【ピアノ】両手のタイミングが合わせにくい箇所への徹底的な対応方法

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【ピアノ】両手のタイミングが合わせにくい箇所への徹底的な対応方法

► はじめに

 

ピアノ演奏において、両手のタイミングを正確に合わせることは多くの演奏者が直面する課題です。特に、左手に高速なメロディラインがあり、右手が伴奏を担う場面や、複雑なリズムパターンが交錯する箇所では、この問題が顕著に現れます。

本記事では、初級から上級まで様々なレベルの楽曲を例に挙げながら、両手のタイミング問題を体系的に解決する方法を紹介します。ただの反復練習ではなく、音楽理論的理解と実践的なテクニックを組み合わせたアプローチにより、確実な上達を目指します。

 

► レベル別の事例

‣ 初級用楽曲を例に

· ブルグミュラー「25の練習曲 より バラード」を例に

 

ブルグミュラー「25の練習曲 より バラード」の曲頭部分では、左手で高速メロディを演奏し、右手が和音伴奏を担います。この箇所で両手のタイミングが合わず、スムーズな演奏が困難になるという悩みをよく耳にします。

 

譜例1(PD作品、Finaleで作成、3-5小節)

以下の3ステップを踏むことで、上達が見込めます:

1. 左手音型の理解と練習
2. 右手の音を間引いた、両手練習
3. 楽譜通りの両手練習

 

 

【1. 左手音型の理解と練習】

 

まず、メロディである左手のパッセージについて深く理解しましょう。

このパッセージは、分解してみると譜例2のようになっています。

 

(譜例2)

丸印で示したC音がつなぎ目と考えると、「トリルとスケールがあわさったパッセージ」になっていることが分かります。

まずは譜例3の練習を行い、相当の速さでこなせるようにしてから先へ進んでください

 

(譜例3)

重要なポイント:

・運指は実際の演奏時に使用する番号を厳守する
・楽譜に記載された運指を守って練習する
・この段階で高いクオリティを確保してから次へ進む

 

(譜例4)

パッセージの頂点にくるC音に着目すると、譜例4で示したように「1・2・ウン 1・2・ウン」というリズムが内包されています。

演奏する際は、単純にかたまりでガガガガガと弾くのではなく、拍を感じながらこれらの1・2を少し意識することで、音楽の特徴が表現され、演奏もしやすくなります。

この「1・2・ウン」の要素は、楽曲の19-23小節などにも現れるリズムパターンです(譜例5)。

 

(譜例5、19-23小節)

 

(譜例1の再掲)

ここまでで左手のパッセージは相当に磨かれているはずですが、両手で合わせるとまだうまく弾けないでしょう。これは両手で演奏することで頭が混乱するからです。次のステップでこの問題を解決します。

 

 

【2. 右手の音を間引いた、両手練習】

 

ここからは両手練習に入ります。

いきなり楽譜通りに弾くのではなく、譜例6 a〜fのように右手の音を間引いて段階的に練習しましょう。

 

(譜例6-a)

(譜例6-b)

(譜例6-c)

(譜例6-d)

(譜例6-e)

(譜例6-f)

a〜fの6パターンすべてを練習し、それぞれ、理想のテンポで弾けるところまで完成度を高めましょう

この練習ではわざと頭を混乱させることになるので、あらゆるパターンでそれに慣れることが有効です。両手を揃えた状態で速く弾けない原因は、必ずしも「指の強さ」にあるわけではなく、「頭が混乱せずにきちんと働くかどうか」という部分にもあることを理解してください。

 

 

【3. 楽譜通りの両手練習】

 

いよいよ楽譜通りの両手練習を進めます。

「ゆっくり練習(拡大練習)」をするのは当然ですが、加えて、譜例7のように「1小節ずつ速く弾く練習」を取り入れましょう。

 

(譜例7)

練習のポイント:

