【ピアノ】ドキュメンタリー映画「グレン・グールド ロシアの旅」レビュー
► はじめに
2002年に公開されたドキュメンタリー映画「グレン・グールド ロシアの旅(Glenn Gould: The Russian Journey)」は、1957年5月、24歳のグレン・グールドがソ連を訪問した際の記録を軸に構成された作品です。冷戦期の音楽外交を記録した貴重なドキュメントです。
・公開年:2002年(カナダ)
・監督:ヨシフ・フェイギンベルク
・ピアノ関連度:★★★★★
► 内容について
‣ グールドを通して見る東西冷戦の時代
この映画の最大の特徴は、グールド本人の出番が意外と少なく、彼を軸にした当時の政治・歴史ドキュメントとしての側面が強いことです。西側から初めてソ連に招かれたコンサートピアニストとしてのグールドの訪問は、ただの音楽イベントではなく、「冷戦の緩和」という歴史的文脈の中で捉えられています。実際、グールドは旅行後のインタビューで、冷戦の緩和について「私がやりたい」と笑いながら語っているのです。
‣ 衝撃的なデビューコンサートの真実
1957年5月7日、モスクワ音楽院での最初の演奏会は、開演時にはガラガラだったというエピソードが語られます。しかし、グールドの演奏を耳にした聴衆が、その凄さに衝撃を受け、途中で知人を呼びに行ったというエピソードは、彼の演奏がいかに革新的だったかを物語っています。
‣ 貴重な証言と映像の宝庫
この作品の価値は、アシュケナージ、ゴルノスタエヴァといった地域性に関連する著名な音楽家たちの証言が収録されている点にもあると言っていいでしょう。実際にグールドの演奏を聴いた人々へのインタビューは、当時のソ連音楽界に与えた衝撃の大きさを生々しく伝えています。
グールドが無調音楽について講義や演奏を行った際の、新ウィーン楽派の音楽に対する政府の干渉についても触れられており、芸術と政治の緊張関係が浮き彫りになっています。
‣ 映像構成の妙
1957年当時やその時代周辺の他映像と、2002年の公開時に撮影された証言者たちの映像が組み合わされ、時間を超えたドキュメントとなっています。
また、訪問後のグールドのインタビュー映像から、プロコフィエフ(ロシアの作曲家)の「ピアノソナタ 第7番 戦争ソナタ Op.83 第1楽章」の演奏場面への接続なども、編集の工夫が光ります。
‣ 収録内容の充実度
57分という比較的コンパクトな収録時間ながら、J.S.バッハから、ベルク、ウェーベルン、クルシェネク、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチといった20世紀の作品まで、グールドの幅広いレパートリーが収められています。日本語字幕も付いているため、内容を十分に理解できることでしょう。
► 終わりに
この作品は、グールドのファンだけでなく、冷戦期の文化史に興味がある方にもおすすめできる作品です。グールド本人の出番は少なめですが、彼の音楽が持つ政治的・文化的意味を深く考えさせられる、知的刺激に満ちたドキュメンタリーとなっています。鉄のカーテンの向こう側で起きた「音楽的事件」の全貌を知ることができる、貴重な歴史的記録と言えるでしょう。
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