【ピアノ】カール・ツェルニー「若き娘への手紙」レビュー

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【ピアノ】カール・ツェルニー「若き娘への手紙」レビュー

► はじめに:タイトルに隠された意味

 

本書は、親しみやすい書簡体という形式をとりながら、基礎的な姿勢や運指から、表現法、さらには通奏低音や即興演奏といった内容まで扱った、ユニークなピアノ教本です。

「若き娘への手紙」というタイトルから、家族間の親密な手紙のやりとりを想像するかもしれません。しかし本書は、「田舎に住む12歳の少女へ」という架空の設定のもと、ツェルニーがピアノ指導を手紙形式で展開していく、ユニークな教則本です。ツェルニーは生涯独身で実の娘はおらず、この本の「娘」は架空の存在です。

 

なぜ、しばしば「実の娘」と誤解されるのか:

・文体が親密で感情的であるため、実の娘宛のように感じられる
・「親愛なるセシリア嬢」や「娘」といった表現が頻出する
・一部の翻訳や紹介文で誤って「実の娘」と説明された例がある

 

・出版社:全音楽譜出版社
・邦訳初版:1984年
・ページ数:83ページ
・対象レベル:初中級~中級者

 

・若き娘への手紙 著:カール・ツェルニー 訳:中村菊子、渡辺寿恵子 / 全音楽譜出版社

 



 

 

 

► 内容について

‣ 全10通の手紙で学ぶピアノ学習

 

本書は以下の構成で展開されます:

手紙一~六
レッスンの基本条件、タッチと音質、拍子と指使い、音楽表現、曲の練習法、曲選びなど、実践的なピアノ演奏のテーマ

手紙七~十
通奏低音、和音構成、即興演奏といった音楽理論を含む、演奏と創作を絡めた内容

 

後半では多少の譜例が登場するものの、全体としては具体的な楽曲を使った実例解説ではなく、各項目についての一般原則を説く形式となっています。ツェルニー自身が述べているように、「目標をより高く、学習時間を短く、練習を楽に」することが本書の目的なのです。

 

‣ ツェルニーが重視した「運指」の重要性

 

本書で注目すべき内容の一つは、運指に関する記述です。ツェルニーは自身の作品について「どの曲も記されている指使いを忠実に守って」と明言しており、運指を守ることと上達の関係を強く意識していたことが分かります。

現在でも運指に関する具体的な指導書は少ない中、ツェルニーが外すべきでない一般原則を示してくれている点は貴重です。ただし、特定の楽曲を用いた実践的指導ではなく、あくまで原則論であることは理解しておく必要があります。

 

‣「基本的なこと」の中にある大切な真理

 

12歳の初中級者に向けた内容であるため、中級者以上にとってはすでに知っている内容も多くあるかもしれません。しかし、それは軽視すべきことではありません。

当時はまだ教則本が現代ほど充実していなかったという時代背景を考えると、言葉で丁寧に説明する必要があったのは自然なことです。「基本的だけど大切なこと」を再認識する機会として読むことで、本書の価値が見えてきます。

 

‣ 実践的なアドバイスの数々

 

本書には、今日でも通用する具体的なアドバイスが散りばめられています:

レパートリーの維持について
ツェルニーは、過去に取り組んだ作品をレパートリーとして残すことを、いくつもの手紙で何度も強調しています。その理由も明確に述べられており、新しい曲を学びながら過去曲を維持する方法についても簡潔に説明されています。

日常練習の注意点
音符の分割のために声を出しながら練習することの問題点など、日頃の練習に関わる幅広い視点からの指摘があります。

演奏の実践知
少人数の前で急に演奏を頼まれたときにどんな曲を弾くべきか、またそれを暗譜しておくべき理由については、クスッと笑ってしまうような人間味あふれる記述が印象的です。

ペダリングの美学
ダンパーペダルの使い過ぎを「それはちょうど水にぬれた紙に書かれた文字を見るような不愉快な感じ」と表現した一節は、的確かつ詩的な表現です。

 

► 読む前に必読の「解説」

 

訳者による冒頭の「解説」は、必ず読んでから本文に進みましょう。ここには注意して読むべきポイントや、時代背景を理解するための重要な情報が記されています。19世紀と21世紀では、ピアノという楽器自体が異なることを念頭に置いて読み進めることが重要です。

 

► 終わりに

 

「若き娘への手紙」は、技術書に留まらず、ピアノ学習の本質を問いかける教育的エッセイです。1-2時間で読めるコンパクトな構成ながら内容は濃く、特に前半部分は何度も読み返す価値があると言えるでしょう。19世紀のピアノ教育者が残した言葉が、21世紀の今もなお新鮮なヒントを与えてくれます。

 

・若き娘への手紙 著:カール・ツェルニー 訳:中村菊子、渡辺寿恵子 / 全音楽譜出版社

 



 

 

 

 


 

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