・「次の小節の頭の音まで弾く」ことで、つなげて弾くときにも音楽が流れる
・理想のテンポで1小節ずつ完成させた後、2小節へと長さを増やす
・右手よりも左手に意識の比重を置くほうが、タイミングがバラバラになりにくい

 

最後に、全体のバランスを整えます。右手の伴奏が過度にうるさくならないよう注意しながら仕上げていきましょう。

 


 

ここまでのステップを、必要に応じて前の段階に戻りながら繰り返し練習してください。少なくとも、練習開始前よりは明確な向上が見られるはずです。

類似のテクニックは様々な楽曲に出現するため、その都度本項目の内容を思い出して練習方法を応用してください。

 

‣ 中〜上級用作品を例に

· モーツァルト「ピアノソナタ K.310 第1楽章」を例に①

 

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、88-90小節)

上記ブルグミュラーの例と音型こそ異なりますが、やはり両手のタイミングを合わせるのが困難に感じる方も多いのではないでしょうか。

 

おすすめする練習方法は、以下の4ステップです:

① 片手ずつ、音楽の意味を理解する
② 片手のみで、理想のテンポで完璧に弾けるようにする
③ 両手で、ゆっくりの速度で合わせ、暗譜まで済ませる
④ 両手で、ゆっくりの速度と速い速度を組み合わせて練習する

 

【① 片手ずつ、音楽の意味を理解する】

 

まずは、それぞれのパートの意味を捉えることで無駄な動きを最小限にし、音楽に合った効率の良い打鍵と音楽的な表現を目指します。

 

(再掲)

例えばこの譜例のところでは、右手で演奏するパートの役割はリズムとハーモニーです。

16分音符によるトレモロが左手で演奏するメロディのスキマを埋めてリズムを補い、同時に、持続の役割でハーモニーを聴かせています。つまり主役ではないので、メロディよりも目立たないように演奏しなければいけません。

f というのは、あくまで両手を合わせたときに f のエネルギーになればいいということなので、右手をあまりガツガツ弾かないことが重要です。

 

左手の役割は、もちろんメロディです。ただし、メロディだと把握するのみでなく、どの音を強調してどの音を控えめに聴かせるのかといった細かなところまで読み取ってください。

例えば、点線カギマークで示した同音連打では、「3拍目ジャスト」かつ「長い音価」である3つ目の音に一番重みが入ります。また、実線カギマークで示した部分がひとかたまりなので、その終わり部分はややおさめるべきです。

 

このような音楽的な把握を詳細に行うことが必要です。

 

【② 片手のみで、理想のテンポで完璧に弾けるようにする】

 

この段階は絶対に省略できません。

片手のみで完璧に弾ける状態を作っておけば、あとは両手で合わせたときに生じる頭の混乱に慣れるだけということになります。この過程を軽視しないようにしてください。

 

【③ 両手で、ゆっくりの速度で合わせ、暗譜まで済ませる】

 

(再掲)

ここまで完了したら、ようやく両手で合わせ始めましょう。

ゆっくりであれば両手でも完璧に音楽的に弾ける状態にし、遅くともこの段階までに暗譜を済ませてください

暗譜ができていない余裕のない状態でテンポを上げるのは無理があります。特に両手のタイミングがバラバラになりやすい箇所では、余計なことに意識を使う量を極力減らすためにも、暗譜は必須です。

 

【④ 両手で、ゆっくりの速度と速い速度を組み合わせて練習する】

(再掲)

仕上げとして、両手演奏でゆっくりの速度と速い速度を織り交ぜながら頭の混乱を減らしていきます。

この過程のポイントは、「どちらかの練習に偏らないように注意する」ということ。ゆっくりのみ弾いていてもテンポは上がりませんし、速くのみでは嘘ばかり弾いてしまいます。

両方を取り入れながら徐々に速い速度にも頭を慣らしていくことで、理想の仕上がりを目指せるでしょう。

 


 

