【ピアノ】映画「父と娘の歌」レビュー:音大を舞台にした父子の愛を描いた作品

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【ピアノ】映画「父と娘の歌」レビュー:音大を舞台にした父子の愛を描いた作品

► はじめに

 

音楽大学ピアノ科を目指す卓紘子(吉永小百合)と、かつてクラリネット奏者だった父・道一(宇野重吉)の物語。

音大入学後も、指の怪我や慣れない寮生活を克服しながら、最終的には父を再びオーケストラへと導き、その父が演奏するオーケストラと共にチャイコフスキー「ピアノ協奏曲 第1番 Op.23」を演奏します。

音楽を通じた親子の交流と成長を、押し付けがましくなく、音楽そのものの力で描いた感動作です。

 

・公開年:1965年(日本)
・監督:齋藤武市(1925-2011)
・音楽:小杉太一郎(1927-1976)
・ピアノ関連度:★★★★★

 

 

 

 

 

 

► 内容について

 

音楽用語解説:

状況内音楽
ストーリー内で実際にその場で流れている音楽。 例:ラジオから流れる音楽、誰かの演奏

状況外音楽
外的につけられた通常のBGMで、登場人物には聴こえていない音楽

 

‣ 本作における「状況内音楽」の魅力

 

本作では、通常の映画で多用される通常のBGM(状況外音楽)をあえて控え目に用い、特に冒頭約20分間はすべて劇中で実際に鳴っている「状況内音楽」のみで構成されています。

この20分間だけでも、実に6パターンの状況内音楽が用いられています:

・卓紘子が歌う、ショパン「ワルツ 第7番 Op.64-2」
・紘子と阿川が演奏するサラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」
・街中で流れる音楽
・紘子が託児アルバイトで訪問した先で聴こえてくるピアノ
・紘子がピアノで弾く「ひょっこりひょうたん島」
・紘子がピアノレッスンで弾く、ベートーヴェン「ピアノソナタ 第5番 Op.10-1 第3楽章」

 

通常のBGMが初めて登場するのは本編19分頃。それまでの音楽はすべて、主人公・紘子が実際に演奏したり、その場で聴こえているものばかりです。これにより、観客は紘子の生きる「音楽に満ちた世界」を追体験することができます。

 

‣ クラシックからポップスまで:多彩な音楽の饗宴

 

音楽大学を舞台にした本作ですが、クラシックピアノ音楽だけに留まらない幅広い使用楽曲が魅力です:

・紘子がピアノで弾く「ひょっこりひょうたん島」
・ダンスバンドによる、ノンクラシックの店内BGM演奏
・紘子がBGM演奏のバイト採用で演奏する、メンデルスゾーン「春の歌」のポピュラーアレンジ
・ヴァイオリン科の阿川がピアノを弾きながら歌う、ヴェルディ「乾杯の歌」
・ショパン「別れの曲」をオーケストラアレンジしたBGM
・紘子がいる女子寮で、みんなで歌われる「きよしこの夜」
・ラジオから聴こえてくるノンクラシック

この多様性こそが、紘子の音楽学生としての生活や成長と、社会で音楽を浴びる日々の両面を描き出しています。

 

‣ 心理を表現する演奏演出の妙技

 

本作で注目すべきは、演奏そのものが演技となっている点です。

クライマックスのチャイコフスキー「ピアノ協奏曲 第1番 Op.23」のリハーサルシーン。紘子が大きなミスをして演奏を止めてしまう場面では、ミスの箇所だけでなく、その前の部分からすでに演奏がぎこちなくなっているという細やかな演出が施されています。父親の励ましで持ち直した後は、同じ箇所が自然で伸びやかな演奏に変化します。

これはただのピアノ演奏技術的な違いではなく、紘子の心理状態を音楽そのもので表現した演出と考えていいでしょう。

 

► 終わりに

 

本作では、状況内音楽を効果的に用いることで、観客を紘子の音楽に満ちた世界へと引き込み、演奏そのものが心理描写となる演出によって、言葉以上に雄弁な感情表現を実現しています。クラシックからポップスまで多彩な楽曲を織り交ぜながら、音楽を学ぶ喜びと苦悩、そして父子の絆を丁寧に描き出した本作は、今も色褪せない魅力を持っています。

 

 

 

 

 

 

 


 

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