【ピアノ】繰り返しパターンで読み解く楽曲分析入門
► はじめに
楽曲分析において、「繰り返し」は最も基本的かつ重要な要素の一つです。
この記事では「繰り返し」という観点から楽曲構造を理解し、より深い解釈へとつなげる方法を解説します。
► 本記事の対象者と前提知識
こんな方におすすめ
・楽曲の構造を理解したい方
・作曲者の意図を読み解きたい方
・音楽理論の知識が少なくても分析に挑戦したい方
・独学で体系的に学びたい方
► 繰り返しの基礎理論
‣ 繰り返しの重要性
楽曲分析において「繰り返し」に注目する理由:
1. 構造の把握
・楽曲の骨格を理解できる
・記憶・練習の効率が向上する
2. 作曲者の意図理解
・主要な音楽的アイデアの特定
・変奏・発展手法の理解
3. 演奏解釈への応用
・フレージングの設計
・強弱・表情の付け方の判断材料
‣ 繰り返しの分類
1. 認識のしやすさによる分類
完全な繰り返し:
・同一フレーズの直接的反復
・音高のみ変化した反復
・和声進行のみ変化した反復
変形された繰り返し:
・リズム変更を伴う反復
・装飾・拡大された反復
・モチーフの部分的引用
2. スケールによる分類
大規模な繰り返し:
・セクション単位(8小節以上)
・楽章形式における再現
・主題の回帰
小規模な繰り返し:
・モチーフ単位(1-2小節)
・リズムパターン
・伴奏型
正直、繰り返しを洗い出すだけでも、楽曲のことがかなり見えてきます。
ほとんどの楽曲は繰り返しでできていると言っても過言ではありません。
► 実例分析:モーツァルト「トルコ行進曲」
モーツァルト「ピアノソナタ第11番 K.331(トルコ行進曲付き) 第3楽章」
譜例(PD楽曲、Finaleで作成、1-8小節) 注意:この記事では、アウフタクトは1小節分に数えていません。
【小規模な繰り返しの分析】
1. リズムパターンの反復(1-2小節)
・上行する音型の連続
・同一リズムの保持
・音高の段階的上昇
2. モチーフの断片化(3小節)
・基本パターンの短縮
・2回の反復による強調
・両手とも断片化する同期による効果
3. 変形された反復(7小節)
・「繰り返しの法則」の実践例
・3回目の変形による緊張感の創出
・カデンツへの導入としての機能
【大規模な繰り返しの分析】
1. セクション単位の反復
・リピート記号による8小節の反復
・形式的な区切りの明確化
2. 主題の再現
・16小節目、64小節目、80小節目での回帰
・調性変化を伴う展開
・全体構造における機能
(再掲)
黄色ラインで示したところは「短い単位での繰り返し」です。
音域自体は上がって行きますが、明らかに同じリズムを繰り返しています。
3小節目では、それを「断片的」にして2回反復。
緑ラインのところも、「短い単位での繰り返し」です。
3回反復され、3回目(7小節目)では変形しています。
ちなみに、作曲を学ぶ基礎段階で広く教わる「繰り返しの法則」があります。
「繰り返しは3回まで、そして3回目は少し変えるべき」というもの。
もちろん例外はあるのですが、ここでは当てはまっていますね。
(再掲)
左手に関しても繰り返しばかり。(短い単位での繰り返し)
水色ラインで示したように同じ音型が続きます。
3小節目では「断片的」にして2回反復。
先ほども書きましたが、この小節は右手も断片的になっていますね。
4小節目から元に戻り、7小節目は変形しています。
この8小節間が「リピート記号」で反復されます。(長い単位での繰り返し)
また、この楽曲では、譜例で示したところが何度か再現されます。
「16小節〜、64小節〜、80小節〜」の3箇所。
つまり、これらも別の観点からみた ”回想的な” 繰り返しです。(長い単位での繰り返し)
他にも「モチーフの再利用」という観点で言えば、最初の8小節間の素材が全曲に渡って応用されています。
► 実際にやってみよう
クレメンティ「ソナチネ Op.36-1 第1楽章」を使って、繰り返しを見つける練習をしてみましょう。
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、1-8小節)
分析の視点
1. 形式的区分
・第一主題(1-4小節):主要な音楽的アイデアの提示
・経過句(5-7小節):次のセクションへの橋渡し
2. 繰り返しのレイヤー構造
【解答例】
【小規模な繰り返しの考察】
・1小節単位のパターン(1,2,5,6小節)
・トリル音型による接続(3-4小節)
・バスラインのパルス
【大規模な繰り返しの考察】
・2小節フレーズの再現(1-2小節→5-6小節)
・主題部全体の構造
【音楽的機能の考察】
・反復による主題の強調
・変形による発展
・カデンツにおける定型的処理
(再掲)
「繰り返し」という観点でみた場合、同じカラーで示したところが共通部分です。
このように眺めると、譜例のところの ”すべての音” が繰り返しという観点で説明できることになります。
・黄色
1小節単位での繰り返し。1,2,5,6小節目に登場。
・水色
2小節単位での繰り返し。1,2小節のカタマリが、5,6小節で繰り返し。
・黄緑色
同じ音型の反復。3-5小節で3回出てくる他、7小節目に拡大形で内包されていることにも注目。
・紫色
バスのパルス。「1-2小節を半分に縮小した形が3小節目」と解釈することも可能。
・赤色
トリル。黄緑色で示した素材同士を連結させるためのブリッジ的な役割。
・茶色
3度下降による同じ音型の繰り返し。「丸をつけた音」と「そうでない音」とで2声的なパッセージになっている。
・淡い青色
カデンツにおける、よくある繰り返し。それぞれ、裏拍から始まっていることに注意。
各カラーで共有している音もありますね。
ある音型の「終わりの音」であると同時に「始まりの音」でもあるということですが、
こういった音を「鎖のつなぎ目」などと呼ぶこともあります。
► 終わりに
楽曲における「繰り返し」の分析は、演奏者にとっても作曲・編曲者にとっても非常に実践的なツールとなります。
・構造を理解することで、楽譜への理解が深まる
・練習の効率が向上し、暗譜も容易になる
・作曲家の意図をより深く理解できるようになる
この記事で紹介した分析方法は、決して「演奏法」を直接的に示すものではありません。
むしろ、自身で演奏解釈を導き出すための「道具」として活用してください。
楽曲分析の入門段階は決して難しいものではありません。
まずは目の前の楽譜で、同じような音型を探してみることから始めてみましょう。
その小さな発見が、より深い音楽理解への第一歩となるはずです。
【おすすめ参考文献】
楽曲分析をより深く学びたい方へ:
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【シューマン ユーゲントアルバム より メロディー】徹底分析
※「楽式論」「作曲の基礎技法」は、専門的な内容を含む中〜上級者向けの書籍です。
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