【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 全楽章」演奏完全ガイド

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【ピアノ】モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 全楽章」演奏完全ガイド

► はじめに

 

曲の背景

この作品は1778年、モーツァルトがパリ滞在中に作曲しました。マンハイム・パリ時代の代表作の一つであり、彼のピアノソナタの中で短調で書かれた2作品のうちの1曲です。

第1楽章には顕著な特徴が見られます。モーツァルトのピアノソナタで唯一「Allegro maestoso」の指示があり、さらに展開部では当時としては珍しかった ffpp の極端なダイナミクスが登場します。

パリ滞在中、モーツァルトは母を亡くすという悲劇に見舞われました。この作品は母の病状が悪化していく時期に作曲されており、同時期に書かれたホ短調のヴァイオリン・ソナタK.304とともに、彼のパリ時代の作品の中で最も深刻で悲劇的な性格を持っています。

構成面では、この時期の他の作品と比較して例外的に堅固な構造を持ち、後のベートーヴェンを予見させるような様相さえ呈しています。後にウィーンで作曲された「K.457」と並び、モーツァルトの短調ソナタの双璧として高く評価されています。

全曲は古典的なソナタ形式の伝統に従い、急−緩−急の3楽章構成となっています。

(参考文献:ピアノ音楽事典 作品篇 / 全音楽譜出版社

 

演奏難易度と推奨レベル

この楽曲は「ツェルニー40番中盤程度」から挑戦できます。

 

本記事の使い方

この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。

各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。

 

► 演奏のヒント

‣ 第1楽章

· 提示部 第1主題:1-21小節

 

譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-4小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章 冒頭の楽譜

1-2小節

装飾音の処理:

・冒頭のDis音(装飾音)は前に出さず、左手と同時に演奏する
・古典派作品における演奏慣例

メロディのニュアンス:

・1小節目のE音連打は、すべて同じ音質で並べるのではなく、微妙な強弱のニュアンスをつける
・一般的に、長い音価のほうに重みが入るのが自然
・16分音符でコブができたように強くならない

フレーズの重心:

・1-2小節目の重心は2小節目にある
・2小節目の頭に自然な重みが入るよう意識

左手の和音連打:

・この音型は「持続音」と「リズム」の2つの役割を担っている
・鍵盤の近くから打鍵する
・高い位置から打鍵すると和音の発音タイミングがばらけたり、音が散らばる原因となる
・鍵盤を下ろしたままステイし、その「手のカタチ」と「指先の感覚」を覚えておく練習も良い

ダイナミクスの前提:

・モーツァルトの時代、第1楽章の曲頭にダイナミクス指示がない場合、f で弾き始めるのが慣例だった
・ただし、周辺全体で f の世界に聴こえればいいので、伴奏を過度に強く弾く必要はない

 

3-4小節

・3小節目は1小節目のバリエーション
・16分音符は軽快に演奏し、重くならないよう注意する

 

5-7小節

ダイナミクスのニュアンスづけの実例

譜例(5-7小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の5-7小節の楽譜。譜例Aは原曲、譜例Bはダイナミクスのニュアンス例が書き込まれている。

5-7小節を例に取りましょう。

上記のように、モーツァルトの作品では fp の記号が多くを占めているので、p は豊かで歌うような mp から、きわめて弱い p までを意味します。p は通常の p 程度を意味していると考えて、以下のように考えられます:

・まず、点線で区切った部分まではファンファーレを思わせるので、ノンストップで f で弾き切る
・原曲では p と書かれているが、まずは mp で始める
・そうすることで、直後のため息音型でのデクレッシェンドが効いてくる
・スラー終わりの音が大きくなってしまうと非音楽的なので、デクレッシェンドの松葉を表現する
・6小節目2拍目では下段にもため息音型が出てくる
・こちらは「追っかけ」なので、上段のため息音型よりも目立たないように
・したがって、p から pp へデクレッシェンド
・6小節2拍目では上段下段ともに p とすると、弾くときに頭が混乱せずに済む
・以降は同型反復なので、同様にダイナミクスニュアンスをつけていく

mppp が出てくるので、もはや p 領域ではないように感じるかもしれませんが、もしやり過ぎだと思ったら mppp のダイナミクスの幅を p へ寄せてみましょう。理解しやすいように、具体的なダイナミクス記号を使っているわけです。

 

デクレッシェンドの補足

5小節3拍目に p の指示がありますが、到達方法は記されていません。以下の2つの解釈が考えられます:

・3拍目裏の右手からsubito p(推奨)
・1-2拍目にデクレッシェンドを補い、3拍目で p

 

音価の注意点:

・5小節3拍目の左手は4分音符なので、右手のスタッカートにつられないように
・6小節目では、4分音符に重みを入れ、8分音符でおさめる自然なエネルギーの流れを意識する

 

平行3度の音の欠け

譜例(5-7小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の楽譜、5-7小節。

・右手の平行3度進行では、メロディは鳴っていても下声が部分的に鳴っていないケースが散見される
・音の欠けは音ミスと同等に重要な問題なので、よく自分の音を聴きながら練習する

 

小節のつなぎ目での注意

譜例(3-5小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」3-5小節 - 小節のつなぎ目で急ぎがちな箇所を示す楽譜

カギマークで示した「つなぎ目」の箇所では、急がないよう特に注意が必要です。

 

同音連打での運指変更

譜例(5-6小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の5-6小節の楽譜。右手の同音連打を含む和音に運指が書き込まれている。

5小節目のはじめの右手パートでは、和音を弾くときにリズムのアーティキュレーションがあり、C音の連打も含んでいますが、こういったときには、運指を変えて弾くとずいぶんラクになります。

・同じ運指で弾くと、ゆっくりのテンポで弾くときには弾きやすい
・しかし、テンポを上げると連打含みによるリズムのアーティキュレーションが表現しにくい

譜読みの段階から何回かテンポを上げて弾いてみて、運指の可能性を調べてみるといいでしょう。

 

8-9小節

リズムの正確さ:

・8小節目の右手は、左手が8分音符で刻んでいないため、リズムが甘くなりがち
・16分音符が前に寄って3連符のようにならないよう注意する

クレッシェンドの補足:

・9小節目に f があるが、8小節目から音楽が続いているため、subito f は不自然
・8小節目にクレッシェンドを補う

 

11-12小節

運指の注意と暗譜対策

譜例(3-4小節 11-12小節 52-53小節)

モーツァルト「ピアノソナタ K.310 第1楽章」の楽譜。3〜4、11〜12、52〜53小節における、暗譜を考慮した運指の統一例として使用されている。

・この箇所は3-4小節、52-53小節と音型的に対応している
・楽譜によっては運指が異なる場合があるが、暗譜を考慮して統一することをおすすめ
・例えば、すべて3の指でとるように統一すると、本番直前に混乱することを避けられる

 

14-16小節

左手の音価

譜例(14小節目)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の楽譜。14小節目が示されており、両手の異なる音価が混同されやすい例について解説している。

