【ピアノ】ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」レビュー

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【ピアノ】ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」レビュー

► はじめに

 

本記事で紹介するのは、「左手のためのピアノ音楽」というジャンルを凝縮したアルバム、ステファン・ヴァルズィッキ(Stefan Warzycki)による「Piano Music for the Left Hand」です。J.S.バッハに始まりJ.S.バッハに終わる構成の中に、近現代の左手作品を織り込んだ興味深いプログラムとなっています。

 

演奏:ステファン・ヴァルズィッキ(Stefan Warzycki)
リリース年:2015年
レーベル:Nimbus Alliance(輸入盤)
総収録時間:78分52秒
録音:2014年4月6日〜8日、ポットン・ホール(Potton Hall, Dunwich, Suffolk)

 

Stefan Warzycki: Piano Music for the Left Hand

 

► 演奏者 ステファン・ヴァルズィッキについて

 

ステファン・ヴァルズィッキは東京生まれ、アメリカ育ちのピアニストで、サンフランシスコ音楽院を卒業後、ロンドンに拠点を移して活動しています。師事した相手にはアルフレッド・ブレンデルやレオン・フライシャーといった名前も並び、ウィグモアホールやサウスバンクセンターをはじめとする英国内の主要な会場、さらにはエジンバラ・フェスティバルなどでも演奏を重ねてきました。ヨーロッパ各地や南米、日本、香港など、活動の幅も国際的です。

彼が左手の作品に取り組むようになった背景には、右手にフォーカル・ジストニアを発症したという経緯があります。当初は大きな衝撃を受けたそうですが、そこから左手演奏で再出発を果たしました。以降は既存の左手作品を演奏するだけでなく、現代の作曲家に新作を委嘱したり、自らクラシックの名曲を左手用に編曲したりと、レパートリーを積極的に広げています。

 

► 収録内容の詳細

‣ 収録曲一覧

 

No. 作曲家 / 作品 タイム
1 J.S.バッハ(ヴァルズィッキ編):半音階的幻想曲 ニ短調 BWV903 8:54
サン=サーンス:左手のための6つの練習曲 Op.135
2 I. 前奏曲 2:10
3 II. フーガのように 2:10
4 III. 無窮動 1:51
5 IV. ブーレ 3:41
6 V. エレジー 5:18
7 VI. ジーグ 2:02
フランク・ブリッジ:左手のための3つのインプロヴィゼーション
8 I. 夜明けに 3:54
9 II. 通夜 1:59
10 III. 歓楽 2:03
リパッティ:左手のためのソナチネ
11 I. アレグロ 2:21
12 II. アンダンテ・エスプレッシーヴォ 3:41
13 III. アレグロ 3:02
14 フランツ・シュミット:左手のためのトッカータ ニ短調 6:42
スクリャービン:左手のための2つの小品 Op.9
15 I. プレリュード 2:20
16 II. ノクターン 5:00
17 T・K・マーレイ:ポストリュード(スクリャービンによる)(2011) 7:35
18 J.S.バッハ(ブラームス編):ピアノのための5つの練習曲 より J.S.バッハのシャコンヌ 14:09

 

‣ アルバムの特徴

 

このアルバムを聴いて最初に気づくのは、冒頭と最後にJ.S.バッハの作品を置き、その間に近現代の左手作品を配した構成の妙です。冒頭はヴァルズィッキ自身の編曲による「半音階的幻想曲」、締めくくりはブラームス編の「シャコンヌ」という形で、いずれもJ.S.バッハに立ち返る形でプログラムが組まれています。その中に配置されたサン=サーンス、ブリッジ、リパッティ、フランツ・シュミット、スクリャービンといった作品は、全体として軽やかで聴きやすい性格のものが多く統一感のある一枚に仕上がっています。

特筆すべきは、フランツ・シュミット「左手のためのトッカータ」が収録されている点でしょう。1938年に作曲され、パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈されたこの無窮動の作品は、技術的な難度が高いこともあってか、左手作品としては録音数が比較的少ない作品です。こうした珍しい選曲に出会えるのは大きな魅力と言えます。

また、T・K・マーレイの「Postlude (after Scriabin)」がスクリャービンのOp.9の直後に配置されている点からも、プログラム構成の巧みさを感じました。この曲自体は無調で書かれていますが、リズムなどにひねりを加えつつ、スクリャービンのOp.9を素材としていることが随所から感じられます。前の曲との連続性を意識した並びになっていることが分かります。

 

‣ 演奏の印象

 

スクリャービンの2曲は、いずれもかなりあっさりとした表現で演奏されています。このアルバムはJ.S.バッハで始まりJ.S.バッハで終わる構成ですが、それ以外の部分は総じて軽いタッチの作品が中心に据えられており、例外的に情感の強いスクリャービンの2曲についても、あえて抑制的にまとめられた解釈が、アルバム全体のトーンと自然に調和しているように感じられました。

一方、最後を飾るシャコンヌについては、ブラームス編と表記されていますが、実際にはヴァルズィッキ自身が部分的に手を加えています。例えば終盤では、音の厚みを増し、堂々とした締めくくりを印象づける工夫が見られます。演奏者独自のアレンジが加わることで、アルバムの終曲を飾るにふさわしいスケール感が生み出されていました。

 

► 終わりに

 

左手作品の代表作から比較的珍しいレパートリー、さらには現代作品までを俯瞰できるアルバムとして、ジャンル全体の魅力を知るうえでも充実した内容です。入門用としてはもちろん、すでに左手作品に親しんでいる方のコレクションとしてもおすすめできる一枚です。

 

Stefan Warzycki: Piano Music for the Left Hand

 

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