ここまで読んですでに気づいた方もいるかもしれませんが、結局は通常の難しい箇所でテンポを上げていく方法と大差ありません。

一つ付け加えるとしたら、両手のタイミングが合いにくい箇所では身体の軸の安定性が必要不可欠なので、いつも以上に以下の基本事項をしっかりと確認してから練習を始めるべきです:

・椅子の位置
・座る位置
・座り方

 

· モーツァルト「ピアノソナタ K.310 第1楽章」を例に②

 

(再掲)

前項目では4ステップによる基本的な練習方法をおすすめしましたが、取り組んでいる楽曲によってはそれでも合わない場合もあるでしょう。

追加のコツがあります。

「メロディを揺らさずに歌う」ことを徹底して、上記4ステップをやり直してみてください。両手のタイミングが合いにくい理由は、一方を無闇に揺らしていることにあるケースが多いのです。

 

(再掲)

揺らさずに歌うための具体的なポイント:

・内的に歌えていること
・書かれていないものも含め、ダイナミクスの抑揚を細かくつける
・フレーズの構成をきちんと表現する

 

各音をどれくらいの強さと音色で響かせるか考え、全体のフレーズの長さを意識するということを細かく行ってください。

 

· その他の事例 3点

 

ベートーヴェン「ピアノソナタ 第23番 熱情 ヘ短調 Op.57 第3楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、28-31小節)

この箇所は演奏が困難な印象です。右手が動き回っているのに左手が交差し、なおかつ16分休符混じりのリズムが入ってくるので、タイミングをとりにくく縦のリズムを合わせにくいと感じる方は多いでしょう。

右手のパッセージはそれほど弾きにくい動きはしていません。つまり、解決したいのは「左手」の奏法です。

 

攻略のカギは、16分音符の直前の休符のとり方です。何かがうまくいかないときは、その直前で失敗している可能性が高いのです。

休符のとり方に直結する演奏ポイントは、ダンパーペダルに頼ってもいいので、28小節目および30小節目のバスF音を音価分しっかり伸ばすこと。そうすることで「休符の始まる位置」が明確になります。

 

他の注意点として、以下の3点を意識しましょう:

・交差打鍵するときに、身体の軸を締めていること
・交差打鍵は、鍵盤のすぐ近くから行うこと
・交差打鍵の16分音符は強く弾こうと思わず、直後の sf の音へ向かう意識を持つこと

 

他の楽曲にも、このような縦のリズムタイミングが合いにくい例は出てきます。

もう2つの例を挙げておきましょう。

 

シューベルト「ピアノソナタ 第19番 ハ短調 D 958 第1楽章」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、18-20小節)

 

リスト「バラード 第2番 S.171 ロ短調」

譜例(PD楽曲、Finaleで作成、113-115小節)

これらの譜例箇所に手の交差は出てきませんが、基本的な注意点は同様に考えてください。

「直前の休符のとり方」がポイントです。

 

► 推奨練習課題

 

両手のタイミングが合わせにくい箇所へは、以上の解説内容を踏まえて対応するようにしましょう。それに加えて、取り入れると効果のある推奨練習課題があります。

今回取り上げたタイミングの問題は、まさにコルトーのメトードで鍛えられる「頭の柔軟性」と「同時処理能力」の不足にも原因があります。「指の動き」と「頭の働き」を同時に鍛える練習をすることで、実際の楽曲演奏で必要となる複雑な技術に対応できる力を養うことができます。

推奨参考資料:【ピアノ】基礎練習を効率的に:コルトーのピアノメトードの活用法

 

► 終わりに

 

両手のタイミング合わせは、ピアノ演奏における重要な技術の一つです。本記事で紹介した段階的なアプローチを実践することで、確実な上達を実現できるでしょう。

重要なのは、単純な反復練習ではなく、音楽的理解に基づいた体系的な練習方法を採用することです。各ステップを丁寧に積み重ね、常に音楽性を意識しながら技術の向上を目指してください。

 


 

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