り足取り解説してもらう書籍のみを参考にするのでなく、重要な部分を自分で拾っていく力も養わなければいけません。
‣ 本書の優れた点
1. 科学的アプローチ
・ピアノの構造的理解に基づいた説明
・打鍵に伴う様々な雑音の原因分析
・音響学的な観点からの音色変化の解説
2. 実践的な技術指導
・跳躍技術における具体的なアドバイス(目線の使い方など)
・ペダリングの詳細な解説
・姿勢や座り方についての具体的指導
3. 音楽的表現への深い洞察
・テンポ・ルバートの適切な使用法
・アクセントの音楽的な意味
・楽譜解釈の柔軟性についての考察
‣ 印象的な指摘
本書には、演奏技術の向上に直結する重要な指摘が随所に見られます:
1. 「あくまでも本来のテンポからの微妙な『偏差』が緊張と弛緩を生む」という指摘は、不自然でないアゴーギクを目指すうえで重要
2. 「特定の箇所を如何に弾くかということよりも、細部と細部を関連づけながら全体を構成してゆく能力」の重要性を説く部分は、演奏の本質を突いている
3. 「良き鑑賞者であること」を音楽的能力の出発点とする視点は、技術偏重に陥りがちな学習者に重要な視点を与える
► 想定される読者層
本書は以下のような方々に特におすすめです:
・中級~上級レベルのピアノ学習者
・学習段階は一定レベルに達しているが、音楽的表現に悩む方
・ピアノ指導者
・楽器の構造と演奏技術の関係に興味がある方
► まとめ
著者は「何が正しいか」ではなく「何が関連しているか」を明らかにすることに主眼を置いており、このアプローチは読者自身の音楽的成長を促します。楽器構造と関連させた技術向上のための実践的なヒントを得たい方はもちろん、音楽表現を探求したい方にとっても、本書は貴重な指針となることでしょう。
・ピアノの知識と演奏―音楽的な表現のために 著 : 雁部一浩 / 音楽之友社
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