・14小節目では、上段が裏打ち中心の8分音符、下段が4分音符
・上段に引きずられて下段まで8分音符にしてしまうと音楽が変わってしまう
・注意深く区別する

 

テンポの回復

・14小節目でゆるめたテンポは、15小節目で前向きにし、16小節目から元のテンポに戻る
・左手が再び8分音符で刻み始めることで音楽が動き出すため
・フレーズが流れ込んでいないため、この小節の p はsubito で対応可能

 

16-22小節

左手の演奏法:

・このような音型では、バス音だけ深めに弾き、他の音は leggiero で演奏
・すべての音を一音一音はっきり弾く必要はない

構造的理解:

・16-22小節までは、右手も左手もG音を保続していることに注目
・23小節目からのC-durを準備している

ダイナミクスの変化:

・16小節1拍目でクレッシェンド、2拍目から f
・18小節1拍目でデクレッシェンド、2拍目から p
・19小節4拍目でクレッシェンド、20小節目から f

ただし、16小節1拍目や19小節4拍目のメロディは「おさめる音」なので、クレッシェンドの開始点でも決して大きく飛び出さないようにしましょう。

 

ペダリングの工夫

効果的な表現のため、以下のように演奏する方法があります:

・16-17小節の f はダンパーペダルを使用
・18小節の p からはペダルなし

 

20小節目の裏拍の扱い:

・左手の8分音符は裏拍で短い音価なので、4分音符よりも強くなると不自然
・バランスに注意する

22小節目のアルペッジョの意味:

・右手のアルペッジョは f だが、決して叩かない
・アルペッジョは音を柔らかくするために書かれることもある
・f の中でもその配慮が必要です。

 

· 提示部 第2主題(23-42小節)

 

つなぎの重要性

譜例(22-24小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の楽譜、22-24小節。

アウフタクトの丁寧な処理

23小節目から第2主題が始まります:

・「1つの8分休符と3つの8分音符」という、ささやかなつなぎが次の素材を引き出してくれる
・このような「つなぎ」は思っている以上に丁寧に扱う必要がある
・走ったり、音が欠けたりしないよう注意する
・つなぎは次の素材を引き出す役割があり、きわめて重要なので、音が少なく弾きやすくても常に大切に

 

23小節以降:細かいパッセージの構造理解

幹になる音を見つける:

・16分音符が続くパッセージには、ほぼ確実に「幹になる音」が隠されている
・これらを探し出すことが重要

23小節目のような左手はリズムの土台:

・1-2拍目が8分音符の刻みなので、3-4拍目でも、聴衆の中には潜在的に8分のカウントが続いている
・右手の16分音符が、この潜在的な8分のカウントにぴったり合うと聴いていて気持ちよく感じる
・8分音符の刻みは、鍵盤の近くから打鍵すると締まった音で演奏できる

 

23-26小節:音型によるダイナミクス

譜例(23-26小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の23-26小節の楽譜。音楽が閉じたり開いたりする部分に、ダイナミクスの松葉が書き加えられている。

自然な抑揚:

・音楽が閉じていくところは少しおさめ、開いていくところは少しふくらませる
・25-26小節では、モーツァルトがダイナミクス指示を書いていないが、譜例のような補足が効果的

フレーズの構造:

・23-26小節は4小節ひとかたまりで、26小節目でトニックに落ち着き、小さなおさめどころをつけている
・だからこそ、少しおさめて26小節目へ入るのが得策

 

28-32小節:2声の表現

カンタービレへの変化:

・28小節目からの左手は横流れの長い音価になる
・ここからは右手もさらにカンタービレにするイメージを持つ

2声の練習法:

・28-32小節目の左手は2声になっているため、片手練習が不可欠
・片手だけでも立派な音楽を作っておく

 

33-34小節

トリルの始まり

・モーツァルトのトリルは上から入れる
・これは、父レオポルド・モーツァルトの「バイオリン奏法」にも記されている慣例

34小節目のトリルにおける終わりの音符の解釈:

・急速なテンポの場合、終わりの32分音符は「この2つの音程の音符を弾いて欲しい」というガイド的な意味
・ピッタリ32分音符のリズムで入れる必要はなく、5連符や6連符で弾いても構わない

 

35-36小節

連桁の分断

譜例(35-36小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章 35-36小節の楽譜(連桁分断によるフレーズ表現の例)

・36小節目頭では、拍子とは関係のない途中部分で連桁が分断されている
・これはフレーズの切れ目を示している

この部分にはスラーも書かれていますが:

・分断されることで「フレージングを改めて欲しい」という意図がさらに強く伝わってくる
・このような意図的な分断は、譜読みにおける重要な目印

 

離鍵の丁寧さ

35小節1拍目と36小節1拍目の左手4分音符は、「余韻も含めて4分音符の長さ」になるよう、丁寧に離鍵します。

 

42小節目

2声の意識

左手が動きながら右手にトリルが出てくるため難しい箇所ですが:

・右手だけで2声になっていることを忘れない
・3拍目の右手メロディC音の響きが埋もれないように注意する

 

· 提示部 コデッタ(44-49小節)

 

44小節目

譜例(44小節目)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章 44小節。右手の全運指を記載。

運指の工夫

現行のヘンレ版の運指を使用する場合、2拍目から3拍目へ移るとき、運指の都合上どうしても指でつなげることができず、少しポジションを跳ばさなくてはいけません。このとき、跳ばした後に打鍵する音へいちいちアタックを入れてしまいがちです。十分注意しましょう。

・1拍目から2拍目へは、手首を少し左側へ動かすことで指でつなげられる
・ポジションを跳ばしたい特別な意図がない場合、できる限り同一ポジションで弾き進めたほうがいい
・そうすることで、アタックを入れてしまう可能性も低くなる

 

非和声音の演奏法

譜例(44小節目)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の44小節目の楽譜。上段の右手の内声に8分音符で書かれた音(丸印で囲まれている)があり、下段の左手の伴奏部分とともに示されている。

内声に8分音符で書かれた音がありますが:

・これは「拍頭につける非和声音は大きい音符で書いてはいけない」という当時の習慣による記譜
・実際には16分音符として演奏する

この時代の慣例として:

・前打音を含む和音では、前打音をその下の音符と一緒に弾き、それから旋律的主要音符をすぐに続けて弾く
・低音部の伴奏音は前打音と同時に弾かれるべき

 

左手のリズム

左手はリズムのパルスをコンスタントに刻んでおり、40-44小節という一つのカタマリの区切りをつける役割を持っています。リズムを出すことが役割の一つなので:

・「余韻も含めて8分音符」にする意識で、鍵盤の近くから打鍵する
・コントラバスのピッツィカートのようなイメージがいい

 

45-49小節

付点リズムと同音連打

譜例(45-49小節)

モーツァルトの「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の楽譜。45〜49小節における、速いパッセージで5の指を避ける運指の例として使用されている。

音型の由来:

・右手の付点リズムは曲頭のリズムからきている
・打鍵は鍵盤のすぐ近くから行う
・このような音型が連続すると音楽が縦割りになりがちなので、音楽を横に引っ張っていくイメージを持つ

