【ピアノ】アンドレ・ギャニオン「明日」解説：難易度・楽譜・演奏のコツ
► はじめに
カナダの作曲家アンドレ・ギャニオン（André Gagnon、1936-2020）の代表作の一曲「明日（Demain / Tomorrow）」は、優しく心に響く旋律で多くのピアノ学習者に愛されている作品です。テレビドラマ「優しい時間」の劇中でも使用され、日本でも広く親しまれています。
本記事では、曲の背景から演奏難易度、具体的な練習のコツまで詳しく解説します。
► 作曲者 アンドレ・ギャニオンについて
アンドレ・ギャニオンは1936年、カナダ・ケベック州北部のサンパコムで19人兄弟の末っ子として生まれました。4歳でピアノを始め、6歳で作曲を開始し、10歳でコンサートデビューを果たしました。
ヒーリング音楽やイージーリスニングの分野で国際的な評価を得て、特に親日家として知られ、日本でも多くのファンに愛されました。2020年12月3日、84歳でこの世を去りましたが、彼の作品は今も多くの人々の心を癒し続けています。
► 作品内容について
‣ 作品の魅力
「明日」は「めぐり逢い」と並ぶギャニオンの代表作です。アルペジオを基調とした伴奏が美しい旋律を優しく包み込みます。
G-dur（ト長調）で書かれたこの曲は、ピアニストでもあった作曲者ならではの「手になじむ自然な書法」が特徴です。クラシック音楽に親しんだ演奏者にとっても、音楽の流れが自然で弾きやすく感じられるでしょう。テレビドラマでの使用により一層知名度が高まり、多くの発表会やコンサートで演奏される人気曲となっています。
‣ 演奏難易度
難易度レベル：全音ピアノピースでいうとAに近いBランク程度
この曲は、ブルグミュラー25の練習曲の中盤程度をスムーズに弾けるようになった方であれば、十分に挑戦できる難易度です。演奏時間は約4分30秒と長めですが、基本的なメロディや伴奏パターンが繰り返されていくので、比較的すんなりと譜読みを進めていけるでしょう。
演奏しやすいポイント：
・譜読みしやすい調性：ト長調は♯が1つだけで、初中級者にも親しみやすい調
・ゆったりとしたテンポ：急速なパッセージがなく（16分音符が出てくる程度）、落ち着いて演奏できる
・自然な手の動き：ピアニストである作曲者が書いているため、手の動きが考慮された無理のない書法
・パターン化された伴奏：左手のアルペジオは基本的なパターンの繰り返しが多く、慣れれば安定して弾ける
注意が必要なポイント：
・左手の音域：やや広い跳躍がありますが、パターン化されているため練習で克服可能
・16分音符のテンポキープ：伴奏が細かくなる箇所でテンポが変わらないように注意が必要
・右手の声部：右手の中だけでも、メロディと内声を弾き分ける箇所がある
► 演奏のコツと練習ポイント
アルペジオの折り返し地点で親指が弾く音に注意
左手の音域が広めに渡るアルペジオは、この曲の雰囲気を決定づける重要な要素です。特にアルペジオの折り返し地点で親指が弾く音は、無意識に強くなりがちです。急にコブができないよう、親指の音を控えめに弾く練習をしましょう。
まず左手だけをゆっくり練習し、各音がバランス良く鳴っているか耳で確認します。バス音は深めの音で弾いて構いません。録音して聴いてみるのも効果的です。
テンポの安定を保つ
伴奏部分が16分音符になる箇所では、焦ってテンポが変わってしまいがちです。体内のカウントを意識して、一定に保てるよう練習しましょう。「テンポは変わらずに音価の細かさは変わる」ことに美しさがあります。
メロディの長いフレーズ感を大切に
メロディのすべてが断片的にならないよう、カタマリを一息で歌うイメージで演奏しましょう。例えば、1-4小節は一息で歌い、2小節2拍目などの細分化できる区切りで意識が切れないようにすることが重要です。実際に声に出して歌ってみると、自然なフレージングが見えてきます。
3:2のクロスリズムをマスターする
曲中、数回出てくる3:2のクロスリズム（左手が2音の間に右手が3音）は、初めて出会う方には難しく感じられるかもしれません。
まずは、片手ずつ何の問題もなく弾けるようにしておくのが出発点です。後は、3:2の分割を理解したうえで、両手でゆっくり合わせましょう。分割については、【ピアノ】クロスリズムの理解と実践：3:2 5:2 7:2のリズムを習得する という記事で解説しています。
右手の声部を弾き分ける
右手の中で、メロディラインと内声（伴奏音）を同時に弾く箇所が多く出てきます。メロディが埋もれてしまわないよう、上声を意識的に響かせる練習をしましょう。このような多声の弾き分けでは、練習時にきちんと意識を持っているかどうかが大きなポイントです。
原曲を聴いてイメージをつかむ
広く出回っているストリングスやハーモニカが加えられたアンサンブルバージョンを聴くことで、曲が持つ素朴で温かい雰囲気をより深く理解できます。「どんな音を弾くか」ではなく「どんな音色で弾くか」を考えるヒントがもらえます。
► おすすめの楽譜
市販のピアノソロ楽譜は採譜によるものですが、「ぷりんと楽譜」で販売されているもののうち、以下の版が原曲に近い形で編集されており、多くの演奏者に選ばれています。譜面も見やすいので、楽譜選びに迷ったら、まずこの版を試してみることをおすすめします。
► 終わりに
アンドレ・ギャニオンの「明日」は、広めの音域にわたるアルペジオ、フレーズの歌い方、声部の弾き分けなど、いくつかの課題はありますが、楽しみながら演奏するのにぴったりな小品です。原曲も参考にしながら取り組んでみて下さい。
推奨記事：【ピアノ】アンドレ・ギャニオン「めぐり逢い」難易度と弾き方解説
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