【30秒で分かる】初心者でもできる楽曲分析方法③ ~a tempoから読み解く楽曲の構造~
► はじめに:楽譜に隠された構造の鍵
楽譜の中に散りばめられた”a tempo”という指示。
単なるテンポ記号と思いがちなこの言葉は、実は楽曲の構造を解き明かす重要な鍵となります。
本記事では、この何気ない指示から楽曲の深い理解へと至る道筋をご紹介します。
シャーペン1本で始められる分析方法ですが、その先にある音楽的な発見は、驚くほど深いものとなるでしょう。
► 本記事の対象者と前提知識
こんな方におすすめ
・楽曲の構造をより深く理解したい方
・楽典で学習したことの実践的な活用法を探っている方
必要な前提知識
・基本的な楽譜が読める程度
► a tempoとは
まずは、基礎となる知識を確認しましょう。
多くの方がお持ちの「楽典―理論と実習」 著 : 石桁真礼生 他 / 音楽之友社 から、該当箇所を紹介します。
曲の途中で、一時変更、または、一時変化した速さを、もとの速さに直すためには、次のものが用いられる。
・ a tempo もとの速さで
・ TempoⅠ(Tempo primo) 最初の速さで
(抜粋終わり)
► 習得できるスキル
本記事で学習することで身につく能力
・音楽用語から楽曲構造を読み解く力
・楽典で学習した内容の実践的な活用法
・作曲家の意図を理解するための分析的視点
► 構成の切れ目を見抜くことの重要性
クラシック音楽において、楽曲構造はテンポ変化と密接に結びついており、
新しいセクションの始まりには、テンポの変化が伴うことも多々あります。
特にa tempoの位置は、作曲家が意図的に配置した重要な転換点となることが多いんです。
楽曲構造を理解することで、以下のような音楽的な洞察が得られます:
・フレーズ感の把握
・楽曲全体の構成理解
・作曲家の意図する音楽的な緊張と弛緩の理解
► 具体的な分析方法
‣ a tempoの直前に線を入れる
分析方法は驚くほどシンプルです。
「a tempoの直前に線を入れる」
この単純な作業が、楽曲理解の扉を開く鍵となります。実際の例で見てみましょう。
‣ 実例で解説
実際の楽曲で、a tempoの効果を見てみましょう。
シューマン「ユーゲントアルバム(子どものためのアルバム)Op.68-16 初めての悲しみ」を例に取り上げます。
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、42-52小節)
譜例部分では、以下のようなテンポ指示が見られます:
・全体のテンポ:「Nichi schnell(速くなく)」
・19小節目:「Etwas langsamer.(少し遅く)」
・21小節目のアウフタクト:「Im Tempo.」(a tempoと同義)
特に注目したいのは、Im Tempo.以降の展開です。ここでは:
・曲頭のメロディが重なり合うように現れる対位法的な書法(※複数の旋律を組み合わせる手法)が見られます
・わずか4小節という短さながら、楽曲のクライマックスとして機能します
・テンポを戻すことで、音楽的な緊張感が高まります
‣ なぜ、a tempoの直前が段落の切れ目になるのか
この現象を理解するために、「音楽」と「文章」を比較してみましょう。
文章では、「.(ピリオド)」や「,(コンマ)」を使って文の流れをコントロールします。
音楽でも同様に、「rit.」「accel.」「a tempo」などのテンポ変化に加え、
和声進行や音の使い方で「音楽の流れ」をコントロールしているんです。
つまり、多くの場合、作曲家は:
・テンポ変化の直後に、文章でいう句読点のような役割を持たせている
・それによって自然な「段落の切れ目」が生まれる
という構造を意図的に作り出しているんです。
► 実践課題
理論を実践に移すため、シューマン「ユーゲントアルバム 哀れな孤児 Op.68-6 イ短調」で分析を試みましょう。
譜例(PD作品、Sibeliusで作成、9-14小節)
分析の手順:
1. 楽譜を通読し、全体の響きの流れを把握する
2. テンポ変化、特にa tempoやTempoⅠを探す
3. それらの直前に線を入れる
4. その位置が楽曲構造上で果たす役割を考察する
【解答例】
Im Tempo.の配置に注目してください。この箇所では:
・左手の流れの途中に線が入ることになります
・メロディはアウフタクトで先行します
・左手パートは13小節目から新しいセクションとして捉えることができます
この場合、以下のいずれの線の引き方も有効です:
・a tempoの直前
・小節の変わり目
・右手パートと左手パートで異なる位置
► 困ったときは
よくある疑問と解決のヒント
Q1: テンポ変化の音楽用語は見つかるけれど、a tempoが書かれていない
・rit.などは書かれていても、a tempoが書かれていない作品というのは一定数ある
・書かれていない場合、どこからテンポを戻すのかは演奏者の解釈に委ねられている
・音楽的な文脈から、テンポを戻す位置を判断する
Q2: 分析結果の活用方法が分からない
・分析は演奏のための直接的な指示ではなく、楽曲理解を深めるための手段として捉える
・見つけた構造上の特徴を、自身の解釈へ取り入れる過程を楽しむ
・同じ作曲家の他の作品でも同様の分析を試み、その作曲家特有の手法を探ってみる
► 次回予告
次回は「役割分担を調べる」について解説します。
具体的な内容:
・ピアノ曲における役割分担とは
・役割分担の調べ方
・演奏解釈へのつながり
【おすすめ参考文献】
楽曲分析をより深く学びたい方へ:
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【シューマン ユーゲントアルバム より メロディー】徹底分析
・「楽式論」 著:石桁真礼生 音楽之友社
・「作曲の基礎技法」 著:シェーンベルク 音楽之友社
※「楽式論」「作曲の基礎技法」は、専門的な内容を含む中〜上級者向けの書籍です。
まずは本記事で紹介した基本的な方法から始めることをおすすめします。
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