 

5の指を避ける運指:

・左手の16分音符パッセージでは、多くの版で5の指を使っている
・ただし、ある程度の速度では、譜例へ書き込んだように5の指を避ける運指を考えてみるのがおすすめ
・4の指とセットで5の指が出てくると、もたついたり打鍵が浅くなりがちだから

この箇所では、5の指を完全に回避する運指が可能で、暗譜においても問題ありません。パッセージによっては5の指を使わざるを得ないケースもありますが、まずは回避できないか検討する姿勢を持つといいでしょう。

 

同音連打の処理

45小節目以降、右手で同じ音を反復するところが何箇所もあります。ピアノの特性上、打鍵後ある程度鍵盤を上げないと同じ音は再打鍵できません。このため、何でもかんでもスタッカートにしてしまう演奏が多いようです。

・この箇所は軽いメロディではないので、スタッカートにするのは疑問
・付点のリズムを活かすため、付点8分音符を「8分音符+16分休符」にする程度とする
・特に4分音符が短くなってしまうのには注意する

 

· 展開部(50-79小節)

 

50-53小節

和声的変化と音色

譜例(50-53小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の50-53小節の楽譜。点線で示された部分が、和声的に逸脱した部分となっている。

ディミニッシュの扱い

この音型はこの楽章で何度も出てきますが、ここでは和声的に提示部ではなかった反れ方をします。こういったところでは、ただ単に音を正しく並べるのではなく、音色を考えることが重要です。

・「何か感じたら?」と自分へ問いかけてみる
・何かを感じてフッと音色を柔らかく変えると、思案げなこのひとときの意味が出てくる
・ディミニッシュコードが、この直後の ff を予見しているかのよう

作品がふと見せた表情に対して演奏者自身がきちんと反応し、空気感を作るようにしましょう。

 

56-57小節

譜例(56-57小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の56-57小節の楽譜。右手が分散和音を弾いており、各拍の頭の音が丸印で示されている。

頭の音のピックアップ

分散和音ではすべての音を強く鳴らすのではなく、各拍の頭の音をピックアップし、それ以外の音は響きの中へ隠すように演奏すると音楽的です。つまり、頭の音以外はハーモニーの響きの中へ入れてしまうのです。ただし、頭の音をピックアップするからといって:

・パン!パン!パン!などと単音でそっけなく響かせても意味がない
・一拍一拍バラバラになってしまい、音楽的でなくなる
・「ハーモニーの中の、ハーモニーの移り変わりの中の、頭の音」として響かせることが重要

それを実現する方法として、指のみの奏法でも可能ですが、よりやりやすい方法は薄くダンパーペダルを使うことです:

・ペダルで響きをサポートしたうえで、パッセージ全体を大きなひとカタマリとして捉える意識を持つ
・こうすると、格段に音楽的に響く

演奏というのは、音を弾くのではなく「どういう音で弾くのか」が重要です。音色への意識こそが、機械的な演奏と音楽的な演奏を分ける決定的な要素なのです。

 

58-60小節

音型保続

譜例(58-60小節)

モーツァルト「ピアノソナタ K.310 第1楽章」58-60小節の楽譜。左手による音型保続が示されている。

構造分析:

・基本となる音:H音
・音型の特徴:トリルを含む2拍単位の反復パターン

音型保続の理解:

・H音による低音保続だが、最低音のH音の保続の上にトリルの声部が乗っていると捉えるのではなく
・左手パート全体で2拍毎の音型を丸々残している保続と考える
・結局、トリルというのも音の持続の一種だから

この手法により:

・同音連打が苦手な楽器の特徴をカヴァーしつつ、リズム表現を実現
・調性感を保ちながらも変化を生み出している

 

74-75小節

譜例(74-75小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章 74-75小節。右手コンスタント左手トリル部分。

左右異なる動きの攻略法

・右手がコンスタントに動いているところで左手でトリルをやるといった運動は、苦手とする方が多い
・左手を正しく入れようとすると頭が混乱して右手が転んだり、右手を意識すると左手が入らなかったりする
・こういった箇所を攻略するカギは、ゆっくり練習に頼らないこと
・ゆっくりゆっくり合わせようとすると、余計に頭が混乱してしまう

以下の手順がおすすめです:

・理想のテンポでメトロノームをかけながら片手ずつ「完璧に」「ビタ」拍の中へ入れられるようにしておく
・それが完璧にできたら、テンポは変えずに「速いテンポのまま」両手で合わせる
・このとき、各拍の頭さえ合えば良いと割り切って細かな分割を考え過ぎない

頭が混乱するところでは、このように考え過ぎずに速いテンポの中へグイッと入れようとすると、むしろギクシャクせずに上手くいくことが多くあります。

・頭が混乱する場合や、「5:4」のように噛み合わないことが前提の場合では、あえて遅いテンポを避けてみる
・1拍ぶんくらいであれば練習しさえすれば誰でも何とかなる

 

78-79小節

フレーズの改め方

譜例(78-79小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章 78-79小節の楽譜。練習段階でのフレーズ表現の例。

練習段階での表現:

・Vマークを補足した部分ではフレーズが完全に改まるため、一瞬の時間が欲しいところ
・こういった部分で、練習の初期段階では空ける時間を大袈裟目にとって表現してみる

・物事の習得のポイントは「大げさにやってみること」
・フレーズの改めはまさにこのやり方が有効
・フレーズ感がないままズルズル先へいってしまわないよう、練習初期で何をやるかが大切

呼吸の重要性:

・「時間をとる」というより「呼吸」
・呼吸が伴わないでガッポリ時間だけを空けても、音楽の流れを止めてしまうだけ
・呼吸、時間の使い方をどうするかというのが、音楽ではものすごく大事
・大げさめに表現して練習してみるやり方で模索してみる

 

· 再現部:80-133小節

 

88-90小節

両手のタイミング合わせ

ここでは、両手のタイミングを合わせるのが困難に感じる方も多いでしょう。その攻略法は、【ピアノ】両手のタイミングが合わせにくい箇所への徹底的な対応方法 という記事で詳しく解説しています。

 

94-97小節

calando の解釈

譜例(94-97小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の94-97小節の楽譜。95小節目から96小節目にかけてメロディが上昇し、calandoと書かれている。

95小節目から96小節目へかけてメロディの音域が上昇していくので少し膨らませたくなりますが、別の解釈もできます:

・calando というのはただ小さくするというよりは、力がクゥーって抜けていくような印象
・この箇所でも、ちょっと力無くなっていく感じで、f のところで「しっかりせいっ」と気合いを入れられている

このように考えた場合は:

・メロディの音域が上昇していくところで頑張らないでおき
・subito f までずっと calando のニュアンスを踏襲する

というのも一つの解釈として考えられるでしょう。

 

109-115小節

複雑な動きの暗譜法

譜例(109-115小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」109-115小節の楽譜。ジグザグした動きと複雑な運指を要するパッセージの楽譜。

