【ピアノ】「新訂 ピアノの学習」レビュー:膨大なピアノ曲の簡潔な解説と15段階の難易度表記

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【ピアノ】「新訂 ピアノの学習」レビュー:膨大なピアノ曲の簡潔な解説と15段階の難易度表記

► はじめに

 

本記事では、「新訂 ピアノの学習」(長岡敏夫 著)を紹介します。この書籍は選曲に役立つ一冊であり、様々なピアノ曲の難易度や概略についての情報を手に入れることができます。

 

・出版社:音楽之友社
・初版:1972年
・ページ数:475ページ
・対象レベル:初級~上級者

 

・新訂 ピアノの学習 著:長岡敏夫 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

► 内容について

‣ 本書の特徴

 

この書籍は一般的な「テクニック本」ではありません。バロック時代から邦人作品も含む現代に至るまでの膨大なピアノ作品についての簡潔な解説と15段階の難易度を示した、百科事典的な一冊です。

ピアノ曲の百科事典的な書籍は他にもありますが、本書では:

・ 相当に細分化された難易度表記
・「ピアノの学習および演奏に関する諸問題」という有益な章

これらが収載されているのが大きな特徴です。

 

‣ 大人の独学者にとっての価値

 

1. 曲選びのガイド

ピアノ曲の百科事典的性格を持つことから、当然、曲選びのガイドとしての価値があります。独学者が最も悩むのが「次に何の曲を弾くべきか」という問題。本書の15段階難易度表示は、自分のレベルに合った曲を見つける際の頼れる指標となるでしょう。特に重要なのは、テクニックだけでなく「芸術的な密度」も考慮した難易度評価です。

 

以下、百科事典的な部分以外の「はじめに」や「ピアノの学習および演奏に関する諸問題」などの章におけるピックアップをしていきます。

 

2. ピアノ学習の本質に関する洞察

著者は「ピアノの学習を登山にたとえて」独自の視点を展開しています:

(以下、「はじめに」より抜粋)
ピアノの学習を登山にたとえてみればおもしろい。頂上に登るためにはいろいろな道がある。ただひとつの道にこだわっていてはならない。性急な人間はいきなり直登を試みる。しかしそれはスリルはあっても危険を伴う。ゆっくり登ろうとすればかなりの時間を要する。が、途中いろいろな景色を満喫することができる。
(抜粋終わり)

 

この比喩は、特に大人の独学者にとって考えさせられるものがあります。子供の頃から始める場合と異なり、大人は「急ぎたい」気持ちが強くなりがちですが、著者はそこに潜む落とし穴と、じっくり取り組むことの価値を教えてくれます。

 

3. 練習における具体的アドバイス

本書には、困難な箇所への対処法など、実践的なアドバイスが随所に散りばめられています:

(以下、「むずかしい箇所の練習」より抜粋)
しばらくその箇所の練習を中断してみること。いろいろな工夫をとらしてもなお克服が困難な時は、しばらく練習を中断し、他の曲の練習にとりかかったらよい。ひとつの困難な箇所にこだわりすぎることによって、精神的な負担が増大し、かえってひけなくなる場合も多いからである。
(抜粋終わり)

 

これは特に、完全主義に陥りがちな大人の学習者にとって心強いアドバイスです。

 

4. 本物の音楽への導き

著者は単に「上手に弾く」ことを超えた音楽の本質についても語っています:

(以下、「はじめに」より抜粋)
音楽というものは、一朝一夕に教師の命令に従っていて生まれるわけのものではない。芸術を学ぶということは、作品に感動する能力をもつことである。立派な作品の背後には、人生への深い洞察と美しいものへの共感がある。
(抜粋終わり)

 

これは特に、テクニカルな側面に囚われがちな独学者に、真の音楽性を忘れないよう促す貴重なメッセージです。

 

5. 原典版の重要性

楽譜選びの重要性についても言及されています:

(以下、「版の選択について」より抜粋)
学習者は、版の選択によっては思わぬまわり道をする場合だってありうるのである。われわれは、自分が使用している楽譜が、そのような版であるかを知ることが大切である。
(抜粋終わり)

 

独学者にとって、どの楽譜を選ぶかは指導者のアドバイスなしに決めなければならない重要な問題。本書はその判断の助けとなる情報を提供してくれます。

 

‣ 興味深いトピック:舞台恐怖症への対策

 

本書には、演奏不安(いわゆる「あがり」)への対策として意外なアドバイスが見られます:

(以下、「アガルということ」より抜粋)
練習する時はつねに人の前で演奏する気持でやれ、人の前で演奏する時はつねに練習するような気持でやれ、とよくいわれる言葉であるが、まずもっとも大切なことは、良い友をもつことであろう。
(抜粋終わり)

あがり対策が、「良い友をもつこと」というのが面白いですね。

 

さらに、カラヤンが若い頃に本番中に記憶の喪失を経験し、それ以来ヨーガの修業に打ち込んでいたという興味深いエピソードも紹介されています。

 

► 本書を使用するにあたっての注意点

 

1970年代当時の事典的情報:

上記の通り本書は、バロック時代から現代に至るまでの膨大なピアノ作品について、簡潔な解説と15段階の難易度を示した百科事典的な一冊です。ただし、1970年代に出版された本書には、当然ながらそれ以降に生まれた主要作品や新しい楽譜版などは含まれていません。

 

言葉の使用の紛らわしさ:

この書籍における「編曲」という言葉は、本当の意味での編曲の意味で使われているところと、原典版ではなく校訂者が入っている校訂版のことを言っているところがあるので、特に後者は間違えて捉えないように注意が必要です。

 

► おすすめの使用法

 

本書の最適な活用法は以下の通りです:

1. 「ピアノの学習および演奏に関する諸問題」の章を最初に全読する
2. それ以降は、ピアノ曲の簡単な解説と難易度を調べる辞書のように使う

 

► まとめ

 

特に心に留めておきたいのは、次の言葉でしょう:

(以下、抜粋)
1曲でも名作を完全にマスターすれば、金で買うことのできない、また、いかなる災害にも失われることのない貴重な財宝をもつことになる。ゲーテのいう “いそがず休まず” ということはピアノ学習者にとっては最良の格言である。
(抜粋終わり)

 

本書で見つけた一曲が将来の「貴重な財宝」になるかもしれません。この書籍を一つの参考として、学習を進めてみてください。

 

・新訂 ピアノの学習 著:長岡敏夫 / 音楽之友社

 

 

 

 

 

 


 

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