【ピアノ】録音音源「Clara Schumann and her Family」レビュー:クララとその音楽一族の知られざる世界

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【ピアノ】録音音源「Clara Schumann and her Family」レビュー:クララとその音楽一族の知られざる世界

► はじめに

 

Clara Schumann and her Family

・演奏:イラ・マリア・ヴィトシンスキ(Ira Maria Witoschynskyi)
・レーベル:MDG
・総収録時間:61分04秒
・入手方法:Amazon(CD / MP3ダウンロード / ストリーミング対応)

 

 

 

 

 

 

 

► 内容について

‣ このアルバムの価値

 

世界初録音を含む貴重な選曲

本アルバムの収録曲の多くが世界初録音である点は注目すべきです。クララ・シューマンとその家族の音楽的遺産を、これまでにない角度から照らし出す画期的な企画となっています。

 

レア音源愛好家必聴:「美しい異郷」の編曲版

特に注目すべきは、トラック3のロベルト作曲・クララ編曲による「リーダークライス Op.39 より 第6曲 美しい異郷」です。クララがロベルトの歌曲をピアノ独奏用に編曲した「ロベルト・シューマンの30のリートと歌」の全集的録音として知られる、コード・ガーベン演奏盤「Schumann: Lieder, Transcriptions for Piano by Clara Schumann」にも収録されていなかった2曲のうちの1曲がここで聴けるのです。これだけでも入手する価値があると言えるでしょう。

 

‣ 収録内容の構成

 

ロベルト・シューマン作品群(トラック1-6)

オリジナル作品とクララ編曲版が配置されています:

・「Wunsch(願い)」で幕を開け
・「リーダークライス Op.39」からクララ編曲の3曲(月の夜、美しい異郷、春の夜)
・「アルバムの綴り Op.124 より 第16曲」
・「ペダル・フリューゲルのための練習曲 Op.56 より 第4曲(クララ編曲版)」

クララの編曲は、夫の歌曲の詩的な世界観をピアノという楽器で再構築する試みであり、彼女のピアニストとしての深い理解と創作技法が結晶化されています。

 

クララ・シューマン自作品+ブラームス作品のクララ編曲(トラック7-11)

・リスト編曲による「Ich hab’ in deinem Auge Op.13-5」:クララの歌曲をリストがピアノ用に編曲したもの
・「4つの束の間の小品 Op.15」より第1曲・第4曲:クララの作曲家としての繊細な感性が光る小品
・「ロマンス・ロ短調」:情感豊かな作品
・ブラームス「セレナード op.11 より メヌエット1・2」のクララ編曲版:ブラームスとの音楽的交流を物語る編曲

 

ヴォルデマール・バルギール作品群(トラック12-17)

アルバム後半は、クララの異父兄弟であるヴォルデマール・バルギールの作品に充てられています:

・性格的小品集 Op.1 より 第2曲
・6つのバガテル Op.4 より 第2曲・第1曲
・3つの幻想的小曲 Op.9 より 第1曲・第2曲・第3曲

バルギールは長年忘れられていた作曲家です。ケルン音楽院教授、ロッテルダム音楽協会指揮者を歴任し、最終的にはベルリン音楽アカデミー教授として名声を確立しました。

 

‣ 演奏の特徴:イラ・マリア・ヴィトシンスキの解釈

 

ヴィトシンスキの演奏は、比較的明るく明快な音色が特徴です。特にコード・ガーベン盤と共通する「月の夜」「春の夜」を比較すると、その違いが表れます。

内向的なサウンドよりも、潔さや作品の線の美しさを前面に出す演奏スタイルで、これらの編曲作品や小品の魅力をある一面から引き出しています。

 

► 歴史的・文化的意義

 

「女性の居場所は家庭である」への挑戦

このアルバムは、1996年頃(クララ没後100年)の制作と推定されますが、そのコンセプトは今なお重要です。19世紀において、女性が作曲家・演奏家として活動することには大きな社会的制約がありました。クララは「ロベルトのより良き妻」という役割を超えてヨーロッパ楽壇に君臨した偉大なピアニストでした。

夫の自殺未遂後の苦悩、ブラームスとの親密な文通と複雑な関係、8人の子供を育てながらの演奏活動継続——クララの人生は、芸術家としての情熱と家族への責任の間での壮絶な葛藤の歴史でもありました。

 

女性作曲家再評価の文脈

クララが特に作曲家として正当な評価を受け始めたのは、20世紀後半以降の女性音楽家研究の高まりによってです。このアルバムは、そうした歴史的再評価の重要な記録の一つと言えます。

 

► こんな方におすすめ

 

・シューマン作品の編曲版に興味がある方:クララによる歌曲のピアノ編曲は、原曲とは異なる魅力を持っている
・クララ・シューマンに関心のある方:レア音源が多く、コレクション価値が高い
・19世紀ドイツ・ロマン派音楽の探求者:主流から外れた作曲家の作品に触れられる
・女性作曲家の歴史に関心のある方:音楽史における女性の貢献を再認識できる内容
・バルギール作品の発見を望む方:ほとんど演奏されない作曲家の魅力的な小品群

 

► 終わりに

 

「Clara Schumann and her Family」は、音楽史の欠落を埋める重要なドキュメントです。クララ・シューマンという一人の女性芸術家を中心に、夫ロベルト、友人ブラームス、異父弟バルギールという音楽的ネットワークを描き出し、19世紀ドイツ音楽文化の豊かさを伝えています。

世界初録音が多く含まれる貴重な選曲、ヴィトシンスキの明快な演奏、そして何より、これまで見過ごされてきた音楽的遺産への光の当て方——このアルバムは、クラシック音楽好きの棚に必ず一枚加えるべき価値ある録音です。

 

 

 

 

 

 

 


 

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