困難な箇所の特徴:

・ジグザグしたり回り込んだりしながら進行していくケースでは、運指が意外とやっかい
・親指をくぐらせるところをはじめ、一度運指を間違えてしまうと修正が容易ではない

この楽章では、このようなタイプの動き回る素材が何度も出てきます:

・提示部:第2主題、コデッタ
・展開部の後半
・再現部:第2主題、コデッタ

 

3ステップの練習法

・運指をしっかりと決める
・その運指をしつこいくらい書き込んでしまう
・「拍頭止め」練習をして暗譜する

「拍頭止め」練習とは、1拍ずつ速く弾いて止める練習法です。詳しくは、【ピアノ】速いパッセージを極める:演奏テクニックと効果的な練習方法 という記事を参考にしてください。

 

109-112小節

2声の音化

譜例(109-112小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の楽譜。109小節目から112小節目が示されており、左手パートが2声に分かれる部分について解説している。

声部分けの理解

提示部同様、ここから左手パートが2声に声部分けされ、音楽が横流れに変わります。
このときに問題となるのは、「頭で分かっていることをいかに音にするか」ということです:

・「2声」と分かっていても
・「2声」と楽譜へ書いておいても
・全部の音が鳴っていて同じに聴こえていたら意味がない

ある程度楽曲のことを理解するまでは頭で考えてしまって構いません。そして、「頭で理解したことを音にするためにはどうすればいいか」というその先を探る部分を省略しないようにしましょう。

 

左手の演奏バランス:

・2分音符で示した音はテヌート気味に弾きたい重要音だが、一番欲しいのは、やはりバスライン
・つまり、バス以外の内声に出てくる4分音符の扱いがポイント
・これらがうるさくなると2声には聴こえなくなってしまう

111小節目の右手の2声的書法:

・右手も、記譜上は声部分けされていないが「2声的な書法」になっている
・小指で演奏する同音連打される音と、他の指で演奏する動いているメロディとのバランスを示す
・そうしないと、ただの1声のドタバタした動きに聴こえて終わってしまう
・欲しい音を意識して打鍵し、ウラの隠れて欲しい音は余力でついでに触っていくだけにする

譜読み初期の心がけ:

・頭で分かっていることを音にするためには意識が必要
・その楽曲の練習初期のうちはやや大げさ目に表現の弾き分けを行う
・その部分が音楽の成り立ちとしてどうなっているのかを自分の身体へ叩き込む

 

113-115小節

伴奏型の変化

譜例(109-115小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の楽譜。109小節目から115小節目が示されており、伴奏の変化や和音が音楽の流れを変えるきっかけとなる例について解説している。

音楽の流れを変えるきっかけ

再現部第2主題から刻む伴奏型が続いてきましたが:

・109小節目からは、伴奏型が変わることで横流れが強調された表現に変化
・113小節4拍目の和音がきっかけで、114小節目からアルベルティ・バスが始まり、音楽がさらに動き出す

この「音楽の流れを変えるきっかけ」をきちんと読み取りましょう。提示部の同所を見てみると、ダウンビートを示すこのきっかけの和音は再現部にしか出てこないことが分かります。聴き比べて、たった一つの和音による表現の大きな違いを確認してください。

 

123-125小節

技術的最難関箇所

譜例(123-125小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」123-125小節の楽譜。技術的に困難なパッセージを含む古典派ピアノソナタの楽譜。

最も困難な箇所

この3小節間はおそらく、この楽曲の中ではテクニック的に一番弾きにくいところです。こういった難しいところの譜読みを何とかするには、音楽的な理解は当然必要ですが、概ね弾けるようになるためのポイントは:

・譜読みの初期段階から両手でゆっくりゆっくり合わせてしまわないこと
・片手だけで、理想の完璧なテンポで楽譜も見ずに弾けるくらいにしてから、両手でゆっくり合わせ始める

 

余裕の重要性:

・ほとんどの学習者が、片手ですらろくに弾けていないうちから両手で合わせ始めてしまう
・難しいところがうまく弾けない理由は、多くの場合、テクニック不足というよりも、余裕がないから
・たとえゆっくりのテンポであっても、慣れていない段階で両手で合わせているときというのは余裕がない
・だからこそ、片手だけでピカピカにしてから少しでも余裕を持って両手で弾き始める
・少なくとも「難しいところでは」良いアプローチ方法
・よそ見をしていても間違えずにインテンポで弾けるくらい慣れておく
・そこまで行くためには、片手のみでも相当練習が要る

 

運指の徹底的な書き込み:

・加えて、運指をガンガン書き込む
・書かなくても分かるような部分にも書いてしまって構わない

譜読みの初期というのは、楽譜にかじりついて視覚的要素に頼っています。その段階を早く終わらせるためにも、逆にむしろ書き込みを重視して、毎回異なる運指で弾いてしまうような非効率な反復練習を徹底的に避けるようにしましょう。

 

123-124小節のトリルとリズム

付点8分音符のトリルに加えて、2つの32分音符が付けられたリズムが出てきています。しかし、Allegro maestoso でそこそこテンポが速いので、左手の16分音符ですら結構な速さで動いており、その4つ目の音にあわせて32分音符を二つ入れて、しかもその前でトリルする、というのが困難です。

ゆっくりのテンポで練習しているときには楽譜通りのリズムでも弾けてしまうので、テンポを上げたときに初めて困ることになるでしょう。

・ピアニストの演奏を聴いていると、リズム通りに弾かず5連符や6連符で弾いてしまっている
・リズム通り弾いているピアニストは一人も知らない

トリルの終わりに書かれている二つの32分音符は:

・あくまでも「トリルの終わりにはこの2つの音程の音符を弾いて欲しい」という意味
・ガイド的に書かれた32分音符ということ
・急速なテンポの場合、ピッタリ32分音符のリズムで入れて欲しいという意味ではない

モーツァルトは、多くのピアノ曲でこの記譜を使用しているので、覚えておいてください。

 

126-128小節

クライマックスとディミニッシュ

譜例(126-128小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」の126-128小節の楽譜。提示部にはなかった、緊張感のあるハーモニーの小節にカギマークがついている。

再現部のクライマックス

再現部の終盤であるここでは、大半のピアニストは強い表現で弾いています。どちらの小節も減七の和音(ディミニッシュ)という緊張感のあるハーモニーが使われていますし、提示部には出てこなかった、あえてわざわざ付け加えられた部分だからです。譜例の3小節間は、提示部では対応する部分が出てきません。

段階的なクライマックス

では、2つの小節は同じように強く弾けばいいのでしょうか。そのような演奏もゼロではありませんが、以下の3点より、後ろの小節のほうがより強い表現だと考えていいでしょう:

・異なるディミニッシュのハーモニーを連続させて緊張感を追い込んでいる
・和音の厚みがより重厚になっている
・より低い音も使われている

・後者の小節(B)がこの楽章のクライマックスだと捉える
・展開部の中間に唯一の ff が出てくるが、それに準じるエネルギーだと解釈して劇的なラストを演出する

作曲家がダイナミクスで指示していないからといって同じような表現を並べるのでなく、音域、音の厚み、ハーモニーの使い方などをよく観察して各部分の表現の差を見抜くことが重要です。

