【ピアノ】「グラフィック ピアノの歴史」(属啓成 著)レビュー
► はじめに
「グラフィック ピアノの歴史」は、ピアノという楽器とその音楽の歴史を豊富な写真と共に紹介した、図鑑的書籍です。著者の属啓成氏(1902-1994)は、ピアノ関係や音楽分析の書籍などで知られています。
・出版社:音楽之友社
・初版:1986年
・ページ数:203ページ
・対象レベル:初級〜上級者
・グラフィック ピアノの歴史 著:属啓成 音楽之友社
► 本書の特徴
圧倒的なビジュアル資料:
この本の最大の魅力は何と言っても豊富な図版です。カラー写真74枚、モノクロ写真103枚という贅沢な写真コレクションを通して、クラヴィコードやチェンバロといった先祖楽器から現代のピアノまでの発展を目で見て理解できます。著者が長年にわたって世界中の楽器博物館を訪れ、収集した写真の中から厳選されたものです。
広い視野での解説:
単なる楽器史ではなく、ピアノ音楽の歴史、さらには絵画や建築など他の芸術との関連性も探りながら解説されています。500年にわたる鍵盤楽器の歴史を、より広い文化的文脈の中で理解できるよう工夫されています。
充実した内容構成:
目次を見るだけでも内容の充実ぶりが分かります:
・豊富な図版セクション – クラヴィコード、チェンバロから様々なピアノの形態まで
・ピアノ変遷史 – 楽器の起源から現代まで
・バロック時代のクラヴィーア
・ピアノフォルテと現代ピアノ- 製作者別の解説
・19世紀のピアノ工業と技術革新
・様々な変形ピアノ
・19人の大作曲家たちが使用したピアノ
また、美術、建築との関連が考察されながらピアノの歴史が解体されていく点は独自的と言えるでしょう。
► 本書のおすすめポイント
1. ピアノの深い理解につながる
現代のピアノが今の形になるまでの長い道のりを知ることで、楽器としてのピアノへの理解が深まります。特に演奏者にとっては、時代によって楽器の特性が大きく異なることを知ることで、曲の解釈にも新たな視点がもたらされるでしょう。
2. 視覚的に楽しみながら学べる
大判のハードカバーで、まるで美術書のように楽しめます。ピアノが好きな方なら、写真を眺めているだけでも何時間も過ごせるような魅力的な一冊です。
3. 歴史的・文化的文脈を提供
ピアノという楽器が、単に技術的な進化だけでなく、時代の美意識や社会の変化、音楽様式の発展とどのように関わってきたかを理解できます。
4. 作曲家とピアノの関係を探る
ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、リストなど19人もの大作曲家たちが実際に使用していたピアノについての記述は、彼らの作品をより深く理解する手がかりになります。巨匠たちが使用したピアノの写真を見ていると、それだけで自己啓発のような時間にもなるでしょう。
► 実用面での注意点
・31cmという特大サイズで持ち運びには適さない
・教則本ではなく、参考資料・教養書として活用するのが最適
・1986年の出版のため、最新のピアノ開発については記載がない
► まとめ
「グラフィック ピアノの歴史」は、ピアノという楽器の奥深さと歴史的重要性を、視覚的にも知的にも満足できる形で伝えてくれる貴重な一冊です。著者の属啓成氏が長年にわたって収集した資料と知識が詰まった、ピアノの歴史図鑑と言えるでしょう。
浜松のヤマハピアノテクニカルアカデミーの特別講師としての経験も活かされた本書は、専門的な視点と一般読者向けの分かりやすさを兼ね備えています。
・グラフィック ピアノの歴史 著:属啓成 音楽之友社
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