【ピアノ】録音音源「Schumann: Lieder, Transcriptions for Piano by Clara Schumann」レビュー

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【ピアノ】録音音源「Schumann: Lieder, Transcriptions for Piano by Clara Schumann」レビュー

► はじめに

 

2000年に発表された本録音は、クララ・シューマンが編曲した「ロベルト・シューマンの30のリートと歌」から28曲を収録した貴重な録音です。未収録となっているのは、「ミルテの花 Op.25 より 第2曲 自由な心」と、「リーダークライス Op.39 より 第6曲 美しい異郷」の2曲のみで、ほぼ全曲を網羅しています。なお、「春の夜」については、クララが2つの編曲を残していますが、本録音ではより技巧的な版が採用されています。

 

Schumann: Lieder, Transcriptions for Piano by Clara Schumann

・演奏:Cord Garben コード・ガーベン(1943-) ドイツ
・レーベル:Arte Nova Classics
・総収録時間:58分27秒
・アマゾンでは、CD・MP3ダウンロード・ストリーミングのすべての方法で購入可能

 

 

 

 

 

►「ロベルト・シューマンの30のリートと歌」におけるクララ編曲の特質

 

クララの編曲は、当時の他の編曲家たちとは一線を画す独自のアプローチが特徴です。カール・ライネッケやテオドール・キルヒナーといった同時代の編曲家たちが華やかな編曲を好んだのに対し、クララは徹底して「原曲の音遣いの尊重」を貫いています。決してロベルト・シューマンの歌曲が持つ特徴や美しさを損なうことがありません。

 

► 録音音源の内容について

‣ 収録曲

 

1. ミルテの花 Op.25 より 第1曲 献呈
2. 5つのリートと歌 Op.127 より 第2曲 君の顔
3. 女の愛と生涯 Op.42 より 第2曲 彼は誰よりもすばらしい人
4. ミルテの花 Op.25 より 第24曲 君は花のよう
5. ミルテの花 Op.25 より 第3曲 くるみの木
6. 「ヴィルヘルム・マイスター」に基づくリートと歌 Op.98a より 第7曲 フィリーネの歌
7. リートと歌 第2集 Op.51 より 第3曲 私は旅立ったりはしない
8. リートと歌 第2集 Op.51 より 第1曲 あこがれ
9. 女の愛と生涯 Op.42 より 第5曲 私を手伝って、妹たち
10. ミルテの花 Op.25 より 第7曲 蓮の花
11. ある画家の歌の本からの6つの詩 Op.36 より 第3曲 この上なくすばらしいこと
12. 5つのリート Op.40 より 第1曲 においすみれ
13. ある画家の歌の本からの6つの詩 Op.36 より 第1曲 ラインのほとりの日曜日
14. リーダークライス Op.24 より 第9曲 ミルテとバラを持って
15. リーダークライス Op.24 より 第7曲 山や城は見下ろしている
16. リートと歌 第1集 Op.27 より 第2曲 君は赤いバラに似て
17. リーダークライス Op.39 より 第1曲 異郷にて
18. リーダークライス Op.39 より 第2曲 間奏曲
19. リーダークライス Op.39 より 第5曲 月の夜
20. リーダークライス Op.39 より 第12曲 春の夜
21. 愛の春 Op.37 より 第9曲 バラと、海と、太陽が
22. 3つの詩 Op.30 より 第1曲 不思議な角笛を持つ少年
23. 子供のための歌のアルバム Op.79 より 第23曲 もう春だ
24. ある画家の歌の本からの6つの詩 Op.36 より 第4曲 日の光に寄す
25. ある画家の歌の本からの6つの詩 Op.36 より 第2曲 セレナーデ
26. リーダークライス Op.39 より 第4曲 静けさ
27. リートと歌 第2集 Op.51 より 第2曲 民謡
28. スペインの歌 Op.74 より 第7曲 告白

 

‣ 選曲と構成の工夫

 

本録音では楽譜集の原配列を踏襲せず、調性の流れを重視した曲順が採用されています。ブックレットによれば、「各歌曲間の調和的なつながりを実現するため、主として調性を基準に並べ替えた」とあり、この工夫が各作品の魅力を一層引き立てる効果を生んでいます。

興味深いのは、「ロベルト・シューマンの30のリートと歌」におけるクララ自身の選曲の基準です。原曲としてもあまり知られていない作品が数作含まれていることから、彼女の選択が極めて個人的な動機に基づいていたとも言えます。

 

‣ 演奏の魅力:ガーベンの解釈

 

ガーベンの演奏からは、クララの編曲思想への深い共感が感じられます。彼の解釈は技巧的な華やかさを追求するのではなく、むしろ繊細なタッチと旋律の歌わせ方に重きを置いており、原曲が持つ「リート本来の性格」を大切にする姿勢が貫かれています。

ブックレットの解説によれば、ガーベンの関心は「歌曲の性格を厳密に維持すること」にあるとのことで、これには納得できます。賛否が分かれる点かもしれませんが、歌曲愛好家にとっては原曲の詩的世界観を損なわない理想的な解釈と言えるでしょう。

 

► 本録音の活用と応用学習

 

本録音は、クララ・シューマンの編曲を学ぶうえで重要な包括的な資料の一つです。ガーベンの演奏を参考にしながら、原曲の歌曲版と聴き比べることで、編曲技法への理解がより深まるでしょう。

また、リストによる華麗な編曲(献呈、春の夜 など)などと比較することで、クララのアプローチがいかにシンプルで、作品への敬意に満ちたものであったかが浮き彫りになります。彼女は夫の作品を「音楽的装飾」の対象としてではなく、その内面的な詩情を最大限に引き出すための媒体として、ピアノという楽器を用いたのです。

 

► 終わりに

 

本録音では、ガーベンの共感に満ちた演奏により、19世紀ロマン派音楽の親密で内省的な側面に触れることができます。シューマンの歌曲を愛する方、クララ・シューマンの音楽家としての側面に興味のある方、そして編曲芸術の奥深さを知りたい方におすすめできる一枚です。

 

推奨記事:【ピアノ】クララ編曲「ロベルト・シューマンの30のリートと歌」全曲:選曲・難易度 完全ガイド

 

Schumann: Lieder, Transcriptions for Piano by Clara Schumann

 

 

 

 

 

 


 

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