 

運指トラブルの対処法

譜例(126-128小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第1楽章」譜例。126〜128小節。練習中に運指を忘れてしまったときに、Fis音の運指を書き留めている例。

筆者自身、127小節目のFis音では、ある時突然、2の指と3の指のどちらの指を使っていたのか分からなくなってしまったことがありました。運指の書き込みを徹底していなかったことが原因です。何回か弾いてみてもいつも弾き込んでいたときの感覚で指が運用できず、完全にハマってしまいました。

こういったトラブル時には、以下のように対処してみてください:

・まず、数回弾いてみる
・それでも思い出せなかったら、無視して別のところの練習へ移る
・最低でも1時間以上空けて「何も考えずに」その場所を再度弾いてみる
・今まで弾き込んできたのであれば、大抵、先ほどまでの迷いが奇跡のように消え去っている
・間髪入れずに楽譜へその運指を書き込んでセーブ

これでバックアップ完了。もし思い出せなかったら、もっと時間を空けてから「何も考えずに」その場所を弾いてみてください。そして、脇目もふらずに書き留めます。

 

· 全体を通しての重要ポイント

 

モーツァルトのダイナミクス

モーツァルトは一部の例外を除き、多くのダイナミクスを fp で表現しました。『新版 モーツァルト 演奏法と解釈』では以下のように解説されています:

モーツァルトの f はとても大きな音から中くらいの音量にわたる、幅広い範囲を含んでおり、同じようにモーツァルトの p は、豊かで歌うような mp からきわめて弱い p までを意味するのです。

要するに、そんな中で、わざわざ ffpp を使用したというのは、そこに作曲家の強い意志が見えるわけです。

時々、どんな作品でも「f のところをあえて p で弾いたりする解釈」をすることがあります。しかし、上記のようなケースではそういった解釈が入ってくる余地はありません。作曲家がわざわざ ff と書いているからには ff なのです。
作曲家があまり使わなかった特徴に目をつけると、このようなことが見えてきます。

 

装飾音について

装飾音は軽めに弾くのが原則で、それらがかかる幹の音よりも目立ってしまうと音楽的に不自然になってしまいます。装飾音が主役ではないので、多くの楽曲では、装飾音を取っ払って演奏しても骨格的には一応成立するように書かれています。だからといって適当に扱っていいわけではなく、その意味を想像してみるべきでしょう。

この楽章を例にした、「装飾音の声楽的なニュアンスと器楽的なニュアンス」については、【ピアノ】装飾音の応用:バロックから現代までの技法と解釈 という記事で解説しています。

 

‣ 第2楽章

 

この緩徐楽章はソナタ形式になっており、提示部と再現部の対応する部分を比較検討することで、構造の違いが音楽の聴こえ方へどのような変化を与えているかを理解できます。

「ワンフレーズの中に様々なアーティキュレーションを盛り込んでいる箇所が多い」という部分がこの楽章の特徴です。細かな表現の違いを丁寧に読み取り、音楽の意味を明確に伝えることを心がけましょう。

 

fp の解釈

この楽曲で出てくる「fp」は、相対的に強い音にするのではなく「重みを入れる程度」「フレーズを別にする目印」として解釈しましょう。

 

· 1-31小節

 

アウフタクト〜1小節目

・アウフタクトから1小節目の頭へ向かう上昇音型でエネルギーが上がる
・1小節目頭の装飾音は「エネルギーを持っていくための装飾音」だが、主音のA音よりは大きくならないように
・1小節2拍目裏の右手は「タイで先取されている音」なので重みを入れる

 

2-4小節

隠れフレーズを見抜く

譜例(2-4小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章 2-4小節の楽譜。隠れフレーズの分析例。

メロディには譜面上のスラーだけでなく、隠れたフレーズ構造があります:

・G音(①):前からのフレーズの終わりの音
・G音(②):次のフレーズ始まりの音(タイで先取り)

この違いを理解することで、以下の解釈が明確になります:

・①はフレーズ終わりなので大きくならないようにおさめる
・②は先取りなので深い音を出す

 

フレーズの入れ子構造:

・大きなフレーズの中に細かなフレーズがある
・フレージングはスラーで記譜されていないケースも多い
・作曲家が残した楽譜上のガイドと自分の分析眼で読み取っていく必要がある

 

音を前後どちらのフレーズへ付けるか

譜例(3-4小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章 3-4小節の楽譜。音を前後どちらのフレーズに付けるかの例。

丸印で示した32分音符のF音は、スラーから判断すると「前のフレーズへつける音」です。

適切な演奏方法:

・このF音は、「弾く」というよりは「触るだけ」というイメージで
・4分音符のE音を自然に解決させる
・後ろの32分音符のグループにつけてしまうと、音楽の意味が変わってしまう

 

6小節目

・トリルは上から入れる
・2拍目の頭の音に少し長めにとどまることでフレーズを別にする

 

8小節目

・頭のメロディ音は「フレーズの終わりの音」なので大きくならないように
・右手がスタッカート中心、左手がスラーという対照的なキャラクターの差を意識
・ただし、ピッ!と短過ぎるスタッカートは曲想に合わない

 

11小節目

・右手の fp は「fp の音からフレージングが始まる」という目印

 

12-13小節

ダイナミクスによる解釈

譜例(12-13小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章 12-13小節の楽譜。ダイナミクスによるフレーズ判断の例。

この部分では2つの解釈が可能です:

音域による解釈:

・12小節目最後のメロディA音から新しいフレーズとして捉える
・連桁の分断とメロディの音域の変化を重視

ダイナミクスによる解釈(推奨):

・p の位置を重視し、点線で区切った箇所までが前のフレーズと捉える
・メロディが跳躍する32分休符では余計な時間を使わない
・13小節目へ一気に入る
・点線の直後でわずかな時間を使う
・フレーズを改めて音型を折り返す
・この解釈にすることで、左手の16分音符もギクシャクせずに済む

 

12小節目の細部

・右手には様々なアーティキュレーションが混在しているので、それぞれのキャラクターの差を意識

15小節目-

・左手8分音符に付けられたスタッカートは「長めのスタッカート」で

17小節目-

・左手でメロディが演奏されるので、その前でフレーズを「別」にする
・左手ではメロディと伴奏を同時に演奏するので、片手練習で丁寧に音楽を作る
・右手のトリルは「持続表現」なので、ゴリゴリと大きく弾かない

 

22-23小節

・fp は「フレーズを別にする目印」として解釈
25小節目も同様

 

26-28小節

スケール中の構造理解

譜例(26-28小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章」の楽譜。26小節目から28小節目が示されており、スケール中の同音連打がフレーズの区切りを示す例について解説している。

点線スラーで示したように、スケールの中に突如現れる同音連打は大きな目印です:

