【ピアノ】「ピアノ演奏法講義」レビュー:レオニード・クロイツエルが説く演奏テクニック
► はじめに
本書は、1931年邦訳初版の古典的なピアノ教則本でありながら、現代のピアニストにもヒントを与える一冊。著名なピアニストの知見が詰まった本書は、実践的な指南書として位置づけられます。
・著者:レオニード・クロイツエル(レオニード・クロイツァー)
・訳者:笈田光吉
・出版社:芸術社出版部
・邦訳初版:1931年
・ページ数:本編 158ページ
・対象レベル:中級~上級者
著作権保護期間の満了により、「国立国会図書館デジタルコレクション」で全文を無料で閲覧できます。紙媒体での読書を好む方向けに「図書複製版」も入手可能です。
・図書複製版:ピアノ演奏法講義 著:レオニード・クロイツエル 訳:笈田光吉 / 芸術社出版部
► 本書の概要
第一部:テクニックの総合的講義
著者は、ピアノ演奏におけるテクニックを以下のような独自の視点から解説しています:
1. 演奏前のテクニック
・譜面を読んだ瞬間からテクニックは始まる
・楽譜の意味を素早く理解することが第一のテクニック
・その理解を適切な身体の動きへと変換することが第二のテクニック
2. 効率的な演奏技術の習得
・自転車の練習に例えられる習熟過程
・初期の無駄な動きから、経済的な力の使用への進化
・親指の特殊性と重要性(二つの骨の接合による力の集中の優位性)
3. 楽器との関係性
・楽器そのものを深く理解することの必要性
・テクニックと楽器の完全な支配の重要性
・芸術的効果を生み出すための基礎としての楽器理解
ペダリングについて:
・協和音、不協和音を問わず、ペダル使用の目的を常に意識することの重要性を説いている
楽譜の解釈について:
・楽譜を絶対的なものとして扱うことへの警鐘
・演奏者自身の音楽的知識に基づく判断の重要性
第二部:実践的演奏解説
以下の作曲家の作品を具体例として取り上げ、譜例とともに詳細な演奏指導を提供しています:
・J.S.バッハ
・モーツァルト
・ベートーヴェン
・ショパン
・リスト
► 長所と短所
本書の最大の課題は、現代の読者にとって非常に読みづらい訳文にあります。1931年の邦訳ということもあり、現代の日本語とは大きく異なる文体で書かれています。
古い訳文という大きな障壁はあるものの、本書の内容の多くは現代にも通用するもの。特に以下の点で高く評価できます:
・テクニックを単なる指の動きではなく、楽譜の理解から始まる総合的なプロセスとして捉える視点
・楽器との深い関係性構築の重要性の指摘
・実践的な演奏アドバイスと具体的な譜例の提示
・ペダリングや楽譜解釈における柔軟な考え方の提案
► おすすめの読者層
・中級以上のピアノ学習者
・ピアノ指導者
・古典的なピアノ教則本に興味のある音楽愛好家
・演奏技術の理論的背景を理解したい方
► 終わりに:学習のアプローチ
・著者の基本的な考え方を理解するつもりで、完璧主義にならず読んでいく
・難解な訳文は、現代の感覚で解釈しながら要点をつかめればOKくらいの感覚で読み解く
・特に関心のある項目や自身の課題に関連する部分を詳しく研究する
・実践的な演奏例は、実際にピアノで試しながら理解を深める
本書は、古典でありながら現代のピアノ学習者にも多くのヒントを与えてくれる教則本です。読みやすさという面での課題はありますが、著名なピアニストが残したその内容には一度目を通しておくべきでしょう。
・図書複製版:ピアノ演奏法講義 著:レオニード・クロイツエル 訳:笈田光吉 / 芸術社出版部
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