【ピアノ】スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」演奏完全ガイド

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【ピアノ】スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」演奏完全ガイド

► はじめに

 

楽曲について

曲名 作曲年 演奏時間 特徴
プレリュード Op.9-1 1894年 約3分半 両手作品とあわせてレパートリーとして定着
ノクターン Op.9-2 1894年 約6分 静寂さと劇的さを併せ持つ、カデンツァを含む充実作

 

演奏難易度と推奨レベル

この楽曲は「ツェルニー30番中盤程度」から挑戦できます。

 

本記事の使い方

この楽曲を、演奏のポイントとともに解説していきます。パブリックドメインの楽曲なので譜例も作成して掲載していますが、最小限なので、ご自身の楽譜を用意して読み進めてください。

各セクションごとに具体的な音楽的解釈を示していますので、練習の際に該当箇所を参照しながら進めることをおすすめします。

 

► 演奏のヒント

‣ 左手演奏の基本姿勢

 

左手のみでピアノを弾く際には、通常の演奏とは異なる座り方が重要になります。

 

図(Sibeliusで作成)

左手のみでピアノを弾く際の、椅子の位置や身体の姿勢を示した図。

 

より詳しい解説は以下の記事をご覧ください。

【ピアノ】左手のみで演奏するピアノ曲:魅力と実践の入門ガイド

 

‣ 左手のための2つの小品 第1番 プレリュード Op.9-1

· 全体構成

 

楽曲は以下のセクションで構成されています:

・1-8小節:主題提示
・9-12小節:展開
・13-17小節:クライマックス(楽曲の最大の山場)
・18小節目:ブリッジ
・19-26小節:主題の回想的再現(*pp*でのエコー)
・27-30小節:終結部への移行
・31-34小節:エンディング

全体として「2小節単位の音楽」になっている点も重要です。

 

· 曲頭(1-2小節)の演奏

 

譜例(PD作品、Sibeliusで作成、1-3小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-1」の曲頭の楽譜。

弾き始めについて:

・打鍵をカツンと入れず、丸い音でスタート
・最初の8分休符はやや長めに、「ショートフェルマータ」のイメージで

内声の和音連打:

・同音連打で「パララ」とアルペッジョのようにずれてしまう失敗
・改善策:一度鍵盤を底まで打鍵してステイし、そのときの手の感触と形を覚えておく

フレージングの方向性:

・1小節3拍目表:運指「54」で和音つかむことで、メロディを指でレガートにできる
・1-2小節で一番重みが入るのは、2小節目の頭
・2小節目の頭に向かって少し膨らませる
・2小節2拍目のメロディGis音は「フレーズ終わり」なのでおさめる

重要な考え方:

・「楽譜に書かれていないから強弱をつけない」という考えは誤り
・譜面は煩雑さを避けるため、フレーズから理解できる内容はあえて書かれないことが多い
・すべてが1拍子の集合になってしまわないよう、フレージングの方向性を読み取る

2小節目のポイント:

・32分音符はごく短い音なので、大きく飛び出さないように
・2小節目の下段は「チェロ」のイメージでカンタービレに
・左手のみで複数の声部をコントロールするには「1声部のみを取り出して弾く練習」が効果的
・その際、必ず全声部を弾くときの指遣いで練習すること

 

· 5-8小節の演奏

 

譜例(5-8小節)

スクリャービン作曲「左手のための2つの小品 第1番 プレリュード Op.9-1」の5小節目から8小節目の楽譜。

フレージングの大きな流れ:

・5小節2拍目に向かって膨らませる
・そのエネルギーを6小節1拍目裏でおさめる
・6小節2拍目裏から8小節2拍目まで一息で弾く(大きなフレーズで)

「森を見て木も見る」意識が重要で、細かなニュアンスは作りながらも、音楽自体は大きなフレーズで捉えます。

 

7小節3拍目:

・1-8小節の中での小さなクライマックス
・最大のクライマックスは後に控えているため、やり過ぎは禁物
・この単位でのヤマは意識する

 

手の届きにくい音程について

5小節2拍目、7小節1拍目・3拍目(星マーク箇所)では:

・手が届いてもあえてアルペッジョにするのはアリ
・そうすることで「トップノートのメロディをしっかり聴かせる」ことができる
・無理に和音を同時に鳴らして大事な音が埋もれるのは避ける

 

· 8-16小節の演奏

 

ずっとGis音が保続されます。この演出意図を活かすため、バス音をバランスよく響かせられるように注意しましょう。一回のみ鳴り損なったりすると、非音楽的です。

8小節目の終わり:

・2拍目はおさめる(フレーズ終わり)
・2拍目裏からのGis音は「括弧付きデクレッシェンド」を補足したように、音像が遠ざかるイメージ
・鍵盤のすぐ近くから押し込むように打鍵すると、立ち上がり過ぎない弱音が出せる