・1つ目の音:前からの流れの終わりの音
・2つ目の音:次の流れの始まりの音

これにより:

・26小節目は「4分音符+2分音符」
・27小節目は「4分音符+4分音符+4分音符」

のように構造を捉えます。全体は大きく一つの流れの中で弾くイメージを持ちましょう。

 

26小節目

譜例(26-28小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章」の26-28小節の楽譜。27小節目の左手のパッセージの入りが丸印で示されている。

・左手の8分音符は「余韻も含めて8分音符の長さになるように」離鍵を丁寧に

 

27小節目

27小節目の左手

・丸印で示した最初の3つの音にテヌートがついているようなイメージで、指圧を深く、丁寧に弾く
・このように頭が休符になっているパッセージでは、転んだり音が浮いて鳴り損なったりしないように注意する

27小節目の右手

・上から「カツン」という打鍵をすると硬い音になる
・鍵盤の近くから指の腹を使って打鍵する

ここで見られる「白玉と黒玉が混ざった団子和音」の解釈については、以下の記事で詳しく解説しています。

【ピアノ】和音演奏を習得する25の実践的アプローチ より
「‣ 22. 白玉と黒玉が混ざった団子和音の弾き方」

 

提示部と再現部の比較(28小節目と83小節目)

譜例(28小節目 および 83小節目)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章」の楽譜。提示部の28小節目と再現部の83小節目の対応する部分が比較されており、バスの書法が異なる点が示されている。

対応する部分ですが、メロディや細かな違いが多くあります。特に注目すべきは:

・バスが小音符で書かれている書法とそうでない書法が使い分けられている
・右手のトリルは両方とも3と5による運指が有効(1と2で内声を演奏でき、3と5のトリル自体が弾きやすい)

 

29-31小節

・30小節目は29小節目のバリエーション
・31小節2拍目は8分音符なので、長く伸ばし過ぎず、離鍵を丁寧に「フワッ」と終止

 

· 32-53小節

 

32-36小節

展開部への伏線

譜例(32-37小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章」の楽譜。32小節目から37小節目が示されており、重々しい響きや短いフレーズが、伏線として後の和音の変化を暗示する例について解説している。

この部分は、37小節目のc-mollへの「伏線に感じさせない伏線」です。

重々しい響きによる暗示:

・37小節目へ入るまではdurだが、どことなく明るくないdur
・左手の低音域での密集配置が重く響く
・この楽曲で他にこのような重い響きは使われていないことから、37小節目への伏線意図があったと考えられる

小節構造の短縮化:

・32-34小節:3小節ひとかたまり
・35-36小節:2小節ひとかたまり

メロディの息も短くなっていき、音楽の緊張感が37小節目へ向かいます。

 

演奏上の注意点:

・左手の和音は音域が低いので、現代のピアノでは重く聴こえやすい
・ダイナミクスをコントロールし、鍵盤に指をつけたまま押し込む

・8分休符の前後の音の処理を明確に
・休符の意識次第で音楽の締まり方が変わる

 

37小節目-

・左手が3連符になる箇所で決してテンポを落とさない
・「同じテンポの中で音の細かさが変わっていくという感覚の変化」が聴かせどころ
・連続した分散和音は一種の「持続表現」なので、全体でハーモニーが聴こえて動いている印象が伝われば十分

 

43小節目-

・3連符が右手に移る。伴奏なのでうるさくなり過ぎない
・音楽を横にグッーっと引っ張っていく意識を持つ
・左手のスタッカートは「腕を使用したスタッカート」を使用(細かくない動き+フォルテ)
・長めのスタッカートにする

 

50小節目

・1拍目まで左手が主役で、それと入れ替わるように右手にメロディが戻る
・役割が入れ替わったのがはっきりと分かるように、ダイナミクスで示す

 

· 54-86小節

 

54小節目以降

・素材的に繰り返しなので、基本的な考え方は同様

 

85-86小節

音の終わりを形作るペダリング

譜例(85-86小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第2楽章」の楽譜、85-86小節。

楽曲最後の「8分音符+8分休符」の処理:

・この8分音符は余韻をつけて切りたいが、ノンペダルだと消え際がバッサリいってしまう
・音の終わりを形作るペダリングを活用
・後踏みを遅らせて、手を上げる直前にのみ”ごく短い時間”フワッと踏んでフワッと上げる
・音の切れ際にだけペダルを使うので、余韻をつけつつ前の音響を拾う恐れがない

 

‣ 第3楽章

 

楽曲構造の理解

全252小節という規模の楽章において、基本となる4小節単位の構造が支配的です。しかし、以下のような「例外」が計画的に配置されています:

・3小節単位の部分:4箇所
・2小節単位の部分:2箇所
・その他すべての箇所:4小節単位(236小節分)

単位の変わった数少ないところがメリハリになっています。 これらの「例外」は決して無作為ではなく、すべて楽章の重要な転換点、つまりセクションの区切りに配置されているのです。

 

· 1-142小節

 

1-8小節

譜例(1-8小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章 冒頭の楽譜。大きな音楽の流れを意識する例。

大きな流れを意識する

譜読みするときにどうしても1小節ずつの表現ばかりへ気を向けがちですが、少なくともここでの演奏では8小節を大きく一つへまとめることを忘れずに。 そうでないと「一つ一つ一つ」になってしまい、「細部は美しいのに音楽が細切れで流れない」演奏になってしまいます。

改善のポイント:

・首を振ったりと、身体の動きが「一つ一つ一つ」にならないこと
・音楽をグーっと横へ引っ張る意識を持つこと
・楽譜を見ながらメロディを口で歌ってみる
・声は音を減衰させずに伸ばせるので、ピアノよりもフレーズを長く取りやすい

 

右手:メロディのエネルギーを読み取る

各小節の「2拍目裏」の音は決して大きく飛び出ないように注意しましょう。

エネルギーの頂点:

・1-4小節の中で最もエネルギーが高い箇所は「4小節1拍目」
・そのエネルギーを「4小節2拍目」でおさめる
・6小節目は「1-8小節目のヤマ」 で、4小節1拍目よりも高いエネルギーを持つ

7-8小節目の注意点として、 メロディに「2つのC音」が連続しますが:

・決して同じ音質で並べてしまわないように
・2つ目のC音に重みが入る

 

左手:軽やかに流れるように

1小節目からの左手は、極めて軽く。一音一音がはっきり見えてしまうと音楽が流れません。

リズムのポイント:

・各拍頭の「8分休符」をしっかりとる
・左手のみで演奏してもきちんとリズムを表現できるようにしておくと、両手で演奏した際の安定度がグンと上がる
・8小節目の左手などの「4分音符」は「ノンレガート」で演奏
・跳ねるようなスタッカートにはならないように、「置いていくようなタッチ」で打鍵

 

15-16小節

フレーズの切れ目

16小節1拍目の表でフレーズが終わるので、1拍目裏のCis音からは別のフレーズとして扱います。理由は:

・16小節1拍目のA音とCis音が順次進行しているわけではない
・16小節1拍目裏のCis音からスタッカートがついている

和声的には「偽終止」になっています。

 

