【ピアノ】ヴォイシングによる音色変化の分析:グリーグ「春に寄す」を例に
► はじめに
ピアノ演奏において、同じ和音でも配置や演奏方法によって全く異なる音色が生まれます。今回は、グリーグの「春に寄す op.43-6」を例に、特徴的な音色変化をもたらすヴォイシング技法について解説します。
► 音色を変えるヴォイシング:シアリングスタイル
‣ 楽曲分析:グリーグ「春に寄す」
グリーグ「抒情小品集 第3集 春に寄す op.43-6」
譜例(PD楽曲、Sibeliusで作成、楽曲全体)
グリーグの「春に寄す」には、特に印象的な響きを持つ部分があります。49小節目と51小節目の点線で囲んだ部分。この箇所では、オクターブで演奏されるメロディの間に和声音が巧みに配置されており、非常にゴージャスな響きを生み出しています。
要所のみで使われていることで、フッと色を変える効果が出ています。
この手法は「シアリングスタイル」と呼ばれ、ジャズピアニストのジョージ・シアリングが好んで用いたことから、この名称が付けられました。
オクターブのメロディを作り、そのオクターブの間に和声音を挟むヴォイシング。楽曲によってはオクターブのメロディが2オクターヴ以上になることもあります。
‣ 豊かな響きの秘密
(再掲)
このヴォイシング手法が生み出す魅力的な音色には、主に2つの理由があります:
1. 同時発音による音響効果
この譜例の部分では、点線で囲んだところ以外でも、メロディのオクターヴの間に和音が挟まっています。しかし、同じような音色効果はありません。
これは、ピアノという楽器が減衰楽器であることに理由があり、楽器の特性上、メロディと和音が同時発音された時に効果が高いのです。
2. 不協和音から協和音への解決
・49小節目:Eis-Fis(短2度)から解決
・51小節目:Ais-H(短2度)から解決
・これらの不協和音が協和音(3度)に解決することで、表情豊かな響きが生まれている
‣ 近現代音楽への影響
この手法は、印象派の作曲家ラヴェルなども好んで使用しました。「前奏曲(1913)」では、同様のヴォイシング技法を用いて色彩的な響きを作り出しています。
ラヴェル「前奏曲(1913)」
譜例(PD作品、Finaleで作成、10-15小節)
► まとめ
シアリングスタイルは、以下の要素を組み合わせることで独特の音色効果を生み出します:
・オクターブ間への和音配置
・同時発音による音響効果の最大化(ピアノのような減衰楽器の場合)
・不協和音から協和音への効果的な解決
楽曲理解を深めるためにも、実際の楽曲の中からこのヴォイシングを見抜く目を持っていてください。
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