 

· 13小節目からの演奏

 

ダイナミクスの扱い:

・13小節で f になり、13-16小節が楽曲最大の山場
・10小節からの cresc. を早くかけ過ぎると音楽の方向性が見えにくくなる
・クライマックスを活かすため、段階的に盛り上げる

大きいダイナミクスによるバス音の扱い:

・打鍵したらすぐに力を解放する
・音に動きがつく
・手への負担が軽減される

左手作品特有の注意点:

・常に手を使っている状態なので、力配分に注意しないと手を傷める可能性がある
・この機会に脱力についても見直す

13小節目からのアゴーギク:

・2拍目裏からの音は後ろのフレーズに属する
・丸印の音にややとどまり、それ以降を後ろにつける

 

· 19小節目からの演奏

 

譜例(16-19小節)

スクリャービン 左手のための2つの小品 第1番 プレリュード Op.9-1 16-19小節の楽譜

18小節目の準備:

・付点2分音符でダンパーペダルを踏み替えて無伴奏表現(ソロ)に
・この小節でソフトペダルを踏み込んでおく(19小節目からは pp の距離感のある表現であるため)
・ダンパーペダルと同時に踏むと足元が不安定になり失敗するため、少し早めに踏み込むのがコツ

23小節目からはソフトペダルを離します。

 

· 27-30小節の終結部への移行の演奏

 

譜例(27-29小節)

スクリャービン 左手のための2つの小品 第1番 プレリュード Op.9-1 28-30小節 アルペジオ部分の楽譜

27小節目

3拍目のメロディはフレーズの音程から察してカンタービレにたっぷりと。

適切なアゴーギクの作り方:

・要所をカンタービレでたっぷり歌う
・時間の使い方を考える
・フレーズを明確にするための音の扱いを考える
・そうすると、勝手にアゴーギクが生まれている

 

28小節目の運指:

・2拍目下段のFis音を「5の指」でとることで、次への準備が容易になる
・こういった細かな配慮がフレージングを滑らかにする

 

30小節目:

・1拍目のメロディは「フレーズ終わり」なのでおさめる
・下段はバス音のみをやや深く打鍵し、それ以外は柔らかく
・立体的に音楽を作る

 

· 31-34小節のエンディングの演奏

 

全体的な注意点:

・低音が動くため、それに気をとられてメロディが埋もれないように
・あくまでも主役はシンプルなメロディ

 

31-32小節のペダリング

低音の動きを濁らせずにメロディを残すには工夫が必要です:

・3拍目はペダルなしで弾いてOK
・ただし、自分の中ではメロディが伸びている前提で響きをイメージし続ける
・2拍目は濁りを軽減するため、段々ペダルを上げていく

 

33-34小節の替え指:

・33小節目の最後のFis音では、「2-1」の替え指をする
・メロディラインを指でレガートにつなげるため
・ペダルはレガートの補助でしかなく、運指を見直すだけで明らかにレガートに聴こえるようになる

 

‣ 左手のための2つの小品 第2番 ノクターン Op.9-2

· 曲頭(1-2小節)の演奏

 

譜例(1-3小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-2」の曲頭の楽譜。

跳躍の処理

・左手のみの演奏では「跳躍に使う時間」が課題になる

最初のメロディAs音:

・手を左側に動かす動作の中で打鍵する
・「打鍵」と「手の移動」を同時に行える
・真上からカツンと打鍵するより音色も柔らかくなる

16分休符の扱い:

・1小節目のはじめの16分休符は「やや長め」にとって構わない
・音楽が止まってしまうほど時間をかけてはいけない
・優れた作曲家は、やや時間をかけても不自然にならない箇所で手の跳躍を作っている

声部のコントロール

・1小節目のメロディG音の箇所では、メロディと内声が長2度で同時発音されるため、伴奏を控えめに

2小節目のニュアンス:

・メロディF音に小さなヤマを作る
・メロディDes音でおさめる
・Des音は大きく飛び出しがちなので注意

 

· 3-4小節の演奏

 

譜例(3-8小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-2 ノクターン」3-8小節の楽譜。

3小節目の10度和音

・手が届いても、トップノートのメロディをしっかり聴かせるため、あえてアルペッジョにするのはアリ

4小節目のペダリングの工夫

・最後のF音から下段にメロディが移るため、このF音でペダルが上がり切るように

 

· 5-8小節の演奏

 

(再掲)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-2 ノクターン」3-8小節の楽譜。

5-6小節の構造:

・下段の上声が主役のメロディ
・上段の16分音符は「合いの手」の役割
・上段は大きくなり過ぎないよう注意
・グリーン音符で示したように、下段のメインメロディをエコーしている

メインメロディの意識:

・「Es-Des-C-B」は順次進行で下りてくるライン
・アクセントの書かれている位置より、レッド音符とブルー音符で示した2つのフレーズだと分かる
・毎回音楽を分断してしまい、4つのフレーズにならないように注意する

7小節目の最初の低音:

・決して叩かないように
・鍵盤のすぐ近くから打鍵することで響きがまとまった音が出る
・縦に打鍵せず、斜め左下へ向かって打鍵し、手を高音域のほうへ飛ばす

フレージングの見極め:

・7小節目最後のメロディC音は後ろのフレーズに属する
・8小節目最後のAs音は次の小節からのフレーズに属する

7-8小節の移り変わりでメロディC音が連打される箇所:

・1つ目のC音:アップの動作
・2つ目のC音:ダウンの動作(より重みを入れる)

8小節目の注意点

・下段の親指で弾くEs音は、手の跳躍につられて飛び出しがちなので注意する

 

· 11-12小節の演奏

 

11小節目の下段オクターブ:

・初めから大きく弾くと音のカタマリになってしまう
・抑えたダイナミクスから始める
・次の小節に向かって膨らませる
・12小節フェルマータ直前は少しテンポを広げてもOK

アゴーギクとの関連性

・ある箇所のアゴーギクは直前の表現とも密接に関わっている

 

· 16-19小節の演奏

 

譜例(16-19小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-2 ノクターン」16-19小節の楽譜。

アゴーギク:

・点線までノンストップで一気に弾き切る
・18小節目の途中で、跳躍に釣られ、変なところでゆっくりしない

下段16分音符をクリアする鍵:

・カタマリを意識して手のポジションを準備する
・譜例へ書き込んだ運指を参考に
・どこで5の指を使うかが重要

18小節目の最後のレッド音符Es音:

・フェルマータは付いていない
・16小節目の最後のEs音と区別して理解する

 

· 22-23小節の演奏

 

譜例(22-23小節)

スクリャービン作曲「左手のための2つの小品 第2番 ノクターン Op.9-2」の22小節目から23小節目の楽譜。

22小節目のアルペッジョ活用

ここでは、和音を一度につかめる場合でも、原曲にないアルペッジョの追加をおすすめします。そうすることで:

・親指を軸にして手を右側に飛ばす勢いがつく
・技術的に大きく助けになる

 

23小節目の装飾音符

・親指を軸にして手を右側に飛ばす意識を持つだけで、演奏難易度が大幅に下がる

 

テンポの扱い:

・22-23小節の移り変わりでは多少テンポを広げても構わない
・23小節目(楽曲最大の山場)をしっかり鳴らす

 

· 25-27小節の演奏

 

p になる箇所でガラッと色を変える:

p 直前まで ff のエネルギーを落とさない
p 直前で少し時間をとり、音楽を変える
・Fes音の音色を作る

カデンツァの演奏:

・leggiero でサラリと弾き抜けるイメージ
・途中でつまずいても出てこれるよう、任意の3箇所から弾き始められるように練習しておく
・暗譜対策:万が一分からなくなっても、3箇所のどこかから素早く弾き始める

 

· 44小節目からの演奏

 

声部のコントロール

メロディよりも高い音域に伴奏が移動する箇所が増えるため、より一層シビアなコントロールが必要:

・伴奏は p
・メロディラインは mp から mf
・はっきりと差をつける

練習方法:

・まずはメロディラインを大げさ目に表現する練習をする
・このほうが音楽の方向性をつかめる

 

· 51-54小節の演奏

 

51-53小節の演奏

小音符の中に混じった普通の大きさの音符が、パッセージの幹になる音:

・普通の大きさの音符の入りをやや強調
・それ以外の小音符は leggiero で
・幹の音にやや長めにとどまる

 

54小節目の ad libitum

基本的には自由ですが、ダイナミクス指示に沿った方向性を:

mf から f まで:止まらず前のめりで
・ppp:別のフレーズとしてガラリと音楽を変える

 

最後の3小節:

・ダンパーペダルを踏みっぱなしでOK
・直前の ppp から曲の終わりまでソフトペダル使用
・遠い音像のイメージで静かに曲を終わらせる

ソフトペダルの使用法:

・音色を変えるペダルなので、使いどころは限定すべき
・人間の耳には慣れがあるため、ソフトペダルのサウンドに慣れてしまったら効果がない

 

► 終わりに

 

左手のみでの演奏は、両手演奏とは異なる技術と音楽的配慮が必要です。跳躍の処理、声部のバランス、体力配分など、様々な課題がありますが、一つ一つ丁寧に取り組むことで、豊かな音楽表現が可能になります。

 

推奨記事:

【ピアノ】ピーター・コラッジオのセミナー(2005年)から学ぶ表現技法
(「プレリュード Op.9-1」が教材)

 


 

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