17小節目への移行

17小節目は f になりますが、どのような経過で f になるかは書かれていません。16小節目の右手はスタッカートの音から順次進行で上行して17小節目に連結しているので、16小節目にクレッシェンドを補って演奏している解釈が多く聴かれます。

 

17-20小節

ブリッジ(つなぎ目)

・17-20小節目は「ブリッジ」として挿入された4小節間
・直前と似た要素を繰り返すことで、18小節目に「ヤマ」を作っている
・この箇所が、1-20小節目全体のヤマ でもある

「知る」だけでなく、ダイナミクスで演奏に反映させましょう。

 

21-28小節

装飾音とクライマックスへの準備

譜例(21-27小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章 21-27小節 の楽譜。右手の「Fa-La-Do」に丸印が記載されている。

21-25小節:上昇する幹の音

丸印で示した、右手の「Fa-La-Do」と上昇していく軸音に注目してください:

・その頂点のC音にだけ「装飾音」がついている
・これがつくことで、よりエネルギーが高くなる

「頂点の箇所だけについている」のが作曲的に工夫されているところです。これは「音を強調する装飾音」の典型例です。

 

装飾音の演奏上の注意

バロックや古典派の作品の装飾音は基本的には「拍の前へ出さない」のが慣例ですが、ここでは左手のパートが休符になっているため、うっかりと拍の前へ出しがちです。注意しましょう。

 

25-28小節

譜例(25-32小節)

 モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」25-32小節の楽譜。ダイナミクスが pp に落ちる箇所が示されている。

・25小節目でメロディがC音に到達した後、順次進行で下りてくる
・cresc. が書かれているため、最も重みが入るのは「28小節1拍目」
・28小節2拍目はきちんとおさめる

 

26-28小節

音楽が切迫していく効果

・26小節目からは「1拍ずつ」ハーモニーが変わっており、ハーモニーの移り変わりが細かくなっている
・さらに、アーティキュレーションも細かくなっている
・それらにより、音楽が切迫していく効果が出ており、クレッシェンドと「相乗効果」になっている

 

29小節目

subito pp

・29小節目は pp になるが、ここはsubitoでガラッと色を変える
・空気感を変えるイメージを持つ

 

35-40小節

跳躍前の音処理

譜例(35-40小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章 35-40小節。跳躍前の音処理に注意すべき箇所。

36小節目から37小節目へ移るときに、ダイナミクスがsubitoで f になり、右手パートにも多少の跳躍が出てきます。

・ダイナミクスが急変したり跳躍する直前は、音処理に注意する(36小節2拍目)
・次のことばかりに意識がとられてうっかりと音処理が雑になってしまいがち
・急いだり、音量的に大きく飛び出たりしてしまわないように

演奏中は意外と気づきにくいものですが、直後に何か気を取られるような要素があるときには、音処理に注意しましょう。

 

運指の違いによる跳躍回数

譜例(37-40小節)

モーツァルトの「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」の楽譜。37〜40小節における、運指の違いによる跳躍回数の違いの例として使用されている。

左手パートを見てください。多くの版で採用されている下側へ書き込んだ運指では、各小節の1拍目裏へ移るときと、小節をまたぐときとで、ポジション変化を伴う跳躍を2回もしないといけません。

一方、上側へ書き込んだ運指を使うと、跳躍をしなければいけないのは小節をまたぐときのみになり、弾きやすさという意味では圧倒的にやりやすいものとなります。

急速なテンポを求められている場合には、跳躍というのはテクニック的に問題が起きやすいので、それが少ない運指を使うほうがいいでしょう。

・運指の違いによる跳躍回数の違いに目を向けるべき
・書かれている運指を鵜呑みにして使っていると、よりよい案に気づかないこともある

 

アーティキュレーションについて

ここでの左手パートには、曲頭からの左手パートのリズムが内包されており、各小節の4つの8分音符を「1+3」のようにとることができます(1がバス音、3が曲頭からのリズム)。

 

跳躍の練習方法:

・ゆっくり練習する際に、2拍目裏からベース音までの距離を意識してさらう
・2拍目裏を打鍵したらすぐに次の音の「準備(プリペア)」をする
・左手だけで鍵盤を見なくても弾けるくらいにしておくと、両手で合わせた際の跳躍演奏がグッと楽になる

 

音楽的要素:

・右手には「4度和音の連続」が出てくるが、これは新しい要素ではない
・26-27小節の両手にも「4度和音(複音程)」の響きが連続しており、楽曲全体の整合性が保たれている

 

43-45小節

替え指のタイミング

譜例(43-45小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」43-45小節目の譜例。Prestoの速いテンポでも、無理に忙しい箇所で替え指をせず、後ろが忙しくないタイミングで替えるべきであることを、タイで結んだ譜例で解説。

45小節目のはじめに「4-3」の替え指の指示があります:

・Prestoのテンポなのにも関わらず、わざわざ忙しいところで替える必要はない
・後ろが忙しくない、2拍目裏の位置で替えるのが適切

 

52-57小節

譜例(52-57小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」の52-57小節の楽譜。52小節目のCis音から53小節目のD音へ、そして56-57小節で完全に声部分けされたメロディのつながりが示されている。また、内声のつながりも矢印で示されている。

52-53小節:3声の弾き分け:

・ここは「3声」になっている
・特に53小節目の右手は1本の線に聴こえてしまいがちなので、ダイナミクスのバランスをコントロールする

弾き分けのポイント:

・メロディライン(高音)を骨太の音で演奏
・内声は響きの中に隠すように静かに演奏

立体的な演奏をするには、こういった「声部の見極め」と「弾き分け」が欠かせません。

 

丸印で示した52小節目のCis音は、次の小節のD音へつながるメロディです。 56-57小節のように完全に声部分けされていれば分かりやすいのですが、52-53小節のように部分的にしか声部分けされていないと、見落としてしまう可能性があります。

・メロディCis音からD音へのつながりを大切に演奏する
・内声のつながりも意識し、横のラインの流れを乱さないように注意が必要

 

64-71小節

メロディが左手に移る

64小節目からはメロディが「左手」に移るので、右手は極めて静かに演奏しましょう。一方、64-71小節目の右手を見てみると:

・いずれの小節も「付点4分音符のH音」が鳴っている
・これは一種の「保続」
・こういった保続音は、一つだけ大きく聴こえたりしないようにあえて均等に鳴らすと音楽的

 

72-75小節

跳躍の多い難所

譜例(72-75小節)

モーツァルト ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章 72-75小節の楽譜。跳躍の多い難所の例。

・72-75小節目の右手は、37-40小節目の左手の音型
・やはり、曲頭からの左手のリズムが内包されており、それがアーティキュレーションの判断の参考になる

Prestoのテンポでガンガン跳躍するため、この楽曲における難所の一つとなっています:

・こういったところでは、暗譜をしてしまわないとテンポを上げる術はない
・楽譜をのぞきこんでいる状態では跳躍先を見る余裕がない
・ゆっくりのテンポであればともかく、Prestoのテンポには対応できない

