【ピアノ】要約から始める実践的楽曲分析のワーク
► この記事で得られること
・楽曲の装飾音と核となる軸音を見分ける実践的なスキル
・具体的な楽曲例を通じた要約分析の手法の習得
・演奏解釈に活かせる楽曲構造の理解
・分析から演奏への具体的な応用方法
という記事では、要約分析という「楽曲の表層的な装飾を取り除いて核となる音楽的要素を抽出する手法」について学びました。本記事では、さらに理解を深めるための実践的な練習問題とその解答例を取り上げています。
この記事単独でも学習できるように構成しています。
► 対象者と前提知識
こんな方におすすめ:
・楽曲の構造をより深く理解したい方
・分析の基礎を学び、次のステップに進みたい方
・演奏解釈の幅を広げたい方
► 要約分析の基礎
要約分析とは
要約分析は、楽曲の表層的な装飾を取り除き、核となる音楽的要素を抽出する手法です。これは単なる簡略化ではなく、楽曲の本質を理解するための分析的アプローチです。
具体例で理解する要約分析
例えば、モーツァルトのピアノソナタでよく見られる装飾音符や装飾的な音型は、その背後に単純な骨格旋律を持っています。
要約分析の目的と効果:
1. 和声進行の把握
・装飾音を取り除くことで、基本となる和声進行が明確になる
・調性感や終止感をより強く認識できる
2. 旋律線の本質的な動きの理解
・主要な音の進行方向が見えやすくなる
・フレーズの構造が明確になる
3. 伴奏部分の音楽的意図の発見
・和声的な役割を持つ音が特定しやすくなる
・隠れた旋律線を見つけることができる
要約分析の注意点:
・装飾音の全てを取り除くのではなく、音楽的に重要な装飾は残す
・和声の機能を考慮しながら分析を進める
・リズム的な特徴が失われないよう注意する
► 実践編:ベートーヴェン「ソナチネ ヘ長調 Anh5(2) 第1楽章」を例に
‣ 課題曲について
ベートーヴェン「ソナチネ ヘ長調 Anh5(2) 第1楽章」は、要約分析の練習に適した以下の特徴を持っています:
・明確な和声進行
・典型的な装飾音型の使用
・構造的な反復
・適度な技巧的要素
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
基本的な分析の手順:
1. 小節単位での確認
・拍子とリズムパターンの把握
・装飾音と主要音の大まかな区別
2. 和声進行の特定
・各小節の基本和音の確認
・転回形や経過音の識別
3. 旋律線の抽出
・主要な音の特定
・装飾音の除外
4. 要約譜の作成
・核となる音の書き出し
・リズム的特徴の保持
‣ 実践例:トリル部分の分析
譜例(15-16小節)
分析のポイント:
1. 書き譜にされたトリルの扱い
・拍頭の音の確認
・和声音との関係性(15小節目のCis音、および、16小節目のA音は非和声音)
2. 要約の手順
・和声進行の確認(V7→I)
・主要音の抽出
・リズムパターンの簡略化
ここではトリルを書き譜にした書法がとられていることに着目してください。
以下のような和声になっています:
・15小節目:C-durのⅤ7の第3転回形
・16小節目:C-durのⅠの第1転回形
つまり、15小節目のCis音や16小節目のA音は非和声音であり、上掲右側の譜例のように要約が可能。
以下のように要約してもいいでしょう。
必ずしも和声知識を持っている必要はなく、はじめのうちは、ピアノで音を出しながらトリルのどちらの音が和声音なのかを感覚的に判断するのでも構いません。
‣ ワーク①:装飾音の分析(難易度★☆☆)
以下の断片を要約してみましょう。
譜例(21-22小節)
分析の着眼点:
1. リズムパターンの特徴
・16分音符の役割
・長い音価(8分音符)の音の重要性
2. 装飾音の識別方法
・和声的な重要度
・前後の音との関係
初心者のためのヒント:
・この部分を演奏するとしたら、どの音を軽く弾くべきか?
・その音は装飾的な音なので、軸音ではない可能性が高い
解答例:
譜例(21-22小節)
21-22小節は、半音のアプローチがあるだけで、軸の音は要約例で示した音です。
ちなみに、この半音のアプローチは新出素材ではありません。9-10小節や11-12小節にすでに出てきている関連素材です。
‣ ワーク②:同型反復の分析(難易度★★☆)
以下の譜例のうち、34-38小節の部分のみ要約してみましょう。
譜例(27-39小節)
分析の着眼点:
1. 同型反復の特徴
・パターンの認識
・変化要素の特定
2. 隠れた旋律線
・小節間のつながり
・順次進行の発見
28-29小節のカギマークで示した素材が、その後に発展され、34-38小節の部分では連続的に出てきています。このような同型反復の部分というのは、大抵軸音が隠れていると疑ってください。
ワーク①とは異なり、34-38小節には16分音符が出てこないので、別の点に着眼しなくてはいけません。
解答例:
譜例(34-38小節)
要約例をピアノで弾いてみてください。これだけでも音楽は成立していることが分かるはずです。そのうえで原曲と弾き比べると、装飾されたことによる味を感じることができるでしょう。
要約分析では、このように弾くことによる比較まですることで、より高い学習効果を期待できます。
► 終わりに:学習のヒント
よくある誤り:
・和声的に重要な音を見落としている
・リズムの特徴を見落としている
・フレーズのつながりを考慮していない
発展的な練習方法:
1. 複数の要約レベルの作成
・最小限の要約
・中間的な要約
・詳細な要約
2. 様々な楽曲での実践
・異なる時代の作品
・異なるジャンルの作品
・異なる形式の作品
関連内容として、以下の記事も参考にしてください:
・【ピアノ】脇役のパートの隠れメロディを見つける分析方法
・【ピアノ】楽譜の奥に隠れた重要な軸音を見抜く
【おすすめ参考文献】
本記事で扱った、ベートーヴェン「ソナチネ Anh5(2) ヘ長調 第1楽章」について学びを深めたい方へ
・大人のための独学用Kindleピアノ教室 【ベートーヴェン ソナチネ ヘ長調 Anh5(2) 第1楽章】徹底分析
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