難所のテンポを上げるためのステップとして、とにかくその部分だけでも暗譜することを徹底してみてください。前提として、部分的な難所が克服できないと全体のテンポも上がらないことは心得ておきましょう。

 

87-94小節

同型反復と3声の立体的演奏:

・87-88小節、89-90小節、91-92小節、93-94小節と、「同型反復」になっている
・「3声」になっているので、右手トップノートの2分音符が一番聴こえるバランスで立体的に演奏する
・「右手の内声」と「左手」は「同じくらいのダイナミクス」で演奏するとバランスがいい

このように、「そのときに一番聴かせたい音はどれなのか」という視点をいつでも忘れないようにしてください。

 

105-106小節

右手のソロ:

・105小節目の左手は、「余韻も含めて4分音符分の長さ」になるように、丁寧に「離鍵(リリース)」する
・そうすることで、「105小節2拍目」と「106小節」の右手の「ソロ」を印象的に聴かせることができる

 

· 143-252小節

 

143-150小節

オクターヴユニゾンによる音色の変化

譜例(143-150小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」の楽譜。143小節目から150小節までが記されており、一時的なオクターヴユニゾンによる音色の変化の分析例として使用されている。

148-149小節の左手パートでレッド音符で示した部分は、メロディとオクターヴユニゾンを作っています。この部分でモーツァルトが行っているのは、ただのオクターヴの重ね合わせに留まらない繊細な音楽的操作です。

音楽的効果:

・音色的効果: 瞬間的なオクターヴユニゾンによる音色の変化が、楽曲の流れに色彩変化をもたらす
・テクスチャーの変化: 通常の二声部から一時的なユニゾンへの移行が、音楽的な強調を生む

・オクターヴの響きというのは一種の硬さがあり、それが不意に出てくると音色の色彩が変わる
・必要に応じて、作曲家はそのささいな色彩の変化を使い分けていく

まずはゆるやかなテンポでもいいので、この部分を弾き通してみてオクターヴになったところの色彩の変化を感じ取ってみましょう。

 

167-174小節

バス音のリズムの変化

譜例(167-174小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」の楽譜。167小節目から174小節目が示されており、バス音のリズムの変化について解説している。

バス音をよく見てみると、終止小節を除けば2つの小節のみ、バス音による1小節に2つのビートが入っていることに気づくと思います。何となく作曲していたら何となくこうなったのではなく、やはり確信犯でしょう。

・こういったところは、ただ弾いていると、ただ通り過ぎてしまう
・表現の違いを理解するためには、弾き比べ、聴き比べが必要

まずは、ゆるやかなテンポでもいいのでこの部分を弾き通してみて、バス音によるリズムが変わったところへ意識的に耳をやってください。そういったことを繰り返しやっていると、耳が開いてきて、他の楽曲でも似たような響きを自分一人で発見できるようになります。

どうしてこれらの小節だけバス音が4分音符なのか:

・143小節目から続いてきたエピソードを締めくくるのにオチをつけたかった
・161-162小節や165-166小節の左手で演奏されるリズムを引っ張ってきた

 

199-204小節

執拗な繰り返しの意図

譜例(199-204小節)

モーツァルト「ピアノソナタ イ短調 K.310 第3楽章」の楽譜。199小節目から204小節目が示されており、執拗な繰り返しが表現する意図について解説している。

カギマークで示した4小節間は、全く同じ内容を執拗に繰り返します。しかも、不安定な和声かつ、f で演奏されるので、一種の「サイレン(警報音)」のようなイメージさえ感じます。

執拗な繰り返しが出てきたら、その意味を考えるようにしましょう。ここでは明らかに:

・あおってせきたてる
・緊張感を途切れさせない

これらのような意図が込められているように感じます。そう踏まえると、p へ入る前に rit. をしないほうがいいだろうと考えを立てることができます:

・ノンストップで一気に最後の音まで弾き切ってしまう
・そして、subito p でガラリと空気を変える
p へ入るところで両手ともに大きな跳躍があるので、その前で保険をかけてテンポをゆるめてしまいがち
・わずかな時間をとるのであれば、f のところを in tempo で弾き切ってしまい、p へ入るところで少しだけ

執拗な繰り返しをはじめ特徴的な書法の意図を考えると、このように演奏解釈の参考になる可能性があるのです。

 

· 全体を通しての重要ポイント

 

ダイナミクスとテンポの関係

25-32小節などの注意点

・途中から pp になる箇所では、ダイナミクスが下がるところでテンポまで下げてしまっているケースがある
・テンポは変わらないのにダイナミクスがストンと落ちるところに美しさがある

・楽曲によっては多少テンポも下げたほうがいい場合もゼロではない
・しかし、原則としては下げないと思っておいてOK
・まず、下がっていることに気づいていない状況だけは避けなければいけない

加えて、ダイナミクスを徐々に下げていくところでもテンポには注意 が必要です。

 

calando の解釈

モーツァルト「ピアノソナタ K.310」の場合、calando が第1楽章に2回のみ、第2楽章に1回のみ出てきますが、モーツァルトの時代の calando は、テンポは下げずにダイナミクスのみ下げていく というのが有力であると音楽学で言われています。

 

テンポの上げ方:演奏時間で管理する

テンポ数値よりも演奏時間で管理するアプローチを推奨します。そうすれば、メトロノームをかけるのが好ましくない部分や楽曲でも応用できます。このアプローチで「K.310 第3楽章」を題材にして、 という記事を書いているので参考にしてください。

【ピアノ】確実にテンポを上げるための完全ガイド

 

装飾音についての理解

フンメルの書籍の中に、以下のような文章があります:

装飾記号、前打音と後打音、装飾音は、音楽には欠かすことができない。それらは音と音をしっかり結び付け、旋律をまとめる上でも、音を強調し、美しい演奏を行う上でも重要なものだからである。

この中の「音を強調し」という部分について、21-27小節の例で見たように、頂点の箇所にのみ装飾音がつくことで、よりエネルギーが高くなる効果があります。

 

► 終わりに

 

この作品を演奏するうえで重要なのは、装飾音の処理、ダイナミクスの解釈、フレージングの理解といった基本的な要素を丁寧に積み重ねることです。特にモーツァルトの時代の演奏慣例を理解することで、作曲家の意図により近づいた演奏が可能になります。

譜読みの段階から、単に音を並べるのではなく声部の役割、構造的な特徴などに注意を払いましょう。そうした分析的なアプローチが、説得力のある音楽表現へとつながります。

 

推奨記事:【ピアノ】モーツァルトのピアノソナタ解釈本5冊:特徴と選び方ガイド

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

作曲の視点からピアノ学習者の学習的自立を支援/ピアノ情報メディア「Piano Hack | 大人のための独学用Webピアノ教室」の運営/音楽雑誌やサイトなどでピアノ関連の文筆
受賞歴として、第88回日本音楽コンクール 作曲部門 入賞 他。

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